第10話「ゴミの三重奏」
ギルドの掲示板を眺めながら、俺は頭を抱えていた。
どの依頼も、俺の状況ではこなせそうにない。討伐系は当然難しいし、探索系は「勇者は魔物を引き寄せる」と敬遠されがち。
そんな中、目に留まったのは 「貴族の護衛任務」 だった。
依頼主は 「ルヴァン商会」 という大手の商人貴族で、街道を通って隣町までの護衛を頼みたいらしい。報酬も悪くない。
「これなら戦闘を避けられそうだし、俺にもできるか?」
と考えていると、横からヒュッと紙が奪われた。
「んー? 護衛任務か! これはまさに、私の美声で旅を彩るのにふさわしい仕事だな!」
ド派手な衣装をまとった青年—— ルードルド・エコー(通称エコー) が勝手に依頼を持っていく。
……こいつは昨日から俺たちの後をついてきて、どこまでも図々しい。
「お前が行くとは言ってない」
「まぁまぁ、そんな冷たいこと言うなって。旅に音楽はつきものだろう?」
「それ以前に、お前の歌は聞くに耐えないんだよ」
エコーは吟遊詩人だが、彼のスキル【不快叶音】は「聞く者が耐えれば耐えるほどバフを得られる」 というもの。
逆に、歌いすぎて声が良くなると【良音失値】に変化し、今度は敵にデバフを与える という、なんとも使い所に困る能力だった。
俺が呆れていると、リリエルが微笑む。
「でも、シンが護衛をするなんて珍しいね。何か考えがあるの?」
「まぁな。護衛なら戦闘を避けられるし、俺でもこなせるかもしれない」
「……フフッ」
リリエルは、何か嬉しそうだった。
「なんだよ」
「シンに友達ができるの、私ちょっと嬉しいなって」
「……エコーは友達じゃねぇ」
「おいおい、それはひどいぞ?」
エコーは派手に嘆いたが、俺は無視してギルドの受付へ向かった。
⸻
翌日、俺たちは馬車の護衛として街道を進んでいた。
依頼主のルヴァン商会の商人たちは、俺を見るなり明らかに嫌そうな顔をしたが、リリエルとエコーがうまく取りなしてくれたおかげで、なんとか仕事を続けられている。
……だが、そんな平和な時間は長くは続かなかった。
「——追い剥ぎだ! 逃げろ!」
馬車の前方で、護衛の一人が叫ぶ。
見ると、十数人の盗賊が道を塞いでいた。
「チッ……面倒なことになったな」
戦闘になれば、折角少し上がった俺の好感度はまた下がるかも知れない。
かといって、護衛を放棄するわけにもいかない。
「こうなったら……!」
俺は咄嗟に 「水滴凝固」 を発動し、地面の水分を瞬時に固まらせた。
道の一部がなめらなになり、盗賊たちの足元がツルツルになる。
「お、おい!? なんだこれ!」
「足が滑るぞ!」
さらに、俺は 「雑草操作」 を使い、地面からツルを伸ばして彼らの足を引っ掛ける。
滑りやすくなった状態でツルに引っ掛かれば、高い確率で転ぶはずだ。
そして最後に——
「軽風操作 !」
その状態で少しだけバランスを崩してやれば、通常の人間なら簡単に転ぶだろう。
「うわぁぁぁ!!」
盗賊たちは次々と転び、戦意を失っていく。
俺の 「ゴミスキル三重奏」 が、完璧に決まった瞬間だった。
⸻
盗賊を追い払った後、商人たちは驚いた顔で俺を見た。
「……すごい。あの勇者、意外とやるんだな……」
「いや、でも……なんかこう、普通の勇者とは違うよな……?」
「すごい」けど「微妙」 という評価。
結局、俺の好感度はほとんど上がらなかった。
「ま、まぁ……何はともあれ、助かりました」
依頼主は渋々ながら報酬を支払ってくれた。
「フフッ、お見事!」
リリエルは満面の笑みを浮かべ、エコーは派手な拍手を送る。
「お前のやり方、なかなかユニークだな! いやぁ、いいものを見せてもらった!」
「……お前は何もしてないだろ」
「そんなことないぞ! 私は見ていた!」
「それが何の役に立つんだ……」
……まぁいい。
俺は、新たなゴミスキルの通知を確認した。
【スキル獲得:風読み】
——風の流れを微かに感じ取ることができる。だが、ほぼ役に立たない。
「またゴミスキルか……」
まぁ、いつものことだ。
そう思いながら、俺たちは依頼を終え、街へと戻るのだった。
次回予告:第11話「勇者、スキル合成を試みる」
・シン「このゴミスキル、もっと活かせる方法はないのか?」
・リリエル「可能性はあるかもしれないよ!」
・新たなスキルの組み合わせが、勇者をさらに“奇妙”な方向へ導く——!?




