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6.気になる出会い(後編)

 事務官に連れられて、学長室を後にする。この学長室と各教室は別な建物になっているらしい。そして、こちらの建物には生徒会室と呼ばれる部屋があるらしい。休暇中ではあるが、そこには誰かしらいるだろうから、ということでまずはそこを案内されることになった。

「お父様はこちらでお待ちください」

 と事務官が告げたので、それを手早くプーランジェの言葉で父親に言う。彼は黙って頷く。


「失礼します」

 事務官がノックをして部屋に入ると、そこには二人の男子生徒と一人の女子生徒がいた。

「今日はあなたたちだけですか?」

 事務官に声をかけられた三人は、すっと立ち上がる。


「ええ。イブとジョアは、客人が来るということで今日は来ていませんね」

 答えたのは、金髪の長髪の男子生徒。

「例の留学生です。学院内でも注目を浴びると思いますので、できるだけ彼女のサポートをお願いします」

 事務官に促され、アイリーンはアスカリッド語で挨拶をした。

「アスカリッド語も話せるんですね」と、赤髪の男子生徒が言う。

「少しだけですが」とアイリーンは答えるが「それだけの受け答えができれば十分ですよ」と赤髪が言う。


「彼女は二学年でよろしいのですよね、キャリー先生」

 次に声を出したのは紅一点の女子生徒。

「はい。ノエルさんと同じ学年になります」

 事務官が答える。


「アイリーンさん。ノエルさんは二学年の女子の寮長を務めていますので、寮生活においてわからない点は彼女にお聞きください」

「はい」

「自己紹介がまだでしたね」と金髪が言う。そしてそれぞれの生徒たちが自己紹介をする。

 まず金髪の長髪がフランシス・イーライ、三学年で生徒会長らしい。

 赤髪がダンカン・ネイミック、こちらも三学年で会計。

 紅一点の女性がノエル・アスカリッド、二学年とのこと。


「アスカリッド?」とアイリーンが聞き返すと彼女は頷く。どうやらノエルはこの国の王女様らしい。

 王女様なのに寮長ということは、王女なのに寮で暮らしているということで。

「せっかくだから、寮生活も体験してみたくて」と笑っている。王族といってもわりと自由な感じなのだろうか。


 そして案の定、アイリーンの頭の中ではこの会長と会計のカップルが成立していた。美男美女とよくいうが、まさしく美男美女に見えるカップル。見えているのはアイリーンの脳内だけ。しかも美女役は会長。長い髪が絹のように光輝いている。


 その妄想をぶち壊すかのようにノエルが口を開いた。

「アイリーンさん、もしお帰りになるなら寮までご一緒致します」

 有りがたい申し出だった。しかし、アイリーンにはこの後予定がある。

「ノエル様。お誘いありがとうございます。しかし、この後、父と一緒に王宮に行かねばならないのです」

 王女の誘いを断るのだから、嘘や誤魔化しはよくはないだろう、ということで正直に話をしてみた。

「王宮に?」とノエルは尋ねてくる。

「あ、はい。一応、父がプーランジェの宰相ですので」

「あぁ、なるほどね」

 と左手の手のひらの上に右ひじをつきその右手で頬を撫でている生徒会長のフランシス。

「君たちがイブとジョアのお客様、というわけか」

 動作の一つ一つが色っぽい。女性と間違われたことがありませんか、とアイリーンは聞きたいところだったが、こらえた。

 イブというのはノエルの兄らしい。ジョアというのがそのお付き、つまり金魚のフン。

「つまり、プーランジェの宰相様のご息女ということですね」

 赤髪のダンカンが勝手に納得しているが、何か企んでいるようにも見える。


「アイリーンさん、そろそろお時間です」

 事務官がそう言ってくれたため助かった。

「アイリーンさん、ではまた後で。寮でお会いしましょう」

 ノエルの微笑みは優しかった。生徒会長と赤髪の微笑みは、うさん臭かった。



 学院での用事が済んだため、父親と一緒に馬車で王宮へと向かう。自国の王宮にさえも足を踏み入れたことは、ほんの数回。しかも、父親の忘れ物を届けるために。それなのに今回は、公務としてアスカリッドの王宮を訪れている。

