第二章。ようじょとおりこうなおうまさん。
行程を練り終え、僕はペロ様と二人、街へ買い出しに来ていた。
はぐれないように手を繋いだペロ様。
彼女が何を考えているのか、その表情からは読み取れない。
だから、こんな時たまに不安になる。
「あのさ、怒って――ない? また僕が勝手に決めちゃったしさ」
彼女達の目的はテヘペロ村に戻る事。
今回目的地を変えたせいで、村への到着は大幅に遅れる事になる。
だから、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫」
そんな僕の不安を拭い去るように。
「ずっと――楽しい」
彼女はそう言ってくれた。
「そっか。ありがとう」
胸を撫で下ろす。その時、握った手に力が込められる。
「でも――怖い」
ペロ様が呟いた不安。それは、他の誰の言葉よりも重い。
「きっと、良くない事――起きる」
神の啓示。笑って聞き流せるモノではなかった。
「それは――。行かない方がいいって事?」
しばしの間をあけ、ペロ様が首を振る。
「行かないとダメ――」
「でも――怖い」
それだけ言って、彼女はうつむいてしまった。
「大丈夫だ」
繋いだ手を強く握りかえす。
「きっと大丈夫。何があっても、僕が必ず守ってみせる」
僕にそんな力なんてない。
誰かを守れるほど強くなんて無い。
それでも、守りたいという気持ちだけは負けない。
例え神を、世界を敵にまわしたとしても、
彼女達を守れるのなら、僕は何だってしてみせる。
買い出しを終え、馬車を預けてある商会へ。
そこには他にも沢山の馬が繋がれていたが、その中でも、彼女は一際目立っていた。
「元気だった? ディーナス」
近づいて頭を撫でると、彼女は不貞腐れたように鼻を鳴らした。
「こんなとこに置き去りにしやがって」と責めているようでもある。
「ディーナス?」
ペロ様が不思議な顔をする。
しまった。
家畜に名前をつけるのはダメだと言われていたから、僕だけがこっそり名前をつけてそう呼んでいたのだ。
「あ……。……内緒にして下さい!」
ペロ様は嘘がつけない。嘘をつかない。
そんな彼女に隠し事をしてくれなんて、荒唐無稽で無理難題。
断られるのは目に見えている。怒られるかもしれない。
「うん」
「えっ!?」
「二人の――秘密」
彼女はどこか嬉しそうに、
「ディーナス」
名前を呼んで頭を撫でていた。
「さて、と。荷物を詰んだけど――ここで待ってればいいのかな」
馬車を取りに来た後の事を聞いてなかった。
馬車で無神街には入れないし、そもそも僕は馬車を扱えない。
いつもはニーヤとモミさんが操縦しているし、こんな人通りの多い街中じゃうかつに動かせない。
旅の途中、何度か街中で暴走している馬車を見た事があるけど、あれは悲惨すぎる。
だから、ここは大人しく待つのが――。
「え……?」
目の前の光景に、僕は絶句した。
さっきまでディーナスと戯れていたはずのペロ様が、御者台に座り、手綱を握っているのだ。
その表情はどこか誇らしげで自信に満ち溢れているが、傍から見たら『幼女が悪戯心で乗ってみた』である。
商会内がざわめく。
そりゃあそうだ。下手したら大事故、あわよくば大惨事。そんな事の始まりの目撃者になっているのだ。
だが、誰一人止めに来る人はいない。
当事者の、搭乗者のペロ様が、あまりにも堂々としているから。
「ぺ、ペロ様運転できるの……?」
駆け寄った僕の質問に、彼女はゆっくり首を振る。
「初めて」
「いやいやいや! やばいでしょ! 危ないって!」
そんな僕をよそに、彼女は真っ直ぐ前を見据えている。
そして「いいから早く乗れ」とばかりに隣をパスパスと叩く。
「ディーナスおりこう。大丈夫」
ペロ様の言葉に、ソレを理解しているかのようにディーナスがいななく。
「いいから黙って乗れ」と言っている様でもあった。
「だ、大丈夫かな……」
恐る恐る、ペロ様の隣に座る。
謎の緊張が走る。僕だけじゃない。商会中が、ペロ様の一挙一動に固唾をのんでいる。
「ふんっ!」
「「「ひぃっ!?」」」
ピシィ! っとペロ様が手綱を引いた。
歩かせるというより、これから音速の向こう側を目指すように力強く!
――パカ。パカ。
ディーナスはゆっくりと歩き出した。
誰もが胸を撫で下ろす。
ペロ様の言葉に間違いはない。ディーナスはおりこうだった。
無事に僕達が到着したのは、街の出入り口。門の前だった。
ディーナスはやはりおりこうで、殆ど一人(一馬?)でストップアンドゴーを繰り返し、障害物を避けながら辿り着いた。
あからさまにめちゃくちゃなペロ様の手綱さばきはガン無視だった。
もしも従っていたなら、露店の半分はなぎ倒されていただろう。
門の前には、ニーヤにモミさんはもちろん。ナギさんも、トリナもルエラも見送りに来ていた。
「ケンセイさん……あの……本当に行くんですか……?」
ナギさんは最後まで心配顔。
「うん。そんな心配しなくても大丈夫だよ。必ず戻ってくるから、それまで無理しないようにね」
「分かりました。必ず、必ず無事で戻ってきてくださいね――」
「おっ!?」
抱きしめられた。艶やかな髪から、甘い香りが漂う。
「……うん。行って来る」
彼女を抱きしめ、しばしの別れを告げた。
こうして、僕達はウイリアを後にした。
次の目的地は、人も、魔族も近づかぬ禁足の地――栗花の森。
魔力を抑える伝説のペニ――ペヌスリンを求めて。
――きっと、良くない事起きる。
ペロ様の言葉に間違いはない。
それを僕は、そう遠くない未来。身を持って知る事となる。




