第12話
「バイバーイ」
元気な声を残して、琴葉ちゃんは由香さんに手を引かれて帰って行った。
「それじゃ、私達も帰りましょうか?」
つないだ冬理の手をちょっと引くようにして、注意を引くと有希は冬理に言った。
「はい!」
遠くまで響くような声で返事をする冬理は、きっと幼稚園でも元気いっぱいなんだろう。
毎日の連絡帳にはそんな元気一杯のやんちゃぶりが、先生によって書き記されて、時折り春哉君の名前も一緒にかかれている。
どうやら、仲良く一緒にやんちゃしていると容易に想像ができる。
「今日ね、春ちゃんと一杯追いかけっこしたよ。」
冬理から笑顔いっぱいにそんな報告を受ける。
(きっと、また連絡帳には元気な冬理君ですって書かれてるんだろうなぁ……)
そう思い、思わず苦笑する有希であった。
「そう、でも狭い所や廊下は走ったりしたら危ないからね。友達とぶつかると怪我するから気を付けてよ。」
言うだけ無駄かなとは思いつつも、言わずにおけない有希である。
「うん、大丈夫。追いかけっこは外だけだから。」
「お外でも、一緒よ。ちゃんと気を付けないと転んだりして怪我するよ。」
「はい!」
家でも聞き分けがよく、言えばしっかりと理解してくれる。けれどまだ、4歳児その理解のほどは分からない。
「春ちゃんから聞いたけど……」
「ん、どうしたの?」
言いにくそうな様子の冬理を促すように有希はやさしく聞き返す。
「今度パパがお休みの日に、春ちゃんも一緒にピクニックに行きたい。」
「あら、それは良いわね。」
有希は純粋にそう思った。ただ…
「春ちゃんのおうちの人は、大丈夫かな?」
有希は春哉が施設に居ることは分かっていたが、さすがに冬理の前で施設とは言いだしにくい。
「春ちゃんもね。大人の人に聞くって言ってた。」
(ふふ、もう二人の仲では決定事項じゃない……)
「そう、じゃあお母さんからも春ちゃんのところにお話ししとかないとね。」
「うん。楽しみだなぁ‥‥‥パパの休みはいつかなぁ?」
もう冬理の頭の中は春哉と一緒にハイキングに行くことで一杯に違いない。
その時ふと冬理の顔が、琴葉ちゃんの帰って行った方角に向いた。
「ねぇ、ママ?琴ちゃんもお誘いしたらだめかなぁ……」
「うん、そうねぇ」
(ちょっと苦手な人なのよね……琴葉ちゃんのママ。悪い人じゃないんだけど……)
有希の中にそんな感情が一瞬よぎる。
(由香さん何を考えてるのか分からないところがあるし、でも逆にいい機会になるかも……)
そう考えなおして、冬理に笑みを返しながら、
「琴葉ちゃんのママにもお願いしてみるね」
「やったー!!」
冬理の飛び上がらんばかりの喜びように、真っ直ぐな気持ちの表現を見せられ、有希は些細なことに振り回されている自分を思って苦笑するしかなかった。
「今日、冬理からお願いされたんだけど、次の休みにピクニックに行かない?」
冬理を寝かしつけたあと、日課となった専用ページの書き込みをしている真に声を掛ける。
「え、そりゃまた急だな……で、行きたいところは決まってるの?」
驚いたような顔をしながらも、真は壁に貼ったカレンダーで日程を確認しつつ前向きな表情で有希に応える。
「ううん、それもまだ。それより先に冬理は春哉君と、西田さん所の琴葉ちゃんも一緒したいんでって」
近所の家々を思い返しながら、自身の記憶と結び付けていく。
「西田……さん?……あぁ、春先に越してきた人かぁ。」
「そうよ。通園バスが一緒だから、冬理も仲良くなったみたいで。」
「へぇ、4歳でもうガールフレンドをお誘いかい?そりゃ、琴葉ちゃんだっけ?のお父さんも心配だなぁ」
真はそう言いながらハハハと声を出して笑った。
(まあ、私の父もあなたが心配の種でしたけどね。フフッ)
「今のところ、土日なら俺は大丈夫。先方さんとの話は有希に任せていいかな?」
「私も由香さんとよくわかりあう機会だと考えててね。」
「そう?それじゃお願いするよ。……場所は、こっちで考えとくよ。」




