第8話
冬理が3歳になった。
昨年、真は復職し、有希は育児休業を続けていたが、この春からは冬理の入園を機に短時間勤務で働くことになった。
待望の冬理の入園であった。
このころの子供の発育は目覚ましく、一日ちがえば大違いなほど毎日の成長が著しく、特に冬理に至ってはすでに身長98㎝・体重14.7kgに育っていて平均かそれ以上の体格はある。
平仮名はなんとか読めるようになり、計算も一桁の足し算が何となくわかってるのかと親が思うくらいには答えてくれる。
昨今は幼稚園、保育園に待機児童などという言葉は存在せず、大体は事前の予約に基づき希望した幼稚園、保育園に問題なく入園できる。
ひと時に比べ児童数が減ったことも要因ではあるが、徹底的な管理が功を奏していた。
その入園式。冬理の左手を真が、右手を有希がそれぞれ繋ぎ3人が並んで、時に冬理がその両手にぶら下がるようにしながら、幼稚園の門をくぐる。
門には、保育士と園児が作ったのだろう風船や紙の花が貼られ、祝祭の雰囲気を一層盛り上げていた。
門をくぐれば、円の建物の前に受付が設けられており、入園者親子はそこで名簿を確認し、シンプルな花が付いたリボンを渡されて、それぞれ胸や腰のあたりに取り付けてゆく。
真と有希も受付の保育士に名前を告げると、冬理の名を探して名簿を覗き込む。
「ありました。これですね。」
保育士は名簿で『新居屋』の欄を指で辿り、冬理と目を合わせて
『こんにちは、新居屋冬理くん』と呼びかけた。
冬理は保育士の呼びかけに、握った手に少し力が入り照れている様子の中、
有希の後ろに隠れ気味になりながらも
「こんにちは」と、笑顔で返していた。
「では、冬理君は、『ぞうさん組』でーす。」
保育士さんは冬理にそう言った後、真と有希に向き合うと、
「通園はバスですね。こちらがバスの経路図と時刻表です。」
そうして保育士はもう一度名簿に目を落とすと、名前の前の記号を確認する。
(新居屋さんは……A、ですね。)
保育士は“A”の文字を確認すると記入欄にチェックを施しながら
「あちらで必要なものがそろいますのでお子様と一緒に向かってください。式は10時からですので、45分には会場までお越しください。」
簡単な説明を終えると、真らの後ろに目線を向ける。いつの間にか列ができつつある。
一瞬躊躇した真だが、
「あの、すみませんがこのA・B・Cは何ですか?」
その問いかけに保育士は
「あー、このABCですか?これは名簿が送られてくるときに既についていて、……」
そう答えながら、保育士は真の後ろに並ぶ人へ目で『すみませんお待ちください』と合図しつつ
「確かAはカード保持者でBは準カード保持者、いわゆる児童養護施設や養子縁組の子です。Cは普段いないんでよく分からないんですが……」
と答えながら、今回の名簿を保育士は思い出していた
(あ、今回いたっけ? 橘 春哉……どんな子だろう……?)
「そうでしたか。ありがとうございます。」
真は時間を取らせたことを悪いと思い、丁寧に頭を下げなら受付を離れ、準備品の受け取りへと向かった。




