第2章:王太子の予想
王都を出た馬車は、ゆっくりと石畳を離れていく。
整備された街路。
白い城壁。
高くそびえる魔力塔。
それらが、少しずつ遠ざかる。
やがて石畳は途切れ、道は土へ変わる。
車輪が小さく軋む。
王太子は馬車の中で、窓の外をぼんやり眺めていた。
側近たちは静かだ。
護衛騎士の足音だけが、ときおり聞こえる。
長い旅。
だが王太子の心は、どこか落ち着いていた。
考えているのは、目的地のことだ。
辺境。
王都から遠い土地。
彼の頭の中には、はっきりとした光景が浮かんでいた。
荒れた村。
崩れた柵。
痩せた農民。
干上がった畑。
壊れた倉庫。
盗賊に怯える商人。
秩序のない町。
かつて王都にいた令嬢が、そんな土地を治められるはずがない。
そう思うと、自然と口元が緩む。
「……ほら見ろ」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない言葉。
だがそこには、確かな安心があった。
レティシア。
かつて王都にいた令嬢。
冷たく、計算高く、周囲を操る女。
そう評されていた。
そして自分は、その女を断罪した。
王国のために。
秩序のために。
あの場にいた貴族たちも、皆それを認めた。
だから間違っていない。
間違っているはずがない。
もし辺境が荒れているなら。
それは証明になる。
自分の判断は正しかったと。
王国のためだったと。
王太子は深く椅子にもたれる。
馬車は揺れる。
外では風が草を揺らしている。
彼の頭の中では、もう結論が出ていた。
辺境は失敗している。
レティシアは失敗している。
そして自分は正しかった。
それを確認するだけ。
ただ、それだけの旅。
王太子は安心していた。




