第28話「神を宿す者」
「……苦しんでる?」
シンは手にした氷の刃を握りしめながら、巨大な影の神を見上げた。
先ほどから聞こえてくる咆哮には、確かに怒りや暴力性だけでなく、どこか“嘆き”のようなものが混じっていた。
「ただの暴走体じゃない……誰かの意志が、まだ中に……!」
リリエルの言葉に、エコーが目を細める。
「つまり“交渉”の余地があるってことかな。なら僕の出番……なんだけど、もうちょっと回復させてもらえると助かるよ」
ぼやきつつも、エコーは懐から取り出したリュートを構える。
壊れかけの神殿に歌声が響き、空間をわずかに癒す旋律が流れた。
「影の中に残っているのは、“信仰された記憶”……」
リリエルが魔法で意識の深層へと干渉を始める。神の記憶に触れた彼女の表情が、一瞬にして変わった。
「この神様……ずっと、人々に忘れられ、力を奪われて……でも、それでも『守りたかった』って、願ってた……!」
「だったら、暴れてる今の姿は――」
「……救いを求める、最後のあがき。助けを、呼んでるんだよ」
そう言ったのは、神殿の奥から現れたもう一人の人物――グロリアだった。
「来てくれたのね、やっと」
白衣のようなドレスに身を包み、グロリアは静かに神の巨体を見上げる。
「この子、私の“最高傑作”になるはずだった。美しくて、哀しくて、そして崇高な存在。……でも、私の手では、完璧にはできなかった」
「ふざけるな。てめぇの“芸術”のために、どれだけの人が巻き込まれたと思ってんだ!」
シンの怒声にも、グロリアは一歩も引かない。
「わかってるわ。だからこそ……あなたたちに“仕上げ”を任せる。神様を、救ってあげて」
その言葉と同時に、神の巨体が悲鳴をあげるように暴れ出した。
「まずい、また魔力が暴走する!」
「リリエル!」
「……わかった。私が結界で心核を固定するから、シンは直接“心”を断ち切って!」
「おう……!」
シンの手に握られた氷の刃が、仲間の魔力に応えるように輝きを増していく。
(こいつが、本当に救いを求めてるなら……)
一気に跳躍し、神の中心へと突き進む。
(俺が、その叫びに応える!)
氷刃が心核に届く直前、神の“目”が確かに、シンを見つめた。
ほんの一瞬――微笑んだように、見えた。
氷刃が突き立ち、神殿を包んでいた狂気の魔力が霧のようにほどけていく。
崩れゆく巨体。静寂。そして、神の残滓が淡く光を放ちながら天へと消えていった。
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「……終わったのか?」
「うん。神様は……やっと、眠れたみたい」
リリエルが微笑みながら言った。
グロリアは神殿の柱に寄りかかりながら、静かにシンを見た。
「やっぱり、あなたたちは“いい作品”になるわ。……特に、あなた」
「褒められても全然うれしくねぇよ」
「フフ。……また会いましょう、シン」
グロリアは光の粒子と共に、姿を消した。
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神殿を後にする一行。空はすでに夕焼けに染まりはじめていた。
「……なあ、リリエル」
「なに?」
「今回ばかりは、お前がいてくれて助かった。マジで……ありがとうな」
その言葉に、リリエルは目を丸くし、ふわっと笑った。
「……こちらこそ。あなたが戦ってくれて、よかった」
エコーはその後ろで、勝手に感動していた。
「いいねぇ、青春だねぇ……あ、でも僕も褒めてほしいな? ね? ちょっとは役に立ったよね?」
「おまえの歌、うるさかったけど助かったわ」
「うるさいは余計!」
そんな冗談を交わしながら、一行は王都へと帰還の途についた――。
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――次回、第29話「揺れる信念と交錯する想い」
・神殿での戦いを経て、再び戻る王都
・だがその裏で、魔王軍は新たな一手を進めていた――
・そして、リリエルの心に生まれた変化とは?
「信じるって、きっと……簡単じゃないけど、大切なことだから」
次回、勇者たちの絆に、新たな波紋が広がる!




