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ガラスの靴をご所望ですか?  作者: 夢幻
ガラスの靴はもういらない

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15/30

15

 アルノー家の屋敷へ戻る道のりが、やけに短く感じた。

 玄関から応接間に向かいながら、レイナルドは何度も手のひらをズボンで拭う。汗ばんでいる。


「そんなに緊張しなくても」


 先を行くレオンが振り返って笑う。


「しますよ…」


「大丈夫大丈夫、父上も母上も人は食べない」


「さっきも聞きましたけど全然安心できないです」


「主に母上が食いつくくらいかな」


「余計怖い!」


 隣を歩くマルタは無表情のままだ。


「兄上、面白がらないでください」


「いやあ、だって君が他人を連れて実家紹介なんて一生ないと思ってたから」


「紹介ではありません」


「攫ってきた」


「語弊があります」


「そうかなあ?」


 軽口を叩く兄妹の横で、レイナルドだけ胃がきりきりしていた。

 伯爵夫妻。本物の貴族。しかもマルタの両親。

 娘が得体の知れない男を連れ込んできたのだ。まともな顔をされるはずがない。いや、そもそも自分はグランヴィル家の厄介事そのものだ。迷惑がられて当然だろう。


「着いたよ」


 レオンが両開きの扉を押し開けた。

 応接間は明るかった。暖炉に火が入り、中央の卓にはすでに茶器と菓子が並んでいる。


 そして、その奥。

 黒髪をきっちり撫でつけた壮年の男が、肘掛け椅子に座っていた。背筋はぴんと伸び、表情は硬い。いかにも厳格そうな顔立ちで、こちらをじろりと一瞥する。


「……来たか」


 低い一言。

 レイナルドの背中がしゃんと固まった。


(終わった)


 反射でそう思った瞬間、


「まあああああ!」


 横から甲高い声が飛んできた。


「この子がレイナルドさん!? あらまあ細い!顔色が悪い!ちゃんと眠れた!?」


 勢いよく駆け寄ってきた婦人に両手を掴まれる。


「え、あ、はい?」


 目を白黒させる。

 柔らかな栗色の髪をふわりと結い上げた、華やかな美人だった。年齢はマルタの母にしては若く見えるが、とにかくよく喋る。


「手も冷たいじゃない。マルグリット、この子にお昼何を食べさせていたの」


「パンとスープです」


「パンとスープだけ!?」


「工房なので」


「工房でももっとあるでしょう!」


「母上、うるさいです」


「うるさくありません!貴女がやっと人を連れてきたんですよ!?」


 レイナルドは掴まれたまま瞬きを繰り返した。

 何だこの人たち。

 想像していた糾弾も詮索も一向に始まらない。


「ええと……」


 恐る恐る声を出す。


「僕、あの、その……」


「あらやだ立たせたままだわ。座って座って!」


 有無を言わせずソファへ押し込まれた。


「私はエレノア・アルノー。マルグリットの母です。よろしくね」


「は、はあ……お世話になっております」


「いいのよ」


 にっこり。


「レオンから聞いたもの。大変だったわねえ」


 あまりに自然に言われて、レイナルドは返事を失った。

 大変だった。

 そんな一言で済ませていい話ではないはずなのに、責めるでも哀れむでもなく、ただ当然のように受け止められて、胸の奥が妙にむず痒い。

 ヴァンス・アルノーだ、と短く名乗った壮年の男は、レイナルドをじっと見た。


 その視線だけで背筋が伸びる。


「客室は東棟の二階を使え。服は三着ほど見繕わせた。靴棚も空けてある」


「……え」


 反応が遅れた。


 何を言われたのか理解するまで数拍かかる。


「医者も呼べる」


「い、いえ、あの」


「夕食は歓迎の席にする」


 歓迎。


 その単語が頭の中でひっくり返る。


 歓迎?


 誰を?


 自分を?


