↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/144

第二章。闇堕ち

――ここは、何処だろう。

 前にもあった、こんな感覚。

 いや、無かった。こんな感覚じゃなかった。

 デジャブなんかない。

 僕は――死んだんだ。

 今度こそ――本当に死んだ。


 周囲に広がるのは、僅かな光すら見えない完全なる暗闇。

 僕は立っているのか、座っているのか。歩いているのか、浮いているのか。

 感覚と言う概念は消失している。

 ただ――怖い。

 この世界には何も無い。死後の世界は――限りない無。

 自我を喪失するまで、気が狂うまで、永遠に続く闇。

 ここは――地獄だ。

 

 怖い。怖い。怖い。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 湧き上がる恐怖が、心の底を暴力的にかきまぜ、ドス黒い感情を掘りかえす。

――どうして僕が死ななきゃいけないんだ。

 たった一人の魔族と、見知らぬ姉妹の為に命を捨てる必要がどこにあった?

――どうして彼女達は助けに来てくれなかったんだ。

 そもそも止めてくれればよかったんだ。説得してくれればよかったんだ。

――アイツらは、僕を見殺しにしたんだ。

 憎い。憎い。憎い。

 ニクイニクイニクイニクイ――。


『憎いか?』

 声が聞こえた。低くて、唸るような声。

「憎い……」

『殺したいか?』

「殺したい……」 

『力が欲しいか?』 

「力……」

『そうだ。力だ。お前が憎むモノ、全てを破壊する力だ』 

「力……欲しい……力が欲しい! 僕をこんな目に合わせたアイツらを――全てを破壊する力が欲しい!」

『ならばその手を伸ばせ』

 光が差した。

 完全な暗闇。

 永遠の絶望。

 無限の恐怖が蔓延するこの地獄に――一筋の光が。

 そして、僕は手を伸ばす。


――やめろ! 

「誰……?」 

――手を伸ばすな!

「嫌だ……。僕は力が欲しいんだ! 憎いアイツらに思い知らせてやるんだ!」

――誰も恨んでない。

「違う! 憎いんだ! ずっと思っていた! 理不尽だって! 力が欲しいって! ずっと思っていたんだ!」

――その想いは、憎悪じゃない。

「うるさい! 何でもいいんだ! 力が欲しいんだ!」

――しっかりしろ! その光を、よく見るんだ!


 闇に浮かぶ一筋の光。そこには誰かがいた。

 人型で、頭に異形の大きな角。

 薄っすらと浮かび上がるソレは、まさに悪魔だ。

「悪魔だから何だって言うんだ……。力が手に入るなら、何だっていい」

――ちゃんと見ろ! 『何処』が光っているのかを!


 何処が光っているのか。

 そんなの気にしてなかった。

 手を伸ばせと言うんだから、力を授けるんだから、位置的に手だと思っていた。

 だけど、違った。光ってるのは手なんかじゃなかった。

 悪魔の――股間だった。


「え、いらないです……」

 すっと抜けた。気が抜けた。毒気が消えた。

 何を考えていたんだ僕は。誰も恨んでなんかいない。憎んでなんかいない。

『何……だと……?』

 悪魔が呟く。

 いや、悪魔なんかじゃない。

 ボンヤリとしているが、頭に大きな角がついているが。

 悪魔なんかじゃない。

 筋骨隆々で、背中にマントらしき物体を羽織った――。

――股間を光らせた変態だ。

 おぞましい存在である事は間違いなかったが。


『要らぬと言うか。求めぬと言うか。全てを支配し得る力を欲さぬと言うか?』

「ああ。要らない。全てを支配する力なんて、僕がもらってもしょうがない」

『手を伸ばさぬなら、お前は永久の闇を彷徨う事になるのだぞ』

「嫌だけど、しょうがないよ」

 考えるのも怖い。

 だけどこれは僕が選んだ道の終点。

 僕が望んだ行動の行き着いた結果だ。

 悔いは無い。


『詭弁だ。お前は恨んでいる。憎んでいる。さっきの言葉はお前の本心だ』

「確かに――そうかもしれない。いや、そうだ。確かに僕は恨んで、憎んだかもしれない。そんな気持ちが少しでもある事を否定しない」

 僕は善人じゃない。

 醜悪な部分も、凶悪な部分も、当たり前にあるんだ。

「それでも僕は、誰も恨まないし、憎まない」

 光に手を伸ばす僕を制した声は――多分僕だ。

 あれが僕の本心だ。そう信じたい。そうで在りたい。

 僕は僕のまま――この物語を終わらせたい。


「それに、闇堕ちするにしても――股間は無い」

『何っ!?』

「いや、『何っ!?』じゃないでしょ! おかしいでしょ! 何でムキムキのおっさん――かは分からないけど多分おっさんだ! 変態のおっさんだ! 決して美少年じゃない! いや、たとえ美少年でも! 『股間』はないだろ!」

