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第12話月9ドラマ「リスクを負った恋」

 国民的ドラマのヒロインとして、その名を全国に轟かせたゆずきは、今、人生で最も多忙な時期を迎えていた。人気絶頂のイケメン俳優カイトとの共演が話題の月9ドラマ「リスクを負った恋」の撮影。そして、シンガーとしての全国ツアーに向けた、ponziさん提供の新曲のレコーディング。全てが同時に進行し、分刻みのスケジュールに追われる日々だった。しかし、ゆずきはこれら一つ一つの経験を、自身の成長の糧として前向きに受け止めていた。

 「今を生きる」:普遍的な問いかけを歌に乗せて

 レコーディングスタジオに響くのは、ゆずきの透明感あふれる歌声だ。ponziさんから新たに提供された楽曲の主題歌「今を生きる」は、哲学的で深遠な歌詞と、力強いメロディが印象的なナンバーだった。

 ゆずきは歌詞を読み込み、その真意を掴もうと集中した。

「わたしは誰かに何かを与えたり誰かを評価したりできるような偉い人間であったろうか?」

 歌い出しから、内省的な問いかけが胸に迫る。成功を手にした今、謙虚な気持ちを忘れずにいなければと、ゆずきは改めて思った。

「博愛がモットーのわたしではありますが、今を生きるのに精一杯で誰かを思いやる余裕はない」

 自身の経験と重なる部分に、ゆずきは深く頷いた。TGCのランウェイを歩き、朝ドラヒロインとして駆け抜けてきた日々は、まさに「今を生きるのに精一杯」だった。誰かを慮る優しさを持ちながらも、自身の限界と向き合い、必死に前へ進んできた。そんな自身の葛藤が、この歌詞には込められているように感じられた。

「死に至る病から生還し/終わりよければすべてよし/革新をデザインするイニシエーション/不幸から抜け出すモチベーション」

 これらのフレーズは、ゆずき自身のこれまでの道のりを語っているかのようだった。 予選での敗北、たいよう君の「裏切り」といった「不幸」を乗り越え、特別枠でのTGC出場、朝ドラヒロインへの抜擢という「革新」を手にしてきた。まさに、様々な経験が彼女を形作る「イニシエーション(通過儀礼)」だった。

 そして、サビへと続く。

「今を生きる、今を生きる/未来は全部「今」の積み重ね/今を生きる、今を生きる/過去の自分もそのときの「今」」

 シンプルでありながら、普遍的な真理を突く言葉の力に、ゆずきは鳥肌が立った。過去も未来も、結局は「今」という瞬間の連続でしかない。一つ一つの「今」を大切に生きることが、未来を創り、過去を肯定することに繋がる。ゆずきは、この歌を通して、自身の生き方そのものを表現できると感じた。

「今を生きる、今を生きる/努力の自責性、時間の不可逆性/今を生きろ、しっかり生きろ/過熱した時代に実存を誓う」

 「努力の自責性」という言葉は、ゆずきがJKミスコンの予選で敗れた時に感じた「もっとできたはずだ、もっと頑張れたはずだ」という後悔の念を思い起こさせた。時間は決して戻らない。だからこそ、「今」を最大限に生きることの重要性を、この歌は語りかけてくる。

「今を生きる、今を生きる/愛こそすべて、ジョン・レノンの哲学/今を生きろ、しっかり生きろ/みんな怯えながら生きてるのだから」

 「愛こそすべて」というフレーズに、ゆずきは心を奪われた。ファンからの温かい応援、家族や友人たちの支え、そしてponziさんの優しさ。自分はたくさんの愛に支えられてきた。そして「みんな怯えながら生きてるのだから」という言葉には、優しさと同時に、この社会で生きる全ての人への共感が込められている。ゆずきは、自身の歌声で、このメッセージを届けたいと強く思った。