 レイナルドはぱちぱちと瞬きを繰り返した。

 ヴァンスの隣でエレノアがぱっと顔を輝かせる。


「そうそう、それでねあなた、食べられないものはある?好きなお菓子は?お魚は白身がいいかしら、それともお肉の方が」


「は、はあ……」


 返事が情けないほど間抜けになる。


 そんなことを聞かれると思っていなかった。何を答えるのが正解なのかも分からない。


 レオンが後ろを向いて肩を震わせているのが視界の端に入ったが、今はそれを気にする余裕もない。


「母上、質問が多いです」


 マルタが淡々と口を挟む。


「この人処理しきれてません」


「あらそう?」


 そう、ではない。

 処理しきれていないどころか、ほとんど思考が止まっている。


 ヴァンスが低く咳払いをした。


「……グランヴィル家には手出しさせん」


 その一言で、室内の空気が少しだけ落ち着いた。

 レイナルドは思わず顔を上げる。


「今の君をあの家へ返すつもりはない」


 淡々としているのに、有無を言わせない声音だった。


 返すつもりはない。


 その言葉に胸の奥がひどくざわつく。

 安心したいのか、怯えたいのか、自分でも分からない。


「しばらくここにいなさい」


 エレノアが柔らかく続ける。


「事情もあるし、身体も立て直さなきゃ。顔色が悪すぎるわ」


「……ご迷惑では」


 ようやく絞り出せたのは、それだけだった。

 エレノアはきょとんとする。


「迷惑?」


 隣でヴァンスが眉を寄せた。


「何が」


「え……」


 何が、と聞き返されてレイナルドの方が詰まる。


 迷惑ではないのか。得体の知れない厄介事を抱え込むのに。娘が勝手に連れ帰った男なのに。

 そんなもの、迷惑に決まっていると思っていた。


 だが二人とも本気で意味が分からない顔をしている。

 エレノアがふっと表情を和らげた。


「マルグリットが連れてきたんですもの」


 その言い方が、あまりに当然で。


「放り出せるわけないでしょう?」


 レイナルドは言葉を失った。


 放り出されない。


 そんな前提で話をされることが、ひどく不思議だった。胸の奥のどこかがじわじわ熱くなる。だがそれが何なのか考える前に。

 ぐうう、と間抜けな音が鳴った。


 沈黙。


 レイナルドは硬直した。

 腹だ。自分の腹が鳴った。


「……」


 死にたい。耳まで熱くなるのが分かる。

 エレノアがあらまあ、と声を上げ、レオンはとうとう吹き出した。


「やっぱり足りてないじゃない!」


 ヴァンスは即座に扉の外へ視線を向ける。


「昼を追加しろ」


 使用人が一礼して消える。

 レイナルドは止めることもできず、ただ呆然とそのやり取りを見ていた。


「甘いものも出してちょうだい。若い子は糖分が必要よね」


「はい、奥様」


「い、いえ、その、そんな」


 遠慮の言葉を口にしたいが、勢いに押されて自分でも分かるほど弱々しい。

 エレノアはにこにこしたまま手を振る。


「遠慮しなくていいの。歓迎会みたいなものだもの」


 みたいなもの、ではなく完全にそうではないか。そう思ったが、口には出せない。


 レイナルドは助けを求めるようにちらりとマルタを見た。

 マルタは紅茶を飲みながら平然としている。止める気はないらしい。それどころか、その口元がほんの少しだけ緩んで見えた。


 自分だけが取り残されている。


 その事実にくらくらしながら、レイナルドは小さく息を吐いた。


 怒られない。責められない。追い返されない。


 代わりに出てくるのは、食事と服と客室の話ばかりだ。


 何なんだ、この家は。


 本当に分からない。


 けれど─


 分からないままここにいてもいいと、そう言われている気がした。





     ◇◇◇





 昼食だの菓子だのが次々運び込まれ、エレノアの質問攻めはその後もしばらく続いた。


