伝説の神龍
「やっと見つけたよ、アンタこんな所に――」
背後から聞こえたニーヤの声に振り返る。
僕の目の前のドラゴンに気付いた三人は、完全に固まっていた。
「し、し、神竜……ガロウ・クロウラ……」
「知ってるの?」
「ワーワルツに棲む伝説の竜です。……まさか実在したとは思いませんでした」
そんなすごいドラゴンだったのか。レアモンスターじゃないか。
すごいレアアイテムとか手に入っちゃう?
「ふん。人間共が勝手に言ってるだけの事。伝説でも何でもないわ」
つまらなそうにドラゴンが言う。
確かに、本人にとってはどうでも良い事なのかもしれない。
「モミさん。彼、怪我してるみたいなんだ。治してあげられるかな?」
「え、ええ。私で良ければ……」
「お前。何故そんな事をする? 傷が治れば、お前らを殺してしまうかもしれんぞ」
ドラゴンの言葉に、近づくモミさんの足が止まる。
「そんな事をするんなら、もうとっくに僕は殺されてますよ。モミさん、お願いします」
「わ、分かりました」
モミさんの手がオーラに包まれる。
ドラゴンの傷口に、そっと手をかざした。
「も、もう大丈夫だと思います……」
しばらく回復を続けたモミさんがその場に座り込んだ。
その顔には疲労の色が見える。相当体力を消耗したらしい。
「ありがとうございますモミさん。どうですか? 治りました?」
ドラゴンが翼を広げ、確かめるようにバサバサと動かす。
「うむ。礼を言うぞ人間」
「いえ……どういたしまして……」
「ところで、お前達は何処に向かっているんだ?」
「僕達はガジガラに向かっているんだよ。ちょっと会いたい人が居てね」
魔王を倒しに行く――とは流石に言えない。
嘘を付いているわけじゃない。三人はともかく、僕の目的はそれなんだから。
「ふむ。では連れてってやろう」
ドラゴンの言葉に、僕達は驚いた。
「本当ですか?」
「ああ、礼の代わりだ」
そう言うとドラゴンは起き上がり、ゆっくりと歩き出す。
大地を踏み鳴らすような地響きに、山が崩れてしまわないかと心配した。
「乗るがよい」
真ん中で立ち止まり、背中を下げる。
その頭上には、ぽっかりと穴が開いていた。
どうやらあそこから出入りしていたらしい。
「ありがとうございます。ほら、皆も早く」
ポカンと口を開ける彼女達。
神竜と呼ばれる竜の背中に乗る事など、誰が想像できただろうか。
「我の背中に乗ったのはお前達が初めてだ。光栄に思うが良い」
そう言うと、ドラゴンは大きく翼を広げ、空に向かって羽ばたいた。
ぐんぐんと高く舞い上がり、穴から飛び出た時。
そこに広がる景色は、まさに絶景と呼ぶのに相応しく。
「うわー。すごいや! ワーワルツが丸見えだよ!」
雲ひとつ無い澄んだ空からは、ワーワルツが一望できた。
「素晴らしい景色ですね! 夢の様です!」
「アタシ達の来た道が全部見えるね!」
僕達四人が歩んで来た道、泊まった町、全てが見える。
重ねた思い出が、まるでダイジェストの様に浮かんで来た。
「ガジガラの何処で降ろせば良いのだ?」
ドラゴンの問い掛けに少し悩む。
そのまま行っても、結局は何処に行けばいいのか分からないままだ。
「ルクセンドールまで、お願いしてもいいですか?」
「分かった」
モミさんが行き先を告げる。
僕達はドラゴンの背中から、しばらく景色を眺めていた。
約一週間の道のりは、ドラゴンで一っ飛び。
まるでファンタジーの様な空中散歩を終え、目的地の近くに降りた。
「あまり近づくと人間共が驚くからな、ここから一時間も歩けば着くだろう」
「ありがとうございました」
ドラゴンにお礼を言うと、何となく彼が笑った様な気がした。
「達者でな」
「はい。またいつか遊びに行きますよ。今度はもっとお酒を沢山持って行きますね」
大きく翼を広げ、ドラゴンは空へと戻って行った。
「凄い体験をしましたね。まだドキドキしていますよ」
モミさんが、興奮冷めやらぬ様子で胸に手を当てる。
「本当ね。まさか神竜に会うとも思わなかったし、その上背中に乗るだなんて」
「いやー。楽しかったな。ペロ様も楽しかった?」
何度も何度も頷く。相当楽しかったんだろう。
「さぁ行きましょうか。ワーワルツ最後の町、ルクセンドールへ」
ワーワルツ最後の町。
そこから先はもうワーワルツじゃない。
魔物の住む世界、カジガラ。
――僕と彼女達の、旅が終わる場所。




