↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/64

第8章:小さな成功

王都。


王城の会議室。


長い机の上に、いくつもの書類が並んでいる。


年次報告。


統計。


調整局のまとめ。


地方議会の報告書。


宰相フェルナーが一枚の紙を机の中央に置いた。


「今年の統計です」


王太子アルドリックはそれを手に取る。


数字の並ぶ報告書。


そこにはいくつかの項目があった。


まず一つ。


大規模飢饉なし。


数年前まで、この国では周期的に起きていた。


干ばつ。


流通の停滞。


魔力供給の偏り。


それらが重なると、


地方のどこかで必ず飢えが出た。


だが今年は違う。


不作の地域はあった。


だが物流が動いた。


別の地方から穀物が運ばれた。


飢饉にはならなかった。


アルドリックは次の項目を見る。


魔力暴走事故減少。


巨大魔法装置。


魔力過負荷。


かつて王都では何度も起きていた。


装置が暴走し、


街の一角が停電する。


工房が焼ける。


だが今は違う。


魔力使用制限。


分散運用。


非魔力技術の導入。


結果。


事故は確かに減っていた。


そして最後。


地方人口微増。


小さな数字。


だが意味は大きい。


これまで人は王都へ集まるばかりだった。


地方は減る。


村は空く。


だが今は少し違う。


小さな町が増えた。


新しい農地。


新しい工房。


ほんのわずかだが、


人が戻り始めている。


アルドリックは書類を机に置く。


会議室は静かだった。


誰も歓声を上げない。


誰も拍手しない。


なぜなら。


数字は地味だからだ。


劇的ではない。


王国が急成長したわけでもない。


黄金時代でもない。


ただ。


飢饉がない。


事故が減った。


人口が少し増えた。


それだけ。


アルドリックは言う。


「……地味だな」


フェルナーは頷く。


「ええ」


窓の外には王都の街が広がっている。


塔。


通り。


市場。


いつもの王都。


見た目は何も変わっていない。


だが。


この国は崩れていない。


それが変化だった。


アルドリックは椅子に背を預ける。


ふと、辺境のパン屋を思い出す。


窯の火。


市場の声。


レティシアの言葉。


「社会は」


「少し壊れながら進むものです」


彼は小さく息を吐く。


英雄はいない。


伝説もない。


誰も歌を作らない。


それでも。


国は続いている。


アルドリックは静かに言った。


「これが成果か」


フェルナーは答える。


「はい」


短い言葉。


だが、それで十分だった。


王国は劇的に救われてはいない。


だが。


崩れてもいない。


それが。


小さな成功だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。