第27話「眠れる神殿の影」
霧深き獣森を進むにつれ、空気はますます重く、音のない静寂が俺たちを包んでいく。
まるで、何かを侵してはならない場所へと足を踏み入れているかのような──そんな嫌な予感が、確かにあった。
「見て、あれ……!」
リリエルが指差した先、霧の向こうに巨大な石造りの構造物が姿を現した。
苔と蔦に覆われ、すでに長い間忘れ去られたことが一目でわかる神殿──だが、その重厚な扉の前には、不釣り合いなほど綺麗な装飾が施されていた。
「……この装飾、最近になって付け加えられたものだな。誰かがここを“目立たせよう”としてる」
エコーが呟くように言う。装飾は、どこかヴェルミエルの美意識と共通するような派手さを含んでいた。
「この神殿……ただの遺跡じゃない気がする」
俺の勘が告げていた。この中に、何かがいる。そして、それは目覚めかけている。
◇◇◇
神殿内部は外観とは打って変わって、整った構造を保っていた。
長く放棄されていたとは思えないほど綺麗に掃除されており、壁には奇妙な文様が刻まれている。
「魔王軍の魔力反応がある。しかも、複数」
リリエルが神託のスキルで感じ取った“気配”に、俺たちは警戒を強める。
その時、奥の祭壇から何かがこちらに気づいたように目を開けた。
「……歓迎するわ、勇者たち」
声と共に現れたのは、絹のようなドレスを纏い、顔の半分に仮面をつけた少女。
その瞳には狂気と芸術の入り混じった光が宿っていた。
「私は〈美術顕現者〉グロリア。魔王軍、四天王の一角よ」
「また四天王……!」
俺の体が自然と構える。だが、彼女の様子は今までの四天王たちとは違っていた。
「私はね、この神殿に眠る“もの”をアートとして完成させたいの。だからお願い、ちょっとだけ協力してくれる?」
その言葉の直後、神殿全体が脈打つように震えた。
──ゴゴゴゴゴ……
「……何だ? 地下から……魔力が……!」
「この神殿、封印されてたんじゃないのか!?」
エコーが叫ぶ。グロリアの口元が嬉しそうに吊り上がった。
「眠っていた“神”を美しく目覚めさせる。それが私の役目だから」
「……やっぱり、放っておくわけにはいかないな」
俺は手に氷の刃を形成し、前に出る。仲間たちもすぐさま戦闘態勢に入った。
「来るぞ──!」
グロリアの手が天に掲げられると同時に、神殿の床が崩れ、漆黒の腕のような何かが天井に向かって伸びた。
「次回の展示、楽しみにしていてね? 勇者くん」
その声を最後に、グロリアは闇に紛れて消えた。代わりに、神殿の奥から目覚める“何か”の気配が、確実に俺たちを睨みつけていた──。
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次回予告
――次回、第28話「目覚めの胎動と黒き神」
・神殿に眠る“存在”がついに動き出す!
・シンたちは封印を止められるのか!?
・グロリアの真の目的とは?
「こいつ……生半可な相手じゃねぇ……!」
次回、暴かれる古の力。シンたちは新たな決断を迫られる!
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