俺は八ヶ月
俺は八ヶ月になり、ポルダー兄さんは五歳になった。ポルダー兄さんの誕生日、家族がコの字型に並べられたテーブルに勢揃いしてるのを俺は初めて見た。奥の上座には両親が、向かって右側のテーブルにはパンター兄さんとその妻セロン、ピオール兄さん。反対側にプース兄さん、ベクター兄さん、ポルダー兄さん。そして俺はその末席の小さなテーブルの赤ん坊用の椅子に乗せられ、横には俺の世話をするためにミュウビーが座っていた。その日の主役はポルダー兄さんだから、もっと上座に近くて良くね?と思ったが、席順は固定のようだ。三男のプース兄さんは誕生祝いのために寄宿舎から屋敷へ戻って来てた。セロンは臨月で、流石にお腹が大きかった。
テーブルの間の真ん中のスペースで給仕がちょこまかしてた。さすがに俺には離乳食だが、他の家族はフルコースメニューだ。でもって、例の変態全裸野郎ことリューちゃんは俺の部屋に待機してた。あの青い球に魔力接続し、俺の様子をそいつ経由で観察する技を覚えたからだ。だから、ポルダー兄さんの誕生祝いの最中、ずっと俺の頭上にあの青い球が浮かんでた。まあ、この球、追尾機能ついてるからどっちにしろ俺にくっついて来ただろうけど、本当、どうにか出来ねーの?そういや、リューちゃんは飲食しない。「いらぬ。」って言うだけだ。霞でも喰ってんのか?
「これからはエローシュもこの部屋で食事するようにしたらどうかしら?」とヘラリー母さんは提案したが、バロス父さんはまだ早いと否定した。まあ、他の家族がフルコースでゆったり食事してるのに、赤ん坊がご飯茶碗一杯分も無い離乳食っていうんじゃあ、間が持たん。気まずいよ。ちなみに俺はもう喰い終わってキャッキャしてる。空いた器は下げられて、ミュウビーは今俺の後ろにいる。
そういや俺、とうとう歯が生えて来た。だから割と近い将来同じ部屋で食事を家族とするようになるかも。俺だってちゃんとスクスク育ってんだよ。今後の食事が…あ、涎がエプロンに…。ミュウビー、すまん。
バロス父さんの横に立ったシェフっぽい服を着た親父が言った。「本日のメインはポリネラのロースト、アレーム・ソースを添えて、で御座います。」は?な、何?ポリネラ?アレー…えっと?
「あーポリネラー、ぼくの好きなやつー。」とポルダー兄さんがシェフをキラキラした目で見た。「あれ、すごーく貴重なんでしょ?すごーい!」はあ、ポリネラって高級食材なんだ。
「ポルダー、気持ちはわかるわ。でももうそろそろ言葉をきちんとしなさい。」とヘラリー母さんが嗜めた。「まあ、でも、今日は良いわ。今日であなたは五歳、本来ならもっと盛大にお客様をお呼びして祝う筈だった。なのにあんな事があったお陰で急に内々での誕生祝いになってしまったもの。大事な節目だと言うのに。でも。贈り物は沢山届いているわ。」
あんな事かあ。王宮でのあの騒ぎが原因で、変態全裸野郎ことリューちゃんこと始祖のドラゴンが出現したって、ローヨップの有力貴族に広まったっぽいんだよなあ。隠したくてもあんな騒ぎじゃ、あっという間に知れ渡るよ。にしても誰も来ないって極端。まあ、そりゃ…何しろ何でも知ってて世界を滅ぼすだの言われる始祖のドラゴンが常駐する屋敷。しかも王すら跪くって…怖ーな、普通に。ポルダー兄さん気の毒。まあ、兄さんは気にするどころかこの状況を歓迎してたけど。
「これでいいよお、お母様。ああいうの、ぼく好きじゃない。大勢の前で、あんな…挨拶出来ない。いっぱい練習したよ?出来る…けど…それに…やっぱり剣を手にしなきゃダメ?ぼく、怖い。」ポルダーはモジモジした。
「うむ、ポルダー、それは必ず行うぞ。大事な儀式だ。いつまでも怖がっていては大人になれないぞ。」バロスが優しく低い声で言った。
「大したことないよ、ポルダー。」ベクターがポルダーの肩をポンポンと叩く。「練習してただろ、剣を振る。」ベクターは右手を上に挙げ、振り下ろした。「それに、挨拶は結局するんだよ?わかってる?」
「ベクター、食事中ですよ。」ヘラリーが嗜めた。「給仕が終わった様です。ではいただきましょう。」
あれが…ポリネラ?ま、何かの肉…だよね?見た目は牛肉っぽいけど、何だろ。あと、ソースってあれクリーム・ソースだろ。アレー…なんとかって言ってたけど、聞き間違いかな?でも美味そうな匂いしてる。あれ、俺も食べられる日が来るかな?「だーだ、だーだ。」俺は腕を上下に動かし、無意識に声を出していた。
プースはエローシュの様子を横目でじっと見た。(賢者かあ。なるほど。発育がちょっと早いよなあ。言葉も絶対もう理解してる、あれ。)柔らかく調理されたポリネラを静かに切り、口へ運ぶ。(うおー、久々のポリネラ絶品!それにしてもあの始祖のドラゴン、リューちゃんだっけ、聞いてたけど、あれは…ビックリするよなあ。ちょっと睨まれちゃった。おっかねえ。名前似合ってねえ。それにしても、あの青い球。エローシュから離れないのな。あれってやっぱりエローシュ見張ってんのか。)プースは無意識に次々と早いペースでポリネラを切っては口へ運び、気づけば最後の一口になっていた。(あ、やべ。もうない。これ、お代わり…出来ないよね?うーん…。)十一歳のプースは育ち盛りで、背丈も体重もこの一年でかなり増えていた。プースが何気なく給仕を見ると、給仕は迷いなくもう一皿ポリネラのローストを運んで来た。(マジで?)
「ありがとう。」プースは給仕に大きく微笑んだ。実はポリネラは余りに余っていた。急に来賓が無くなったからだ。「代わりなら、まだ御座います。」給仕も大きく微笑んだ。今夜の賄いは豪華だ。
ポリネラは凶暴な動物だった。森深くに隠れ住み、滅多に見つかる事はない上に、大きく重く俊敏で力も強く、狩るのは一筋縄では無理だった。その希少性も相まって、ポリネラの肉は至上と言われる程美味だった。今では狩る方法が確立し、昔に比べれば容易だが、それでも手軽に手に入る食材とは言い難かった。しかし何故か最近ポリネラは簡単に見つかるようになっていた。
五歳の誕生パーティーは特別だった。「五歳の剣の儀」と呼ばれるそれは、五歳まで生き延び、これから大人として成長することを願う大事な節目だ。ナロスキーノ家ともなれば百人からの来賓を満足させねばならない。そんな折、ポリネラの肉が大量に手に入る機会が訪れた。早速シェフはその肉をパーティー用に仕入れた。
もしエローシュがポリネラを森で見たらこう思っただろう。
「パンダ?」
2025年から漸く書き始めた続きです。
相変わらずイキオイだけです。
飽くまでギャグです。ギャグですからね。




