第9話「勇者と吟遊詩人、不協和音の旅路」
勇者シンは、後ろから聞こえてくる調子外れな鼻歌に眉をひそめた。
「なあ、さっきからついてきてるけど、いつまで俺の後をついてくるつもりだ?」
振り返ると、そこには派手な衣装に身を包んだ吟遊詩人、ルードルド・エコーが満面の笑みを浮かべていた。
「ん? そんなの決まってるじゃないか。君の旅は面白そうだし、僕の歌を広めるには最高のチャンスだからね!」
「お前の歌なんか誰も聞きたがらねえよ」
シンはため息をつきながら、ぶっきらぼうに突き放す。しかし、エコーは気にも留めない様子で髪をかき上げた。
「まあまあ、そう言うなって。運命ってやつさ、これは!」
そんな2人のやり取りを、リリエルは微笑ましそうに眺めていた。
「……よかったね、シン」
「何がだ?」
「友達ができて」
「やめろ。コイツは絶対違う」
必死に否定するシンだったが、リリエルは嬉しそうだった。彼女の中では、すでにエコーはシンの仲間として認定されているらしい。
そんなこんなで、新たな仲間(?)を加えたシンたちは、ギルドで受けた依頼の現場へ向かっていた。
今回の依頼は「とある遺跡の清掃」。
「なんで勇者がこんな地味な依頼受けてるんだろうな……」
「地道な仕事をこなすのも大事よ。困っている人を助けるのは、勇者の役目でしょ?」
リリエルの言葉に、シンはぐぅの音も出ない。
遺跡へ足を踏み入れると、壁には苔が生え、地面にはガラクタが散乱していた。
「よし、さっさと終わらせるか……」
そう言って作業を始めようとした瞬間。
「さあ! ここで一曲!」
エコーが胸元からリュートを取り出し、朗々とした歌声を響かせた。
「……ぐっ、うるせえ!」
シンが顔をしかめると、リリエルも耳を塞いで呻く。
「エコー! いきなり何を……!」
「はっはっは! これは僕のスキル【不快叶音】! これを聞けば聞くほど、体が強化されるんだ!」
たしかに、リリエルの表情を見る限り、バフの効果は発動しているようだ。
しかし、肝心のシンには何も変化がない。
「……ん? おかしいな? シンには何の効果もないのか?」
不思議そうにシンを見つめるエコー。
だが、シンはすぐに気づいた。
「お前、俺のこと心の底では不快に思ってるだろ?」
「まさか! この世のすべてを愛する僕が、君だけを不快に思うなんて……」
そう言いかけて、エコーははっとした。
確かに、自分はどんな人も肯定して愛する男だ。しかし、シンの好感度の低さは、そんなエコーの価値観をも上回るレベルだったのだ。
「……なるほど、そういうことか。いやあ、驚いたよ! でもそれもまた君の個性だね!」
「お前、本当にポジティブだな……」
エコーの陽気さに、シンは思わずため息をついた。
そんなトラブルもありつつ、なんとか遺跡の清掃は完了。
ギルドへ戻ると、新たなスキルが獲得されていた。
【古代塵操】
遺跡の掃除で身につけたゴミスキル。古代の塵や砂を自在に操れるが、普通の土や砂には効かない。
「……微妙だな」
新たなスキルを確認しながら、シンはがっくりと肩を落とした。
次回予告:第10話「ゴミの三重奏」
・ギルド「次の依頼はこれだ!」
・まさかの護衛任務?
・エコーの歌声がまたもや騒動を巻き起こす!?




