俺は段々
俺は段々眠気が勝って来たが、何とか目を開けていた。だって、これからポルダー兄さんの剣を振る勇姿が見られるっていうんじゃ、寝てられない。にしても、誕生祝いの食事、普通に終わったな。誕生日ケーキとか無いんだね、この世界。年齢分の蝋燭吹き消すところ、見たかったな。俺は、ふと日本に残して来た息子の貴文を思い出した。まあ、貴文はもう誕生ケーキに燥ぐような歳じゃ無いけど。元気でやってるかな?出来れば孫の顔を見たかったけど、貴文が結婚する前に俺が死んじゃったもんなあ。あ、でも貴文、彼女とその後も付き合ってるかはわかんないもんなあ。貴文も死んだら、俺みたいに別世界に転生するのかな?
俺はミュウビーにベビーカーに乗せられて、大広間へ家族と一緒に移動した。
「本来ならここで来賓の皆様の前で剣を振るう姿をお披露目出来たのにねえ…。」ヘラリー母さんがため息を吐く。「でも、まあ今はこういう便利な魔道具があるから、面目は多少保てるのかしら?」
「そうじゃの。まさかこんな時代が来るとは、わしの頃には想像もしとらんかった。」あれ?この爺さん誰?髪の毛長過ぎ。うお、眉毛ボーンだ。その黄色いマント、派手だなあ。
「お任せしますわ、ダレム。ご協力頂けて、本当に感謝してますわ。」ヘラリー母さんがふわりと笑った。やっぱ美女だなあ。この爺さんがダレムなのか。
「任された。」と眉毛ボーンの爺さんが眉を上げた。目がちゃんと有った。当たり前か。ふと上を見ると灰色の球が浮かんでた。俺にしつこく付いて来る、あの青い球に似てる。「ディーターには感謝せんとのう。」とダレムは頭上の灰色の球を指差し、前方へ向けた。するとそれに合わせて灰色の球も前へ動いた。
「お母様、ぼく、ここで良い?この台座だよね?」ポルダー兄さんが祭壇のような台に立っていた。
「ああ、ポルダー、まだそこに立たないで。いい?こっちに来て。まず、儀式開始の挨拶があるから、それが終わったらゆっくりと、威厳を持ってあの台座に歩いていくの。そして台座に登って五歳になった挨拶をするの。いっぱい練習したでしょう?それが終わったらお父様があなたに剣を渡すわ。それを練習通り受け取って、剣を振るの。それだけよ。出来るわね。出来るわ。」ヘラリー母さんが困った様な顔でポルダー兄さんの頬を撫でていた。祭壇の両脇から後ろへ花輪…かな?花輪が祭壇を囲む様に連なっており、その中をポルダー兄さんが祭壇へ向かって歩いて来るらしい。ふうむ。何だか良く判らない。貴族の誕生パーティーってこんななの?
「時間だ。」パンター兄さんが低く響く声で言い、手を挙げた。「良し。」そしてその手をすっと下げた。
「この度はナロスキーノ家が五男、ポルダーの五歳の剣の儀にお集まり頂き、誠に感謝の至りでございます。皆様の祝福がポルダーの未来を明るく照らす事でしょう。それではポルダーより皆様へのご挨拶がございます。」バロス父さんの朗々とした落ち着いた声が大広間に響く。家族全員と、使用人たちが見守る中、祭壇へ向かってポルダー兄さんが胸を張り、手を大きく振ってゆっくり歩いて来た。うん、ちょっとぎこちないね。俺でも緊張するよ、こんなの。これを観衆の面前でやるのってキッツいよ、分かるよ、兄さん。ん?まさか俺も五歳になったらこれやるの?キッツ!
祭壇に登ったポルダー兄さんは首を右から左へゆっくりと動かし、真正面を見ると「皆様、私が先ほどナロスキーノ家当主バロスより紹介された…ナロスキーノ家が五男、ポルダーでございましゅ。」あ、今噛んだ。頑張れ。「…本日は、私のためにお集まり下さり、誠に感激しております。こうして無事に五歳を迎える事が出来ました。まだまだ小さなこの身に、これ程の祝福を授かるのは光栄の…と言う他、御座いません。」い、言い直した。うおお、俺もう感動してる。泣きそう。あ、今泣いちゃダメだ。おんぎゃあしちゃう。「これからの未来、ローヨップを守り、支え、ローヨップを更なる栄光に導く事を…誓いまあす。」惜しい!うう。やっぱり泣いて良い?俺やっぱり涙腺緩んでる。歳のせい?