 「ウソ」:弱さと強さの間に揺れる真実

 もう一つの主題歌「ウソ」は、人間がつく嘘の多様性と、その背後にある心理を深く掘り下げた楽曲だった。

「子供って追い詰められるとウソをつくじゃないですか/自分を守るためにギリギリのところでウソをつくじゃないですか」

 ゆずきは、初めて世間の注目を浴びたJKミスコンの時、そして陰口を言われた時のことを思い出した。あの時、もし自分がもっと弱かったら、自分を守るために嘘をついていたかもしれない。人間の持つ、時に繊細で、時に図太い「嘘」の側面が描かれている。

「可愛いウソかもしれないじゃないですか/ウソをつくことで自分たちの何かを守っているのかもしれない」

「私は子供達のつくウソが大好きです/彼らは私の昔の姿なのですから」

 この部分は、ponziさん自身の経験や、人間への深い洞察が込められているように感じられた。ゆずきもまた、過去の自分を振り返り、時に誰かを気遣う優しさから、あるいは傷つくことを恐れて、小さな嘘をついてきたことを思い出した。

「今を生きる為のウソと誰かを騙す為のウソ/似てるようでいて全然違うものじゃないですか」

 このフレーズは、ゆずきの心に強く響いた。芸能界という華やかな一方で複雑な世界で生きていく上で、何を信じ、何を信じないのか。表面的な「嘘」の裏にある、それぞれの真意を見極めることの重要性を、この曲は問いかけてくるようだった。

「人を信じる事って難しい事じゃないですか/誰も信用できない人が誰かから信用されるでしょうか」

 信頼と裏切り。ゆずきは、予選でたいよう君に「裏切られた」と感じた時の痛みを思い出した。人を信じることの難しさ、それでも信じることの大切さ。この歌詞は、ゆずきの心の傷にそっと触れるようだった。

 しかし、後半になるにつれて、歌詞は「嘘」の持つ負の側面、社会的な問題へと視点を広げていく。

「みんな真面目ないいコを演じるじゃないですか/権力に忖度したり従順なフリをするじゃないですか」

「ウソをついてでも人を出し抜こうとするじゃないですか/「権力に逆らうからだ」などと悪びれるじゃないですか」

「私はそれが絶対許せないんですよ/お金や売名の為にウソをつく事が」

 この部分の強いメッセージに、ゆずきはプロの表現者として、この曲を歌う責任を感じた。ただ可愛いアイドルとしてだけではなく、社会に問いかけるアーティストとして、この楽曲を届けたい。

「政治や経済にウソを持ち込むじゃないですか/科学や宗教まで歪めてしまうウソをつくじゃないですか」

「ウソをついてでも人を出し抜こうとするじゃないですか/「これが資本主義だ」などと悪びれるじゃないですか」

「私はそれが絶対許せないんですよ/第一自分自身にウソをついてます」

 歌詞に込められた、社会への警鐘。ゆずきは、この曲を通して、リスナーに何を伝えたいのかを考え続けた。

 そして、再び繰り返されるフレーズ。

「今を生き延びる為の精一杯のウソ/誰がそれを責められるんですか、ねえ?」

「私は子供達のつくウソが大好きです/彼らは私の昔の姿なのですから」

 この繰り返される言葉が、人間が嘘をつくことの根源的な理由、そして、そこにある赦しと優しさを表現している。ゆずきは、この二つの曲に込められたponziさんの深い人間理解と、社会への洞察に感銘を受けた。これらの楽曲を歌いこなすことは、彼女にとって新たな表現の扉を開くことになるだろう。

 月9ドラマ「リスクを負った恋」:愛と社会の多様性を描く

レコーディングと並行して始まった月9ドラマ「リスクを負った恋」の撮影は、ゆずきにとって女優としての新たな挑戦だった。このドラマは、多様性社会と障害者の恋という、現代において非常にタイムリーで繊細なテーマを扱っていた。ゆずきが演じる主人公は、元哲学者の障害者と恋仲になる生活保護で障害者の女の子という複雑な設定を持つ。

