俺は今バロス父さんに抱かれていた
俺は今バロス父さんに抱かれていた。その太い腕の中、俺の耳に厚い胸の熱い鼓動が響いていた。父さんは俺の顔をじっと見下ろし、吐息を漏らした。その切なそうな顔が俺の心をかき乱した。ダメだ。そんな顔されたら俺、どうして良いか判らなくなっちまう。俺は手を伸ばし、その男らしい顎に触れた。あ、髭剃り残し発見。ダメだろ、王様に会うのにそれじゃ。
「だえー。」ダメ。俺はプンスカした。誰だよバロス父さんの髭剃り残したの。不敬罪で父さんが処刑されたらどうすんだー。
「おやおや、ご機嫌斜めかな?」バロス父さんがふと笑った。そうそう、そういう笑顔が良いよ。ハンサムさんなんだから。まあ、あの苦悩に満ちた顔もなかなかだったがな。俺は髭の剃り残しを指でチョンチョンした。
「あー、これが気になるのか。うんうん。」バロス父さんはニコニコしていた。「まあ、いいだろ、これくらい。急いでたしな。」
「だえー。」俺は腕をぶんぶん振り回した。
馬車の中だ。石畳の上を走っているのに驚くほど揺れてない。窓の外の景色を見たかったがバロス父さんとヘラリー母さん、それにフォリーに抱っこリレーされて窓に近寄れない。護衛としてベーダーその他が同乗してる。てか、馬車の中広い。ナニコレ。ど真ん中に俺用のベッドもある。特別仕様?全裸のあいつは上空だ。
「あたし、王宮に入って大丈夫なんですよね?」フォリーが不安げにつぶやく。大丈夫じゃね?「怪しまれないでしょうか?」へ?どういう事?「その、メイドは外で待てって言われないですか?あたし、まだ自信ないです。訓練は十分したとは自負してますけど…。」ん?訓練?何の?メイド修行?「流石に王宮の結界を破るなんてまだ無理です。」は?いきなり話が物騒になったぞ。
「心配ないわ、フォリー。王宮には確実に入れるわよ。自信持って。あなたの能力はダレムが保証してたわ。あのダレムが褒めるなんてね。びっくりよ。まあ確かに王宮の結界はうちに匹敵する強固さだから、破るなんて無理ね。」ヘラリー母さんは安心させるようにフォリーの手を取った。ダレム?誰?「でも中に入れば、手薄…って言っちゃあダメね。でも基本、うちと同じようなものよ。寧ろ、うちの方が優れてるわ。わかるわね?」
するとベーダーが口を開いた。「ほう、ダレム師に褒められたのか、フォリー、そりゃ大したもんだ。あの爺さん滅多に褒めないからな。特級魔術師でもトップ中のトップだからなあ。」特級魔術師?魔法が上手い人?ふーん。じゃあフォリーって魔法が上手いって事か?でもなんか、話の内容的にこれ、ヤバいヤツ?
馬車が止まった。フォリーは俺を丁寧にベビーカーに乗せた。おおー!立派なお城が見える!あれ?ここからあそこまで徒歩?この距離だと十分…は歩かないか。でも五分は…三分?距離感わからん。すると急に辺りが暗くなった。全裸のあいつだ。遠くで人がわらわらと城から出てくるのが判る。お出迎えご苦労さん。全裸のあいつが、うーん、まあ竜だな、そいつが城の上空を旋回してるのを見ながら、俺たち一行は城へ城へと徒歩三分、両脇で人が整列する道を滑るように進んで行った。滑るように?え?これって歩く歩道…じゃねえ、動く歩道?ま、魔法…便利。でも何か、この並んでる人たち、みんな顔強張ってる気がするけど、気のせい?城の入り口に辿り着くと、タキシード姿の髭親父が立っていた。
「バロス様、ヘラリー様、エローシュ様、並びにナロスキーノ家の方々、ようこそ王宮へお越し下さいました。」髭親父は体を折って一礼し、ひらりと手を王宮の入り口へ伸ばした。「中へどうぞ。」
俺の頭上でフォリーがごくりと唾を飲み込むのが判った。うん、緊張するよね。俺もだよ。何だよ、このキラキラ。だだっ広い入り口のホールにも使用人らしき人々が整列してる。みんなとっても身なりが良いよ。ど庶民だった俺、身が竦んじゃう…て言いたいけど、もう慣れた。身なりの良さはナロスキーノ家だって同じだ。あれ?いつ結界突破した?まあいいや。
「では先ずはバロス様、ヘラリー様、エローシュ様はこちらでお寛ぎ下さい。他の方々は、申し訳ございませんが、こちらへ。」髭親父は俺たちを応接間…だよね?へ案内した。ここでフォリーやベーダーその他とはお別れ。んん?何で?
応接間もそりゃ豪華だった。給仕が二人と見張りが二人室内にいた。髭親父もここで一旦退場。
ヘラリー母さんは俺を膝に乗せ「大丈夫よ、エローシュ。何の心配もないわ。」と不安げな顔で言った。
「だいおー。」大丈夫。俺は母さんを元気づけようとニコニコしてみせた。お茶の香りがする。ん?これってその、抹茶?えええ?テーブルの上では紅茶カップに注がれた濃い緑の液体が湯気を立てていた。なんでやねん。そして、これは…この小さいのってドラ焼?はあ?このヨーロッパ風の世界観でコレ?うー。ゲームに似た世界ってあのヒャッハー親父言ってたけど、元ネタのゲームもこんななの?バロス父さんは左手でソーサーを持ち、右手でカップを口元に運んで抹茶を優雅に飲み、片眉を上げ「うむ、これはガンロ地方の茶だな。」と呟いた。判るの?ガンロ地方ってどこ?
「エローシュも何か飲みたいかしら?」ヘラリー母さんはテーブルに置いてある哺乳瓶を手に取った。「ふふ。変なものは入ってなさそう。」へ?ええ?どういう意味?俺は哺乳瓶の飲み口を口に含んだ。ちゅうちゅう。んー、美味だ。これ何だろ、ミルクじゃない。何て言うか、ヨーグルトっぽい。そういや初めての味だな。
寛いでた所へさっきの髭親父が応接間に入って来た。「それではバロス様、ヘラリー様、エローシュ様、どうぞこちらへ。王がお待ちです。」ついに対面すんの?王様!ひゃあ。ヘラリー母さんは俺を抱いて立ち上がり、バロス父さんに続いて応接間を出た。
コロナ自粛でヒマだった2020年頃に書いてたものです。
こういう小説を書くのは初めてです。
イキオイだけで書きました。
飽くまでギャグです。ツッコミはご遠慮ください。