すると、祭壇の左斜め前から男が…ああ、あれバロス父さんだ。お?右からは…ああ、あれが剣?四角い漆器みたいな黒く長い箱にふかふかした赤い布が敷いてあり、その上に鞘に入った剣が乗っていた。それを軍服っぽい衣装の男が横向きに真っ直ぐ持って歩いて来た。ん?ベーダーかな?そうだな。バロス父さんとベーダーは祭壇の前で向かい合った。するとベーダーは片膝をつき、恭しく剣を納めた黒い箱を頭上に掲げた。バロス父さんは剣を両手で掬い上げる様に持ち上げると、その姿勢のまま祭壇へ向き、ポルダー兄さんを見上げながら数歩近づいた。ポルダー兄さんは剣を両手で握って持ち上げ、左脇に剣を固定した。そしてポルダー兄さんは剣の柄を握り「ローヨップに栄光あれ!」と叫び、剣を抜いた。
家族と使用人が見守る中、両手で剣を握ったポルダー兄さんは姿勢を作ると、先ず真っ直ぐに剣を下まで振り下ろし、それを中程まで降り上げると剣の角度を横向きにし、左から右へ思い切り振った。かっこいい。兄さんかっこいいよ。俺も五歳になったらこれやるの?ヤッタ!
ポルダー兄さんは剣を鞘に収めるのにちょっとだけ引っかかってたが、まあ許容範囲じゃないかなあ。なんか、俺、本当に感動しちゃった。ポルダー兄さんが一礼すると、大きな拍手が起こった。拍手、拍手!「あくゆー!」
「それでは、神に感謝を込めて祈りを捧げよう!」ポルダー兄さんは顔を上げ、両手も挙げた。あ、これ、いつものヤツ。
「ヒャッハー!」一同斉唱、俺以外。
「無事、終わったわね。」ヘラリー母さんが涙声で言った。やめて。もらい泣きするから。
「終わりましたのお。これで今日来なかった貴族連中も満足でしょうな。」とダレムが言った。え?何で?
「そうね、こんなの初めてだもの。その意味でも満足でしょう。でも、私は皆様にここで、この場所でポルダーを祝福して頂きたかったわ。」と母さんは刺繍いっぱいのハンカチで涙を拭きながらボヤいた。「根回しだって大変だったんですからね。たった三日よ?よく実現できたわね。さすが、ダレムの一番弟子って事かしら?」
「ああ、そうですのお。ディーターが、それにフォリーも頑張りましたな。まあ試作品が出来てた事と、王が色々手筈を整えて下さったのと…感謝ですな。」とダレムは灰色の玉を回収して小さな箱へ入れた。
「ねえ、まさか自邸でもこの式典の様子を見られる時代が来るなんて。びっくりよ。」へ?何それ?
「まあ、一部の来賓にしか、この魔道具は行き渡らなかったが、しょうがない。時間が無さ過ぎましたな。魔道具が行かなかった家は、どうせ魔道具の来た家に押しかけたじゃろうな。」ダレムは眉を上げた。
「でも本当にちゃんと届いたのかしら?殆ど試運転してないのでしょう?」母さんの涙はすっかり引っ込んでいた。
「大丈夫じゃろうて。そもそもこの式典に来ない方が無礼じゃ。無礼の極みと言って良い。」ダレムは安心させるような微笑みを浮かべ、次に鼻息も荒く言った。ですよねー。
でも、話の内容から察するに、実況中継してたって事?かな?生放送ってヤツ?
「良く出来たな。かっこ良かったぞ。」とバロス父さんが項垂れるポルダー兄さんを慰めてた。
「でも。ぼく…ちょっと間違えちゃった。」いやいや、立派だったぞ。
「いっあー。」俺はポルダー兄さんに向かって手を振った。
「ほら、エローシュも立派だって。」プース兄さんがクスクス笑う。そうだよー。
「できただろ、シャッ、シャッて。」ベクター兄さんが手を縦横に振る。
「最初はあんなもんだよ、ポルダー。」とピオール兄さん。
パンター兄さんは身重の妻のセロンを連れて大広間から静かに出て行った。
俺は普通に寝落ちしてた。




