第14話
車内での話題は、もっぱら凜さん一色であった。
普段からよほど相性がいいのか、仲の良さが知れる凜さんと春哉君の掛け合いは、車内で笑いが途切れることなく続き、その話から、春哉君の施設での暮らしぶりも十分想像ができた。
(親を亡くしたと聞いてるけど……傷にはなってないのかしら?)
そう思う有希の気持ちを吹き飛ばすような陽気な話題が車内で延々と続く。
冬理や琴葉ちゃんも一生懸命会話に参加して皆が笑顔で過ごしていた。その時までは……
「春ちゃんのママも、今日来ればよかったのに……」
琴葉の何気ない疑問から湧いたこの質問。車内の事情を知る大人たちは一瞬で顔が強張る。
「琴ちゃん、僕ね、パパもママも居ないんだよ。」
誠実に答える春哉の声にはなぜか悲しみの要素が含まれていない。
「僕のパパとママは僕が生まれた時からいないんだよ。」
大人の誰もが言葉を発せずにいる中、由香さんが口を開いた。
「春哉君。そういうことを言うものではありませんわ。」
由香さんの口調は、聞きようによっては淡々と、あるいは噛んで含むようにも聞こえた。
「でもね――」春君が続きを話そうとするのを由香さんの言葉が重なって発せられる。
「春哉君。もう今日はその話はやめましょう。皆が楽しみにしていたピクニックですよ。」
由香さんの声はどことなく、静かに響き、隣に座る琴葉もその由香の表情を黙って見つめていた。
「はい。」静かな春哉君の返事が深く車内に染み渡る。
「さあ、話題を変えましょう。今日の目的地はどこですか?」
由香さんからの質問に、真が場の空気を読んで精一杯張った声で対応する。
「今日の目的地は――宇宙科学公園でーす。」
その声に冬理と琴葉が真っ先に反応した、その公園は今子供たちの話題スポットとされている場所だからだ。
しばらくして、皆を乗せた車は目的の駐車場へと到着した。
公園内にそびえる大きなロケットを模した建造物はひときわ目を引く
真は駐車マスに車を入れるとサイドブレーキボタンを押し、エンジンを切る。
「さあ。。着いたぞ!」
その声に合わせて車のサイドのスライドドアが開いて行く。
「いっちばーん!」勢い良く飛び降りたのは春哉君。
それに続くように琴葉ちゃんが飛び降りる「にばーん」
「あれ、あれ?」冬理のシートベルトが引っ掛かったようでうまく外れない様子。
次いで、由香さんが車外に出て、凜さんが降りる。有希は冬理のシートベルトと格闘中
真も車から降り、車の前方を通ってふたりの保護者の方へと歩き出しながら、
「冬理のベルトはまだ外れないのか?」と疑問の声
由香と凜がその声に車内に目を向けた。
「あれ、すごいね。」車外では琴葉ちゃんが例のロケットに興味津々となり走り出した。
「だめだって!」制止しようとする春哉の声に従わずそのまま走る琴葉
春哉もたまらず追いかける「琴ちゃんだめ!」
由香と凜がその声に振り向くと視界に迫る車。決して速くはないが子供達には気づいておらず、
周囲を見回し駐車マスを探している。
「いけません!。」
声と同時に由香が走り出した。凜もその後を追う。
由香の発した声に琴葉が振り向き立ち止まる。
そこへ追いつく春哉。
ふたりの影が車に重なりそうになった時由香も追い付いた。
バキッツ!!
車のフロントと地面に挟まれるかたちで由香の左足があらぬ方向に曲がる。
ここで運転手も気付きブレーキが踏まれるが車は容赦なくその間も進み琴葉と春哉を飲み込むように乗り上げたように見えた。
「春哉―ッ!!」
凛の絶叫が響く。
由香さんが二人の盾になっていた。
無残に折れた左足――
車に乗り上げられた左半身――
右ひじをしっかりと地面に落としわずかに作った空間に、琴葉と春哉は横たわっていた。




