第4章:調整局
王都。
王城の西側。
古い行政棟の一部が改装されていた。
石壁の廊下。
広い会議室。
そして入口の上には、新しい看板が掲げられている。
王国調整局
まだ新しい木の板だ。
文字も深く刻まれてはいない。
それでも、この小さな看板は王国にとって大きな意味を持っていた。
中ではすでに会議が始まっている。
長い机。
その周りに座る人々。
だが、その顔ぶれは王城の会議としては奇妙だった。
貴族ばかりではない。
官僚だけでもない。
そこには――
地方代表。
王都官僚。
技術者。
商人。
様々な立場の人間が並んでいる。
合議制。
一人の判断ではない。
議論して決める。
それがこの機関の原則だった。
机の上には地図が広げられている。
王国全体の地図。
そこに書き込まれた線。
物流路。
魔力供給路。
人口移動。
農地。
ある官僚が言う。
「王都の魔力消費はまだ高すぎます」
技術者が頷く。
「油灯への切り替えは進んでいますが」
「完全移行には時間がかかります」
地方代表が口を挟む。
「その間に余剰魔力を地方へ回せませんか」
商人が言う。
「物流路を変えれば可能です」
机の上の地図に指が動く。
川。
街道。
港。
王国の流れが線になっていく。
これが調整局の仕事だった。
魔力配分。
物流調整。
地方支援。
技術共有。
王国の資源を見て。
流れを見て。
偏りを直す。
血流のように。
止まらないように。
ゆっくり整える。
会議室の奥。
一つ空いている席がある。
そこは特別な席だった。
だが、その席の主は今ここにいない。
レティシア。
彼女は常駐していない。
調整局の設計者。
だが職員ではない。
彼女は辺境にいる。
パン屋のある街。
必要な時だけ王都へ来る。
そしてまた帰る。
理由は単純だった。
中央に固定されれば。
また中央依存になる。
制度は人に頼ってはいけない。
仕組みで回らなければ意味がない。
だから。
調整局は彼女がいなくても動く。
議論し。
決定し。
実行する。
それが新しい構造だった。
窓の外。
王都の街が広がっている。
魔力灯が並ぶ通り。
城の塔。
市場。
そして遠くには街道。
その先には地方がある。
村。
畑。
小さな町。
調整局はそこまで見ている。
王都だけではない。
王国全体。
会議室では議論が続く。
地図の上に新しい線が引かれる。
物流路。
技術移転。
資源配分。
誰かが言う。
「この街は水車が使えます」
別の声。
「なら魔力供給は減らせます」
また別の声。
「余った分を北の農地へ」
小さな調整。
大きくない。
劇的でもない。
だが。
こうして少しずつ。
王国の血流は整えられていく。
遠く。
辺境の町。
パン屋の煙突から煙が上がっている。
レティシアはまだ知らない。
今日も調整局で
いくつもの流れが
静かに動き始めていることを。