 まずは国王陛下との謁見。その後、この国の重鎮たちと今後についての打ち合わせらしい。挨拶程度じゃなかったの? 結構、ガチじゃないか、とアイリーンは思っているが、多分、一番そう思っているのは父親。自国のボス、もとい国王陛下にいいように使われていることに気付いているのだろうか。


 そんななか、アスカリッドの国王陛下はとても優しい顔立ちをしていた。その金髪がゆるくふわりと流れているのは、先ほどのノエルとよく似ている。

 謁見は難なく終わり、次は会議の場所へと案内されたが、国王陛下が優しいのは顔だけで、実はおしゃべり好きだった。これは後でノエルに確認しておこう、とアイリーンは思った。

 というのも、通訳に疲れた、というのが本音。この後も会議に同席して通訳、となると、頭痛がする思い。父親じゃなくても自国のボスに恨みの一つや二つや三つくらい、言ってやりたい。


 会議室にはそれなりの重鎮がそろっていたらしい。同じように宰相をはじめ、なんとか大臣諸々、それから騎士団の偉い人、そしてこの国の第一王子と第二王子とそのお付きの人。役職と名前と顔を一致させるために、父親に説明するが、父親も全員を覚えたかどうかは謎。ただ、書類のやり取りで見知った名前ではあるらしいから、なんとなくわかるらしい。


 通訳をしている間、アイリーンにはちょっと気になる視線があった。多分、第二王子と言っていた奴だ。イブライム・アスカリッドという名乗ったような気がする。つまり、ノエルのお兄さん。短い金髪だけど、ノエルに似ていると言えば似ている。第一王子も同じ金髪。第一王子と第二王子がよく似ている。見分ける方法は、第二王子の方が筋肉質な感じで、第一王子の方が落ち着きはある、だろうか。

 それよりもアイリーンは、その第二王子と金魚のフン、じゃなかったお付きのジョア、フルネームがジョアキナ・マレーだが、ここのカップリングが気になって仕方なかった。このジョアキナが黒髪眼鏡とか、どれだけツボを押さえてきているのか。

 そうか、アイリーンが気になっているカップリングでチラチラ見ていたから、あちらもチラチラとこちらを見ていたに違いない、と思っていた。






「ジョア、彼女は何者だ」とイブライムは他には聞こえないように、ジョアキナに尋ねた。

「通訳のようですね」とジョアキナは答える。

 このようなアスカリッドとプーランジェの者たちが集まっての会議、と呼ばれるようなものはなかなか行われない。基本的には書面でのやり取りのみ。

 しかし、プーランジェの宰相がアスカリッドに行く予定がある、ということで向こうの国王から打診があった。それをこちら側で承諾した形だ。言葉が通じない中、どんなやり取りが行われるのかと思っていたが、どうやら向こうは通訳を連れてきたらしい。


「あの大臣たちにも物怖じせずに意見を言っている」

「彼女は通訳ですから、その言葉の出どこはあちらの宰相様でしょう。それを代弁しているだけかと思いますが」


 イブライムにはなんとなく彼女が輝いて見えた。後光が差している。

 時折見せる笑顔が、この場を和ませていることに、彼女自身は気付いているのだろうか。


「でも、あれだけの内容を通訳しているのは、なかなかですね」

 ジョアキナの関心は別なところ。彼女の力量。


 だが、イブライムは彼女から目が離せなかった。彼女は書面に目を通しては、隣の宰相に重要な文章を指して、説明をしている。必要なサインの箇所についても指示をしている。ときおり、二人の間で聞き慣れない言葉が飛び出すのはプーランジェの言葉で話をしているのだろう。

 ただの宰相と通訳、その関係であるだろうに、彼女の隣にいる宰相がちょっとうらやましいと感じた。その笑顔を自分にも向けてくれないだろうか、と。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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