 脚本を読み進めるにつれ、ゆずきは深い感銘を受けた。

 物語の主人公は、元哲学者のポンジ。彼は39歳から45歳まで群馬県の精神病院で過ごし、退院後は生まれ故郷の千葉県松戸市のグループホームに入居。A型障害者就労で食品工場に1年3ヶ月勤務した後、行政からの障害者区分変更の指示をきっかけに、より軽度な障害者たちが集まって暮らす東京都江戸川区のグループホームに47歳で引っ越してきた。

 江戸川区では、失業保険を受給しながらしばらくB型障害者就労に勤め、同時に相談員や訪問看護師の勧めもあり、福祉の手厚い江戸川区の地域活動センター、通称「地活」で友人づくりを始める。そこで、カズ、トミー、川口といった多くの仲間と出会い、その中に、ゆずきが演じるなゆちゃんがいた。

 なゆちゃんは25歳で統合失調症を患い、生活保護を受給しながら細々と生計を立てていた。病弱で障害者就労も満足に通えない彼女だが、持ち前の人見知りしない明るさで地活のみんなを魅了していた。ある日、38歳のイケメン薬学部大学生のヒデキとも地活で知り合い、ポンジも交えた仲良しグループが形成されていく。

 しかし、なゆにはみんなに隠している秘密があった。19歳で岡山から単身上京し、生きるために仕方なく付き合った27歳元カレのカイトとの過去だ。良い時もあったが、度重なるDVに苦しめられ、しまいにはポンジから岡山のおじいちゃんに会いに行くためにと必死で融通してもらった20万円までカイトに盗まれてしまう。

 なゆはカイトとの別れを決心し、薬学部6年生で年齢も比較的近く親近感のあったヒデキに相談する。しかし、ヒデキにはすでに交際相手がおり、「なゆちゃんの力にはなれない」と告げられてしまう。

 途方に暮れたなゆは、仕方なく地活で知り合った62歳のケンにお金を頼るようになり、食事をご馳走してもらえるのはありがたかったが、そのうちケンはなゆの家までたびたび押しかけてくるようになる。酒に酔って深夜に訪ねてきたり、電話で暴言を吐かれたり。失意のうちに、なゆの病状は悪化していく。

 一見、一番何もないように見えたポンジが、実は一番優しかった。いつも傍にいてくれて、なゆの嘘やわがままも全部笑って許してくれた。そして、しばしばポンジは、独特の哲学的な表現で、世界の成り立ちや歴史の本質を語ってなゆに聞かせた。 なゆはポンジと人生を共にすることを決意する。

 そして、新たな人生の船出かと思われた時、LINEで元カレのカイトからHIV陽性であることを告げられる。

 この衝撃的なプロットに、ゆずきは身震いした。このドラマは、単なるラブストーリーではない。障害、貧困、DV、病気といった現代社会が抱える様々な「リスク」と、それらを乗り越えようとする人々の「恋」を描いている。ゆずきは、この物語の深さと、社会に問いかけるメッセージ性に強く惹かれた。

 特に、なゆの元カレ役カイトを演じるのは、ゆずき自身が共演するイケメン俳優のカイトだ。ドラマの中の「カイト」と、現実の「カイト」が混じり合うような不思議な感覚を覚えながらも、ゆずきは自身の演技に深みを持たせようと、ひたむきに役と向き合った。

 他にも、準主役のポンジ役はかつてJ-POPブームの時代に活躍した人気ロックバンド「the engagement」のアラフィフボーカル、桜井正宗さん。ヒデキ役にアラフォー人気俳優の福山流星さん。ケン役に大御所俳優の桑田浩志さんなど。そして、監督、脚本は大物作家の古谷真司先生。これ以上ない豪華キャストで「リスクを負った恋」の撮影が決まった。

 「リスクを負った恋」は、まさにゆずきの新たな代表作となるだろう。女優として、そしてシンガーとして、彼女は今、その全てをかけて、この大きな挑戦に挑もうとしていた。全国ツアーと月9ドラマ。二つの大舞台で、ゆずきは一体どんな輝きを見せてくれるのだろうか。


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