 好きな色は。紅茶は飲めるか。寝具は硬い方がいいか柔らかい方がいいか。刺繍入りのハンカチは使うか使わないか。


 途中からレイナルドは、何を答えたのかほとんど覚えていない。


 相槌を打ち、勧められるまま皿の上のものを口に運び、気づけば満腹になっていた。


「では、ひとまず休ませてあげましょう」


 ようやくエレノアが満足げに立ち上がる。


「午後は仕立て屋も呼ばなきゃね」


「呼ばなくていいです」


「呼ぶわ」


 思わず出た声も、にっこりと一蹴された。

 ヴァンスも頷く。


「必要だ」


 必要らしい。

 何もかも決定事項で進んでいくこの家に、レイナルドはもう反論する気力もなかった。


 応接間を出ると、扉が閉まった途端にどっと肩の力が抜けた。


「……はぁ……」


 思わず壁に手をつく。


 息を止めていたわけでもないのに、まともに呼吸をしていなかった気がする。


「大丈夫ですか」


 隣から平坦な声が飛ぶ。


 顔を上げると、マルタがこちらを見ていた。


「大丈夫に見えます?」


「見えませんね」


「でしょうね……」


 膝から崩れ落ちそうなのを何とか堪え、レイナルドは額を押さえた。


「何なんですか、あのご両親……」


「いつものことです」


 いつものこと、で済ませるなと言いたい。だが叫ぶ元気もない。

 レイナルドはしばらく廊下の絨毯を見つめ、それからぼそりと呟いた。


「……追い出されるかと思ってた」


 マルタが瞬いた。


「は?」


「だって……」


 言いかけて口ごもる。

 言葉にするとひどく惨めな気がした。


 厄介者だと思われる。迷惑がられる。娘が勝手に連れ込んだ得体の知れない男など、困るに決まっている。


 それが普通だと、昨夜まで本気で思っていた。


「……普通、嫌でしょう。こんなの」


 こんなの。

 自分で言ってしまって、喉が少し詰まる。


 マルタは数秒黙り、それから淡々と返した。


「そんなことありません」


「え」


「私が連れてきたので」


 何の説明にもなっていないのに、妙に真面目な声だった。


 レイナルドが呆けていると、マルタは少しだけ視線を逸らす。


「それに、うちは拾ったものは割と離しません」


「拾ったもの扱い……」


「嫌ですか」


「……嫌とは」


 言えない。


 拾われた、という表現はどうかと思うが、放り出されるよりずっといい。


 その答えにマルタは小さく頷いた。


「なら慣れてください」


「慣れるには濃すぎません?」


「兄上と母上は特に」


「アルノー伯爵も十分濃かったですよ」


 低い声で客室は東棟だの夕食は歓迎の席だの告げてきた無愛想な伯爵を思い出し、レイナルドは遠い目になる。


 マルタは珍しくふっと息を漏らした。


「父上は歓迎してます」


「無表情すぎて分からない」


「昨夜、客室の家具の配置が気に入らないと言って使用人を起こしてました」


「え」


「服も父上が選ばせてます」


「ええ……」


 想像できない。


 あの無愛想な伯爵が、深夜に客室の準備を指図している姿など。


「……何でそこまで」


 ぽつりと漏らす。


 マルタは少し考えるように黙ってから、肩をすくめた。


「娘が初めて連れてきたまともな人間だからでは」


「その言い方やめてもらえます?」


「父上談です」


「お父様にもやめてほしい」


 ようやく少しだけ笑いが混じる。


 するとマルタはその顔を見て、ほんのわずか目を細めた。


「そのくらいの顔をしていてください」


「……え?」


「さっきまで死にそうでした」


「死にそうでしたよ実際」


「でしょうね」


 あっさり肯定される

 だが嫌味のない声音だった。


 レイナルドは力なく壁から背を離した。


 まだ何も解決していない。グランヴィル家のことも、自分の立場も、先のことも分からない。

 それでも、この家の廊下に立っている今だけは、不思議と昨夜ほど息苦しくなかった。


