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この異世界バグってる  作者: Yeppie
第二章
19/27

その頃

その頃ディーターは薄暗い部屋でハゲた頭に大量の汗を噴き出させながら目の前の石板に映るポルダーの晴れ姿を凝視していた。


(うん、ちゃんと機能してる。さすが俺。ヒヤヒヤもんだったけど。)


興奮に体温が上がったせいで曇ったメガネを拭きつつ、ディーターはこの三日間の慌ただしさを思い出した。


(この間の騒ぎの尻拭いとはいえ、無茶振り過ぎだよ。ダレム師も判っててこんな事に協力させやがって。まあ、楽しかったけど。二日完徹なんていつ振り?この仕組み作るのに出来た失敗作がこんな形で役に立つなんてな。ま、でもお陰で今後の事がやりやすくなったのかな。今日の監視だけは部下には任せられなかったな。)


息を整えたディーターは国王がこの式典を異常無く鑑賞出来たか確認すべく、静かに王宮の小さな隠し部屋を出た。




その頃フォリーは自室で熟睡していた。この三日間、ほぼ徹夜でダレムの命でディーターの魔道具の作成を手伝わされていたからだ。ディーターは、あの青い球状の監視魔道具を完成させる前に試作品を多数作っていた。どれも欠陥だらけのポンコツだったが、一旦仕組みが完成した後なので、その欠陥を修正すれば何とかちゃんと動作しそうだと判明したのが救いだった。


王宮での騒ぎの直後、ポルダーの五歳の式典に招かれた貴族達の欠席を知らせる使いがほぼ同時にナロスキーノ邸に殺到し、ナロスキーノ家の執事トラバスはパニックになった。こういう事態は初めての事だった。

「使いをわざわざ遣さなくても済む様になれば良いのに。」このポロっと出た愚痴が、様子を見に来たダレムに聞き咎められ、「そうじゃの。まあ貴族は体面を重んじるから無理かも知れぬが、もっと簡単で良い連絡手段があれば、少しは楽になるかも知れんのお。」とトラバスは耳元で囁かれた。

(爺さん、基本、暇してるもんなあ。名誉職なんてあんなもんだろうけど。子供達に魔法教えるのだって、あれ、爺さんの趣味みたいなもんだろ。にしても屋敷内うろうろし過ぎだよ。迂闊に愚痴も口に出来やしない。)トラバスはダレムの目がキラキラしてるのを見て、悪い予感が背筋に走った。そしてその悪い予感は的中した。それがいつの間にか、式典の様子を離れた場所でも見られるようにするというアイデアに取って代わったのだ。その後トラバスが忙殺されたのは当然の流れだった。


フォリーは突然ベッドから跳ね起きた。(やだ、あたし、ムチャクチャ寝ちゃった!)横を見るとミュウビーがお茶を飲んで寛いでいた。

「ちょっ!ミュウビー、まさか、もう、終わったの?」フォリーは慌てて髪を撫で、寝癖を直そうとした。

「終わったわよ。もう、姉さん、全然起きないじゃない。エローシュ様の世話もあるから姉さん起きるまで粘るわけにいかないし。まあ、何事も無く終わったわ。もう少し寝てたら?ホント、お疲れ様。」ミュウビーはフォリーを横目で見ると、一口お茶を啜った。

「あ、あ…えええ!もう、あたし、楽しみにしてたのにー!ね、あの球、ちゃんと動いてた?」フォリーはベッドから降りてミュウビーの側に立った。

「姉さん。あたし姉さんみたいに魔法得意じゃないの。わかんない。動いてたんじゃない?」ミュウビーはため息を吐き、「それより、起きたんなら食堂行って来たら?今夜の賄い、超豪華だから。」




その頃王宮のある一室では、王とシャラルラ王妃、そして十五歳になる第一王子のガザーフ、十二歳の第二王子のギルモード、八歳の王女のクレメラが、石板に映るポルダーの式典の様子を見終えていた。王家だけでもナロスキーノ家の式典に参加する予定だったのだが、ローヨップ史上初の試みをこの目で見る方を王は選んだ。


「素晴らしいです、お父様。これ、大革命ですよ。」ガザーフは興奮に鼻息も荒かった。王家の見ている石板は最も大きく、50センチ四方程あった。これは新しく作ったもので、ディーターとフォリーの力作だった。

「うむ。誠に素晴らしい。この日のためだけというのは勿体無いのお。」王は顎髭を撫でた。

「あら?ナロスキーノ家に独占させておくおつもりですか?」シャラルラは羊羹を口に運んだ。

「何を言っておる。この魔道具は王家から貸し出しているものだ。ナロスキーノ家のものではない。」王はシャラルラの澄ました顔を見た。(はあ、やっぱりイイ。)クールビューティー。シャラルラはそういうタイプの女性だった。「式典が終わり次第、明日にも回収する手筈だ。朕がどれだけ尽力したと思っておる?」

「まあ。ではこの…絵が映る催しはこれっきりで御座いますか?もったいない。」シャラルラは抹茶の入ったティーカップに口をつけた。

「今のところはな。何しろ急過ぎた。たった三日で用意したのだぞ。魔道具に何か不具合があるかも知れぬし、使い方も吟味せねばならぬ。」王はため息を吐いた。また忙しくなる。先日の王宮の騒ぎの後始末だってちゃんと終わっていない。(遊びたーい。わしゃあ遊びたーい!)王は心の中で叫んでいた。


「これは、新しい式典への参加方法になりますね、お父様。」ギルモードは表面が真っ暗になった石板を、椅子から身を乗り出し凝視していた。(すげえ。すっげえ。こんな時代が来るなんて。まるで本当に誰かがあの石板の中にいるみたいだった。俺の部屋に欲しいな、これ。)

「確かに凄いですわ、お父様。でも、やっぱり式典にはちゃんと皆に集まって頂いた方が良いような気がしますわ。」クレメラは椅子の背にもたれた。(だって、ドレスやアクセサリーをちゃんと見て頂きたいわ。こんな石板で見るだけじゃ、つまらない。お話だって出来ないじゃない。ダンスだって無理よ。)

「そうねえ、クレメラ。式典にはやはり人に集まって頂いてこそだわ。」シャラルラは賛同した。

「うむ。それはそうだ。今回のナロスキーノ家の場合は、今の状況が特殊すぎるからだからな。」王は眉を上げ、使者が耳打ちするのを聞いた。「ふむ。ディーターか。では入室を許す。石板の回収の手筈を整えよ。」




その頃リューちゃんは眠るエローシュの顔を見ていた。あの青い球は今は天井に収まり、相変わらず王宮の小さな隠し部屋にエローシュの様子を送っていた。

「全く、何故そんなに賢者を監視したがるのだ?」リューちゃんは呟いた。(賢者の能力を知りたいのか?我にかかればあんな物簡単にどうにでも出来るというのに。お陰で我も賢者を見守るのに好都合だが。それに、我はどうやら随分周りに怖がれているようだ。我が来ると世界が滅びる?何をバカな。)

リューちゃんは眠らない。ただじっとエローシュの寝顔を見るだけだ。

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