↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/64

第七幕ラストシーン

王太子アルドリックの馬車がゆっくりと動き出す。


辺境の街道。


乾いた土の道。


車輪が静かに軋む。


護衛の騎士たちも多くない。


王太子は窓を開けて外を見ていた。


遠くに広がる畑。


風に揺れる麦。


畑の間を歩く農民。


そして。


煙。


あちこちの家から上がる、細い煙。


パン窯の煙。


料理の煙。


生活の煙。


王太子はその煙を見つめる。


この国には城がある。


巨大な塔がある。


魔法装置がある。


だが。


国はそこだけではない。


人が生きている場所。


それが国だ。


馬車はゆっくり遠ざかる。


パン屋の煙も小さくなっていく。


やがて見えなくなる。


アルドリックは小さく息を吐いた。


「……始まるな」


誰に言うでもなく。


ただ静かに。


王太子の馬車は王都へ戻っていく。


これから待っているのは。


貴族の反発。


聖女派の警戒。


官僚の抵抗。


政治。


争い。


そして。


改革。


馬車は遠くへ消えていった。


パン屋の前。


レティシアはしばらくその背を見送っていた。


やがて振り返る。


店の扉を押して中へ入る。


パンの匂い。


温かい空気。


いつもの店。


何も変わらない。


窯の火が静かに燃えている。


ガルドが腕を組んで立っていた。


「終わったか?」


レティシアは頷く。


「ええ」


ガルドは窯の中を覗き込みながら言う。


「また忙しくなるな」


レティシアは少しだけ笑う。


棚から布を取り、窯の扉を開ける。


熱気がふわりと広がる。


焼き上がったパン。


ふくらんだ丸いパン。


香ばしい匂い。


レティシアは一つ取り出す。


木の台の上に置く。


コツン、と小さな音。


そして静かに言った。


「ええ」


少し間を置く。


窯の火が揺れる。


レティシアは炎を見つめながら続けた。


「今度は」


パンの表面から湯気が立つ。


暖かい匂いが広がる。


「壊れない仕組みを作ります」


ガルドは何も言わない。


ただ小さく頷く。


窯の火は変わらず燃えている。


外では市場の声。


人の足音。


生活の音。


遠く。


空の向こう。


王都の塔がかすかに霞んで見える。


高い塔。


巨大な城。


だが。


王国はまだ傾いている。


制度は歪み。


利害は絡み。


流れは止まりかけている。


それでも。


今度は違う。


誰か一人に頼るのではない。


仕組みで支える。


壊れても回る。


揺れても続く。


そんな国を。


これから作る。


レティシアはパンをもう一つ窯から取り出す。


店の中に、香ばしい匂いが広がる。


外では子供が笑っている。


市場は今日も動いている。


王国はまだ傾いている。


だが。


今度は。


立て直そうとしている。


静かなパン屋の中で。


新しい時代が


ゆっくりと


焼き上がり始めていた。


第七幕 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。