 マルタがくるりと踵を返す。


「では」


「え、どこへ」


「工房です」


「戻るんですか!?」


「仕事があるので」


 当然のように言われ、レイナルドは目を丸くした。


「いや、あの、さっきあんな騒ぎだったのに?」


「だからこそです。注文は待ってくれません」


 さすが職人、ぶれない。

 呆気にとられていると、マルタは数歩先で振り返った。


「あなたも来ますか」


「僕も?」


「家で母上に捕まって仕立て屋とお茶会でもしたいなら止めませんが」


 ぞっとした。勿論即答する。


「行きます」


「でしょうね」


 マルタは満足そうでもなく、ただ当然のように頷いた。


 その背を追いながら、レイナルドは胸の奥にほんの少しだけ灯るものを感じていた。


 工房。


 あの狭くて革の匂いのする場所。


 今はそこが、妙に恋しかった。




     ◇◇◇





 工房へ戻ると、革と木の匂いが鼻をついた。


 見慣れた狭さ。散らばる道具。作業台の上には、中断したままの靴が置かれている。


「……何か、こっちの方が落ち着きます」


 思わず漏らすと、マルタは工具箱を開けながら頷いた。


「家は広いので」


「広いとかそういう問題じゃない気がしますけど」


 返事はない。すでに仕事に意識が戻っているらしい。

 レイナルドも留め具の仕分けを始めた。それが終わったら言われるがままに箱を運び、釘を並べ、切れ端を拾う。単純な手伝いばかりだが、黙々と手を動かしていると先ほどまでの胃の痛みが少し薄れた。


 マルタも余計なことは言わない。


 時折「そっち」「違います」「それです」くらいの指示だけ飛んでくる。その素っ気なさが妙にありがたかった。


 しばらくして、マルタが作業台の引き出しを開け、眉をひそめた。


「……釘がありません」


「え」


「革紐も残り少ないですね」


 棚を確認し、ため息をつく。


「昨日の注文分で思ったより減っていました」


 マルタは小袋を取り出し、レイナルドへ差し出した。


「買いに行きます」


「僕も?」


「場所を覚えてもらいます」


 覚える必要があるのかと思ったが、逆らう暇もなく外へ連れ出された。




     ◇◇◇





 昼の通りは朝より人が多かった。


 石畳を行き交う荷車。店先で声を張る商人。職人たちの笑い声。マルタは慣れた足取りでずんずん進むが、レイナルドはどうにも周囲の視線が気になって仕方ない。


「遅いです」


「早いんですよあなたが……」


「もっと大股で」


「急に言われても」


 ぶつぶつ言いながら後を追う。

 金物屋へ入ると、屈強な店主が顔を上げた。


「おう、マルタちゃん。王宮で駆け落ち騒ぎがあったって聞いたかい?」


「そうなんですね。それより釘をください」


「つれないねえ」


 店主の視線が、ふとレイナルドへ移る。


「で、こっちの綺麗な兄ちゃんは誰だ?」


「助手です」


「助手?そりゃいいな」


 店主はにやにやしながらレイナルドを眺め回した。


「だが何だなあ」


 嫌な間が空く。


「男にしちゃえらい女々しい歩き方してたな」


「ぶっ」


 盛大にむせた。


「所作も丁寧、坊ちゃん育ちか?」


「……」


 何も言い返せない。おかしい、正真正銘の貴族令嬢のはずのマルタよりも女々しいとか丁寧と思われるとは。

 横でマルタが平然と釘の袋を受け取っているのが腹立たしい。


「ほら兄ちゃん、荷物持ってやれ」


 ぽい、と小包を渡され、反射で両腕に抱え込む。その瞬間、店主が吹き出した。


「だからそういう抱え方が娘っこなんだって!」


 かあっと顔が熱くなる。


「……っ」


 頭では分かっている。女装していたのだから、染みついた癖があるのは当たり前だ。

 だが他人に笑われると、想像以上に堪えた。


 マルタは何も言わず店を出る。レイナルドは俯いたままその後を追った。

 


