第11話全国ツアー、月9ドラマ
国民的ドラマのヒロインとして、その名を全国に轟かせたゆずき。連日の多忙なスケジュールをこなしながらも、彼女の心の中には常に「歌」への情熱が燃え続けていた。そんなある日、エイジアプロモーションの社長室で、ゆずきはこれまでの女優業とは異なる、新たな挑戦への打診を受けることとなる。
「ゆずきちゃん」
社長はいつになく真剣な表情で、ゆずきを見据えた。
「先日、ミュージシャンのponziさんから楽曲提供の申し出があったように、キミのシンガーとしての才能はずば抜けたものがある。ここいらで、シンガーとして全国ツアーをやってみる気はないか?名古屋、大阪、広島、福岡、新潟、仙台、札幌と回って、最後は東京ドーム公演で幕を閉じる」
社長の言葉に、ゆずきの胸は高鳴った。全国ツアー。そして、夢の東京ドーム公演。それは、アイドルとして活動を始めた頃からの、漠然とした憧れだった。しかし、女優業が軌道に乗り始めた今、再びシンガーとしての活動を本格化させることへの戸惑いも少なからずあった。
社長は、そんなゆずきの心中を見透かすように、言葉を続けた。
「わたしはゆずきちゃんを見ていると、平成の元気があった頃の日本の歌姫たち、浜崎あゆみさんや安室奈美恵さんを思い出すよ。そう、ゆずきは令和の歌姫だ」
その言葉は、ゆずきの心を強く揺さぶった。尊敬する偉大なアーティストたちの名を挙げられ、自分がその系譜に連なると言われたこと。それは、これまでの地道な努力が認められた証のように感じられた。
「今までリリースしたキミの楽曲は10曲ある。それに加えて、ponziさんから6曲ほど楽曲提供を新たに受けた。全16曲で、ゆずきちゃんの全国ツアーを展開したい」
社長は、具体的に計画を提示した。
ponziさんから新たに提供されたのは、「今を生きる」「ウソ」「ノアの方舟」「ふたり」「偽善者」「恋するということ」の6曲。これまでにゆずきがリリースしてきた曲は、「キミにマジリプ」「愛するということ」「ラブフィロソファー」「DM」「イナッフ」「キャンセルカルチャー」「お金では買えないもの」「ラストラブ」「利他的な遺伝子」「渋谷シンデレラストーリー」の10曲だ。合計16曲。
どの曲も、ゆずきにとっては大切な「自分の歌」だった。特にponziさんの新曲のタイトルには、どこか心を揺さぶられる響きがあった。
そして、社長はさらに驚くべき発表をした。
「今回、ponziさんから提供を受けた『今を生きる』と『ウソ』は、夏の月9の新ドラマ『リスクを負った恋』の主題歌に内定している。『リスクを負った恋』は当然、ゆずきちゃん主演だ。恋人役は人気絶頂の若手イケメン俳優のカイトくんだ。これは当たると思う。というか、純粋に設定が面白い」
月9ドラマ主演。しかも主題歌も担当。そして、その主題歌はponziさんの書き下ろし。さらに、相手役は人気俳優のカイト。あまりにも大きなチャンスの連続に、ゆずきはただただ圧倒された。歌姫としての全国ツアーと、女優としての月9ドラマ主演。一つの夢が現実になったと思えば、次々と新たな、そしてより大きな夢への扉が開かれていく。まさに、ランウェイを駆け上がるかのような怒涛の日々だった。
「はい!やらせていただきます!」
迷いはなかった。これまでの経験が、ゆずきを強くしていた。TGCでの成功、朝ドラでの挫折と再起、そしてponziさんとの出会い。全てが、この瞬間のための布石だったように思えた。
「全力で、歌います!演じます!」
ゆずきの瞳は、希望と決意に満ち溢れていた。社長も満足げに頷き、その頬には温かい笑みが浮かんでいた。
そこからのゆずきのスケジュールは、想像を絶するものとなった。午前中は月9ドラマの撮影現場で演技に没頭し、午後はレコーディングスタジオで新曲の歌入れ、そして夜は全国ツアーのリハーサル。睡眠時間は削られ、疲労は蓄積していく。それでも、ゆずきは一度も弱音を吐かなかった。
月9ドラマ「リスクを負った恋」は、まさに話題の中心となった。ゆずきとカイトが織りなすスリリングで切ないラブストーリーは、放送初回から視聴者の心を掴んだ。ゆずきの演技は回を追うごとに深みを増し、女優としての評価を不動のものにした。そして、ドラマを彩る主題歌「今を生きる」と挿入歌「ウソ」は、ドラマの世界観と見事に融合し、多くの人々の心に響いた。
一方、並行して準備が進められた全国ツアーも、チケットは発売と同時に即完売。各地の会場は、ゆずきの歌声を心待ちにするファンで埋め尽くされた。ステージに立つゆずきは、まさに「令和の歌姫」の名に相応しい輝きを放っていた。パワフルな歌声で観客を魅了し、感情豊かな表現力で聴衆を惹きつけた。
愛媛の片田舎から飛び出し、幾多の困難を乗り越え、国民的スターへと上り詰めたゆずき。彼女は今、女優として、そしてシンガーとして、日本のエンターテイメント界の頂点を目指し、そのランウェイを力強く駆け上がっていた。しかし、栄光の道のりはまだ終わらない。この先、彼女にはどんな「リスク」と「恋」が待ち受けているのだろうか。東京ドームのその先へ、ゆずきの「青い野心」は、さらなる高みへと羽ばたいていく。




