【最終幕】湿った未来 第1章:改革の始まり
王城。
重い扉が閉じられる。
石造りの会議室。
長い机。
その周囲に並ぶ椅子。
王国の主要人物が全員集まっていた。
貴族。
神殿の代表。
官僚。
軍の指揮官。
そして宰相フェルナー。
普段なら静かな会議だ。
だが今日は違う。
中央に立つのは王太子アルドリック。
彼の前には一枚の文書が置かれていた。
王太子はそれを見下ろし、ゆっくり顔を上げる。
「本日、王国の新政策を発表する」
会議室がわずかにざわめく。
アルドリックは淡々と続けた。
「第一」
「王国調整局を設立する」
貴族たちが顔を見合わせる。
「財政、魔力資源、物流、地方政策を統合的に管理する機関だ」
一人の老貴族が眉をひそめる。
「第二」
アルドリックは続ける。
「魔力使用制限法を制定する」
今度ははっきりとざわめきが広がった。
「王都の魔力インフラ使用量を制限する」
「非魔力技術の導入を推進する」
油灯。
水車。
風車。
機械。
王都ではほとんど忘れられていた技術。
アルドリックは止まらない。
「第三」
「聖女制度の再設計」
神殿側の席が一斉に動く。
「聖女の加護は災害時に限定する」
「平時の常時供給は停止する」
神殿代表が思わず立ち上がる。
「それは――」
だがアルドリックは言葉を遮らず、続ける。
「第四」
「地方自治議会を設置する」
「地方税の一部は地方に留保」
「王都は調整機関とする」
そこまで言った瞬間。
会議室は爆発した。
「何を言っている!」
「王権を弱めるのか!」
老貴族の声が響く。
別の貴族が机を叩く。
「地方に権限を渡すなど愚かだ!」
「統治が崩れる!」
さらに別の声。
「魔力制限など経済を殺す!」
「王都の産業はどうする!」
神殿代表も怒りを隠さない。
「聖女の加護を制限するとは何事だ!」
「神の恩恵を削るというのか!」
官僚たちは顔をしかめながら書類をめくっている。
一人が冷静に言った。
「制度変更には」
「最低でも十年はかかります」
その言葉は現実的だった。
王国の制度は巨大だ。
法律。
税制。
行政。
神殿。
すべて絡み合っている。
十年。
それはむしろ短いくらいだ。
会議室は騒然としていた。
だが。
中央に立つアルドリックは動かない。
彼は静かに言った。
「十年でいい」
声は大きくない。
だが。
会議室が少しだけ静かになる。
アルドリックは周囲を見回した。
怒る貴族。
苛立つ神殿。
困惑する官僚。
そのすべてを見て、彼は続ける。
「国は」
少し言葉を選ぶ。
「すぐには変わらない」
それは事実だった。
戦争なら勝敗がある。
だが政治は違う。
制度はゆっくりしか動かない。
だから彼は言った。
「十年でいい」
もう一度。
今度ははっきりと。
「十年かけて変える」
会議室の空気が変わる。
貴族たちは顔をしかめる。
官僚たちは考え始める。
宰相フェルナーは、ただ静かに王太子を見ていた。
そしてわずかに目を細める。
アルドリックは言う。
「我々は今まで」
「明日の問題だけを処理してきた」
税収。
災害。
不満。
起きたことを対処する。
それだけだった。
だが。
「これからは」
王太子は言った。
「十年後の国を作る」
沈黙。
それは王太子の宣言だった。
王国の政治が
初めて
時間を持った瞬間だった。




