第二章。絶望の絶叫。
「止めろおおおおおおおおおおおおおおお!」
ニーヤの悲痛な叫び声も空しく、森に鈍い音が響き渡った。
この三ヶ月、共に笑い、泣き、様々な出来事を積み重ね、旅をしてきた彼が。
潰された果実のように、真っ赤な血を滲ませている。
あの笑顔も。子供のような泣き顔も。顔を赤く染めながら必死に謝る仕草も。
この世界から、消えてしまった。
「モミ! 行くよ!」
ニーヤの頬を濡らしている涙は、既に渇いていた。その跡を染めるのは、その瞳と同じ、真っ赤な血涙。
「ええ! 行きましょう!」
ニーヤの言葉に、モミが涙を拭う。歯を食いしばり、口元にうっすらと滲んだ血と共に。
飛び出そうとする二人だったが、身体が動かなかった。
動けないように、背後から服の裾を掴まれていた。
「ペロ!」
「ペロ様!」
二人の怒声にも、非難の眼差しにも怯まず、その小さな手からは信じられないほどの力で、掴んだ服を離そうとはしない。
「離せ! 離せよ! アイツを……殺してやるんだっ!」
「そうですよ! それに今なら! ペロ様なら! ケンセイさんを生き還せる事もできるじゃないですか!」
「行かせないっ!」
ペロの声に、二人は驚いた。
その言葉は、小さい頃からずっと一緒だった彼女が発した。
神の声ではなく。
初めて感情をむき出しにした。
彼女自身の声で――彼女の叫びだった。
「行かせないしっ! 生き返らせないっ! 無駄にしないで! ケンセイのっ! ケンセイの覚悟を無駄にしないでっ――!」
神の末裔として、無駄な感情を決して表に出さない彼女は泣いていた。
次から次へと、とめどなく流れる涙を拭う事もせず。
ニーヤも、モミも、ペロの涙を見るのはこれが二回目。
一度目も――彼と別れる決断をした時だった。
「あ、アタシ……。イヤよ……。こ、こんなの……こんなのいやあああああっ!」
覚悟を決めたわけじゃなかった。
彼が生贄になると決まった後でも、隙があれば飛び出すつもりだった。
でなければ、あんな簡単に行かせるわけがない。
だけど、出来なかった。
あのエルフに、神に。ほんの僅かでも、勝てる可能性を見出せなかった。
止めるべきだった。例え嫌われてしまっても、無理矢理にでも止めるべきだった。
でも、出来なかった――。
結果。大切な人を失った。
自分達の無力さを――心から憎んだ。




