第5章:辺境の継続
辺境の町。
朝。
薄い霧が畑の上を流れている。
太陽はまだ低い。
だが町はもう動いていた。
市場の準備。
荷車の音。
家々の煙突から上がる煙。
その中に、いつもの煙もある。
パン屋。
小さな店の裏で窯が燃えている。
ガルドが腕まくりをして窯の中を覗き込む。
炎が揺れている。
「もう少しだな」
そう言いながら薪を一本入れる。
火が少し強くなる。
店の中ではレティシアが生地を整えていた。
粉。
水。
塩。
ゆっくりと手を動かす。
かつて王城で書類を扱っていた手が、
今は生地をこねている。
だが動きは慣れていた。
窓の外では人が増えている。
市場は前よりも大きくなった。
店の数が増えた。
農産物。
布。
工具。
酒。
様々な商品が並ぶ。
街道から荷車が入ってくる。
遠くの町から来た商人もいる。
農地も広がっていた。
町の外。
畑が増えている。
新しい水路。
新しい井戸。
若い農民が働いている。
さらに職人の工房も増えた。
鍛冶屋。
木工。
織物。
小さな工房が並んでいる。
町は確かに成長していた。
だが。
すべてが順調なわけではない。
去年は干ばつがあった。
川の水が減り。
収穫が落ちた。
今年の春には、
ある商人の事業が失敗した。
倉庫が空になり、
店は閉じた。
別の通りでは、
小さな店が潰れている。
板で塞がれた窓。
誰もいない入口。
市場の人々はそれを見ても騒がない。
少しだけ話題になる。
そしてまた仕事に戻る。
完璧ではない。
問題は起きる。
失敗もある。
人は去る。
店は潰れる。
だが。
町は止まらない。
別の店が開く。
別の人が来る。
別の畑が耕される。
そうやって。
少しずつ回っていく。
パン屋の窯からパンが取り出される。
ガルドが布で掴み、台に置く。
香ばしい匂い。
レティシアがそれを並べる。
ガルドが言う。
「また店が一つ潰れたらしいな」
レティシアはうなずく。
「聞きました」
ガルドは肩をすくめる。
「景気がいいんだか悪いんだか」
レティシアは少し考える。
窓の外を見る。
市場。
人。
荷車。
そして遠くの畑。
すべてが動いている。
彼女は静かに言った。
「社会は」
少し間を置く。
「少し壊れながら進むものです」
ガルドは鼻で笑う。
「ずいぶん雑だな」
レティシアは小さく笑う。
「でも本当です」
もし壊れない社会があるなら。
それは動いていない社会だ。
変わらない。
失敗しない。
だが成長もしない。
ここでは違う。
壊れる。
直す。
また進む。
それを繰り返す。
ガルドは焼き上がったパンを並べる。
「まあ」
「回ってるならいいか」
レティシアは頷く。
窓の外。
市場の声が広がる。
町は今日も動いている。
完璧ではない。
だが。
確かに回っていた。