 次の革紐屋でも似たようなものだった。


「おや、恋人連れかい?」


「違います」

「違います!」


「息ぴったりだな」


「全然嬉しくない……」


 さらに通りすがりの荷運び職人に肩を避けそこねて、


「兄ちゃん腰引けてるぞ、もっとどんと歩け!」


 と笑われる。


 そのたびにじわじわ心が削られていった。





     ◇◇◇

  




 工房へ戻るころには、レイナルドはすっかり無口になっていた。

 買ってきた袋を作業台へ置く。


「……どうぞ」


「ありがとうございます」


 マルタはいつも通り受け取り、釘を棚へしまう。


 沈黙。


 革を打つ音だけが響く。

 やがて、マルタがぽつりと言った。


「言われてましたね」


「聞いてましたよね!?」


「聞こえる距離でしたので」


「最悪だ……」


 思わず机に突っ伏す。

 顔が熱い。今さらになって恥ずかしさが押し寄せる。


「そんなに落ち込むことですか」


「落ち込みますよ!」


 がばりと顔を上げる。


「何ですか女々しいって!僕だって好きでこうなったわけじゃ」


 言いかけて止まる。

 好きでこうなったわけじゃない。

 その通りだ。だが、そう言い切ってしまうと何だか余計惨めだった。


 マルタは金槌を置いた。


「……まあ」


「何です」


「髪を切っただけでは足りなかった、ということです」


 ぐさり。

 正論が刺さる。


 レイナルドは再び机に額を打ちつけた。


「うう……」


「まぁ、なんとかなりますよ」


「無責任な」


「大丈夫ですって」


 兄上がいますから、とマルタは内心ひとりごちた。





     ◇◇◇





 その夜。


 歓迎と称して妙に豪華な食卓が整えられ、エレノアは相変わらず張り切り、ヴァンスは無言で料理を増やし、レオンは面白そうにワインを傾けていた。


「それで、兄上」


 食後の紅茶を飲みながら、マルタがさらりと言う。


「今日この人、外で女々しい兄ちゃんと言われていました」


「言わなくていいでしょう!?」


 レイナルドが椅子から半分立ち上がる。

 レオンが盛大に吹き出した。


「ははははは!そんなこと言われたのか!」


「笑い事じゃないです…」


「いやあ失礼、そうじゃないかと思ってはいたんだが」


 涙を拭いながらレオンはレイナルドを眺める。


「なるほどねえ。髪を切った程度じゃ、硝子の靴の娘は消えないか」


 レイナルドはぐったり項垂れた。もうその呼び名を聞くだけで恥ずかしい。


 レオンはにっこり笑う。


「よし、決めた」


 嫌な予感しかしない。


「明日から特訓だ」


「……特訓?」


「歩き方、立ち方、荷物の持ち方、声、視線。全部」


 指を折りながら数え上げ、レオンは楽しげに片眉を上げた。


「グランヴィル家に見つかる前に──硝子の靴の娘の痕跡を、跡形もなく消してあげよう」


 その宣言に、マルタが静かに頷く。


「必要ですね」


「大分乗り気ですね!?」


 逃げ場がない。


 レイナルドは助けを求めるようにエレノアを見るが、エレノアは嬉しそうに手を叩いた。


「まあ素敵、改造計画ね!」


 ヴァンスまで低く一言。


「頼んだぞ」


 満場一致だった。

 レイナルドは頭を抱える。

 確かにありがたいが、どうしてこうなったのか。


 だがアルノー家の面々はすでに明日の予定を勝手に決め始めている。


 その賑やかな声を聞きながら、レイナルドは深々とため息をついた。


 ──どうやら、本当に逃げられないらしい。




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