30.気になる帰国(中編)
次の日、ボイド公爵家の屋敷には女子生徒が三人訪れた。その女子生徒とはもちろん、カーナとジジとエレナ。
「今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、久しぶりにリーンに会えて嬉しいよ」
「リーン様、招待いただきましてありがとうございます」
アイリーンは一人一人と感動の再会を果たす。モイラも嬉しそうにその四人を見つめ、手際よくお茶の準備をする。丸いテーブルに四人はつく。
「はい、お土産」
と言って、アイリーンが差し出したのは、アスカリッドの文芸部の部誌と月雲六巻のまとめの冊子のプーランジェ語版。
「リーン、アスカリッドにまでいって、何やってるのよ」
カーナが笑いながら受け取る。
「何、って勉強ですが?」
「本当に、何の勉強をしているんだか」
「あら、だってそれが目的ですもの。あのね、この『美しき二人』って、アディ先生のデビュー作だったのよ」
部誌をパラパラと開いて三人に見せるアイリーン。
「そうかー。アスカリッドの言葉で書いてあるのか。読めるように頑張る」
「でも、この絵だけで、なんとなくお話の内容が想像できます」
ジジが言う。
「そもそも、リーン様のオススメってだけで想像できますけども」
エレナが言う。最後に会った日は寂しそうに揺れていた青い瞳も、今日は生き生きと輝いている。
「この話は、プーランジェの言葉に翻訳しました。ぜひとも皆さんに読んでいただきたくて」
また冊子を三人に配るアイリーン。
「自宅に戻ってからの楽しみにしますね。まずは、リーン様のアスカリッドでの話を聞かせてください」
ジジは冊子を大事そうに両手で抱えながら言った。
「そうよ、リーン。アスカリッドで面白い話は無いの?」
カーナの言う面白い話はなんとなく予想がつくのだが。
「そうねぇ」
と、カップを口元に運んでから、様々なアイリーンの妄想カップリングについての話を始めた。だが、そこに自分を登場させるようなことはしない。カーナをはじめ、ジジもエレナも黙って聞いている。
「へぇ。さすがリーン。それだけの登場人物でよくそこまで妄想できるよね」
「カーナほどではないわ。それで、ディミトリー殿下とジェリアン様って、どうなっているのかしら?」
「どうもこうも無いわよ。ナディソンさんがね、殿下の婚約者としてほぼ決まったようなものじゃない? それで幅を利かせてね」
「カーナ様が少々いじわるされているのです」
カーナの言葉の続きを奪ったのはジジだ。
「え? そうなの?」
リーンは驚き声をあげた。
「大したことないんだけどね。ちょっとネチネチネチネチと。私はまだいい方よ。同じ学年のソフィアさんなんてはあからさまだし」
ディミトリー殿下の婚約者候補は四人いた。アイリーンとカーナはディミトリーの一つ下の学年。それから同学年に最有力候補と言われているナディソンとソフィアがいた。アイリーンが辞退したため、三人の争いと言われているが、カーナはまるっきり興味無し。ソフィアは一歩下がるような性格であるため、ナディソンにいいようにやられているらしい。
「それでね。さっさと殿下とナディソンさんの婚約を決めて、私とソフィアさんは別な人と婚約っていう話になっていてね。で、私がジェリアン様の候補にあがってしまったのよ。あれほど、あの二人の間の登場人物になりたくないって思っていたのに!!」
カーナは両手をぐっと握りしめて、きーっと言っている。ジジとエレナはニコニコしながら、カーナを見ているのは。
「でも、カーナ様とジェリアン様もお似合いなんですよ。ここだけの話、殿下とナディソン様よりも、カーナ様たちの方が人気があります」
ジジが言う。
「では、ソフィアさんは?」
「ジェリアン様のお兄様です。ジェリアン様よりも五つ年上だそうですが。こちらもまたソフィア様とお似合いなんですよ」
エレナが言う。
「じゃ、ジェリアン様はカーナのところに?」
「そうなるわね。父がね、私が殿下の婚約者に選ばれたなら養子をとるとか言っていたから。それがね、よりによってジェリアン様でしょ? 父が大喜びよ」
「もう、候補ではなく決まったようなものね」
「そうね」
そこでカーナはカップを口元に運んだ。
「カーナは、ジェリアン様では不満なの?」
アイリーンは尋ねた。
「不満? ではないけれど。このまま本当にジェリアン様と結婚してもいいのか、っていうことは考えてしまうわね。やはり好きな人との結婚に憧れるわよね?」
「カーナは好きな人がいるの?」
「どうかしら。考えたことも無かったから」
カーナの感覚はアイリーンと近いものがある。
「ジジとエレナには、好きな人がいるの?」
急に話を振られた二人は顔を見合わせる。
「憧れの人はいますが。結婚したいほど好きな人、と言われると考えてしまいます」
「そうですね。いつの間にか婚約者が決まっていた、っていう感じですから」
この二人には同じ家柄のような男性との婚約が決まっている。それも早くに決まっていたらしい。
「うーん。私がアスカリッドへ行っている間に、置いて行かれた感じがしますね」
「だけど、アスカリッドは恋愛結婚が当たり前でしょ? リーンは誰かいい人見つからなかったの?」
直球を投げてきたのは、カーナだ。
「私の考えはプーランジェ寄りですから。急に誰か好きな人と言われても困りますし。むしろ、殿下の婚約者候補から逃れたくてアスカリッドに行ったようなものですし。どちらかというと結婚するよりも、好きなことをやりたい、というか」
「だよねー。じゃなかったら、アスカリッドの学院でそんなことを考えたりしないよねー」
カーナはケラケラと笑っている。そんなこと、というのはアイリーンの中の妄想カップリングのこと。
「でも、リーンは留学して正解だったかも。この婚約者騒動に巻き込まれたら、ぐったりするわよ。私はまだ心の支えがあったからいいけど、ソフィアさんなんて日に日にやつれていくし」
カーナの言う心の支えは多分、ビーでエルなやつ。
「ソフィア様は、ナディソン様からの風当たりも強かったですからね」
ジジの言葉にエレナもうんうんと頷く。
「カーナ。一つ確認があるのだけれど」
アイリーンははっと思い出したように口を開いた。
「ジェリアン様の正式な婚約者になったら、これらはどうするの?」
アイリーンは、お土産と言って手渡した冊子類を指した。
「どうしようね。むしろ、ジジとエレナはどうしてるのよ?」
「隠していますよ。机の引き出しに。鍵をかけて」
言い、笑っているのはジジ。
「そして、誰もいないときにこっそりと開けて、一人で堪能しています」
「エレナは?」
「私は、衣装鞄の中にしまってあります。もちろん鍵をかけて」
「やっぱり、鍵がかかるところのほうがいいのかしら?」
「え? カーナはどこにおいてあるのよ」
「本棚に並んでいる」
つまり、同人誌を本棚に並べるか、鍵付きのどこかにしまっておくかの違い。
「それで、リーン先生はどうしているのかな?」
カーナはいたずらな笑みを浮かべている。
「私? 効率化が優先されるので、机の上に並んでいます。幸いにも、婚約者がいませんので」
だが、義弟がいたことを思い出した。
だからってアイリーンが不在の間に、部屋に入るようなことは無かっただろう。それに大事な作品たちは、アイリーンと共に移動しているから彼女の側を離れるようなことはなかったはず。
と思いつつも、急に不安が押し寄せてくるのは何故だろう。
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そして、まだ続きます!!





