07
「リンナを見和小チームに加えよう!」
そのことを一晩考えた俺は、翌日の練習前、チームの仲間達に協力を求めるべく彼らに訴えた。
「まーた、ショウグンが変な事言いだしたー」
ドンちゃんが、からかい気味に言った。周りが一斉に笑い声を上げる。むっとしながら俺は尋ねた。
「どこが変なんだよ!」
「だって……さ……」
ドンちゃんが周囲を見回した。ガジにノロヤンのバッテリーに加えて、五年生達の反応も悪い。
「ピッチャーが二人になればガジだって楽になるだろ!」
俺の提案に二人は渋い顔をする。ノロヤンが口を開いた。
「控えならマッツンがいるから問題ないよ」
「スピードはともかくコントロールは問題ありだろが……」
五年生でショートを任されているマッツンは、ピッチャーとしてはいまいち難がある。
俺の反論に周囲の空気が重くなる。それに気付かず俺は突っ走る。
「あの上ノ原の抑えがすぐ傍に居るんだぜ。もったいないって思わないのか? 優勝したくないのかよ!」
控えに四年生が二人いるとはいえ、戦力とするには力不足である。九人ギリギリのチーム状態では何かがあった時、身動きとれなくなる。リンナの力は、ぜひとも必要なはずだった。
『お前たちじゃ優勝は無理だろな!』
捨て台詞を残して卒業した先輩共の顔を思い出す。
「勝ちさえすればなんでもいいって言うのかよ、ショウグンは!」
ガジが珍しく食い下がる。
「勝たなきゃ面白くないだろ。一回戦で負けたら、その後、退屈じゃないか!」
「誰かさんがトンネルしなきゃな!」
「何だと!」
「まあまあ、落ちつけよ!」
ヒートアップする俺とガジの間にキャプテンのノロヤンが割って入った。
「と、とにかくさ、少し考えよーよ……」
ドンちゃんも割って入るが、なんとなく距離を感じた。
すっかり空気の悪くなってしまったところに、デンさんがやってくる姿が見えた。皆がいつもどおりに整列しようと駆けだした。
「ちゃんと考えてくれよな!」
聞こえているはずの俺の言葉に返事をしてくれる者は、誰もいなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
問題が起きたのは、翌日の練習での事だった。
「俺達……、もう辞めるから……」
俺がグラウンドに現れるや否や、そう言ったのは、ガジとノロヤンの二人だった。その本気度を示さんと言わんばかりに、二人は練習着ではなく、私服姿だった。
晴天の霹靂ともいう言葉に俺は思考停止し、ドンちゃんと下級生達は慌てふためいている。
「な、なに考えてんだよ! お前らがいなくなったらチームはどうなるんだ?」
下級生達と同じように慌てた俺は、二人に事の次第を正そうとする。ふてくされたガジに代わって答えたのは、いつもは温厚なノロヤンだった。
「ショウグンがリンナと二人でバッテリー組めばいいだろ!」
「リンナが入ってお前達がいなくなったら意味ないじゃん。第一、リンナがこっちに入ってくれるなんて、まだ決まっちゃいないんだぞ!」
すでに一度は断られている。
「だったら自分で頼めよ。もう俺達は関係ないよ」
「お前、キャプテンだろう、何、無責任な事、言ってんだよ」
「そうさせたのはショウグンだろ!」
ノロヤンは一歩も引く気はないようだった。
ガジどころかノロヤンまでもが本気である。俺は途方に暮れた。
「おーい、どうしたー?」
いつの間にかデンさんが現れていた。口論に夢中で誰も気付かなかったらしい。
「とめたって、もう遅いからな!」
ガジは、ノロヤンと二人で、チームを辞める事をデンさんにも宣言する。
「待て、一体、どういうことだ?」
デンさんの問いに二人は俺の方を見ながら手短に一連の出来事を報告する。完全に俺は悪者扱いだった。
二人の話を聞いたデンさんは眉を潜めて沈黙していたが、暫くして口を開いた。
「今日は練習は中止だ。全員帰れ!」
誰もがその言葉に戸惑った。唯一の大人であるデンさんならこの困った状況をどうにかしてくれるに違いない。
そう期待していただけに、誰もが落胆する。
「ほらほら、帰った、帰った。家でちゃんと宿題しろ!」
渋る俺達をデンさんは、グラウンドから追い立てようとする。
「ショウグン、お前はちょっと残れ! 話がある」
スポーツバッグを抱えた俺をデンさんが引きとめる。仲間達は皆、俺に背を向け、グラウンドを後にした。
「あいやしたー」
しばらくして、グラウンドへの感謝の一礼の声が遠くから聞こえた。
2019/05/18 初稿