「どうしておっさんなの!? いや、おっさんでもいいよ! でも、どうして股間なの!? そこは手でいいでしょ!? 何で股間なの!? 何で光らせてるの!? 馬鹿なの!? 変態なの!? 変態だよ! 死ぬの!? いやもう死んでるよ!?」

『…………』

「カッコ悪すぎるでしょ! おっさんで変態の股間を握って『力が欲しい』ってありえないでしょ!? 闇堕ちかもしれないけど、堕ちる先が変わっちゃうよ!」

 セクシーソードとかセクシーアーマーとか、完全に色物ネタ装備を使ってた時点で格好なんかつかないけど、せめて最後くらいは締めたい。

 お尻はきっちりと締めていたい。


『……み、未練はないのか?』

「未練はない」

 あからさまに声の勢いを落とした変態に、きっぱりと言い放つ。

 だが、やはりただの変態ではなかった。

『童貞のまま死んで――本当に未練はないのか?』

 悪魔の囁き。

 僕が押し殺した未練を、無造作に引き上げる。

  

「ない……!」

『嘘をつくな。未練だらけじゃないか 未練しかないではないか』

「そんなものないし! 永久の闇の中で永久に自家発電するし! 誰もいない! 誰も見てない! 色々試せるし! アクロバットにエクストリーム発電するからいいし!」

『欲望から目を逸らすな。触りたいだろう? 舐めたいだろう? 女の温かさを、その身体で感じたいだろう?』

「そっ、そんなモノ――」

――感じたいです!

「なっ!? お前っ! いや僕の本心! 早いだろ! 出てくるの早すぎるだろ!」

『三ヶ月――そろそろ四ヶ月か? 溜め込んだその精を、解き放ちたいだろう?』

「べっ、別に――」

――解き放ちたいです!

「ああああ! 言うな喋るなどっかいけ! 掌返しすぎだろ! さっきまで必死に止めてたじゃないかよ!」

『いきり立った己をぶち込みたいんだろう?』

「「ぶちこみたいです!」」

 シンクロした。本心とシンクロした。


『力を求めよ。ならば授けてやる。全ての女を犯せる力を』

「お、犯すとか……そういうのは……」

『善人ぶるなっ!』

「ひっ!?」

 怒られた。股間を光らせた変態に怒鳴られた。

『男は多少強引でいいのだ! 快感無き強姦は悪だが、快感ある強姦は善だ。もはやそれは愛と言ってもいい』

「悪魔だからってめちゃくちゃな事言ってるな……」

『悦ばせろ! 強引でも快感を植えつけろ! 全ての女に愛を刻め!』

「もう良い言葉なのか何なのか分からないよ……」

『愛の種をばら撒け!』

「愛ってつければ何でも許されると思ってるな!? 何を言われても僕は揺るがないぞ! 悪魔どころか変態だし! 説得力ないわ!」

『余は悪魔などではない。変態である事は否定しないがな』

 いや、変態は否定しようよ。何よりも否定しようよ。

「悪魔じゃないなら一体――。っ!? も、もしかして……」

 僕の脳裏に浮かんだ疑問。それを遮るように声の主は言った。


『もうめんどくせ。お前ちょっと生き返って来い』

 心からだるそうに、突拍子もない事を言った。

 威厳に満ちた口調もフランクになっている。

「え? 僕生き返れるの?」

『十秒だけな』

「短っ!?」

『人間ってのはもう少し欲望に忠実な生き物だと思ったんだがな。お前の場合はちょっと違う。救いようのない馬鹿だ。だから、何を言っても分からないだろう。自分で気づけ』

「き、気づくってなんだよ!? 何に――」

 身体が吸い込まれていく感覚。

 闇が収束する。消滅される。

 そして構築される――。


 暗い。苦しい。何かに潰されている。

 何だこれ――股間? ああ、僕は彼女の下敷きになって死んだんだっけ。

 股間――股間。

 紛れもない股間。絶対的股間。

 この布切れ一枚隔てた向こうに――。

 うずめた鼻先の向こうに――。

 彼女の、女性の股間。未

 だ触れた事の無い、未知の世界(ブラックボックス)

 僅かな湿り気は、汗なのか、それとも――。


――ヤりたいか?

 やりたい。やってみたい。

――無理矢理にでも?

 無理矢理でも――やりたい。

――力が欲しいか?

 力が――欲しい。

 何者でも――犯せる力を。

――くれてやる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。