↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/144

絶叫スライダー。終点に龍

 朝食を済ませ、出発の準備をする。

 ふかふかの布団は少し名残惜しいが、まぁ仕方ない。

 いつかもう一度、温泉に入りに来よう。

「忘れ物はありませんね? それじゃあ行きましょうか」

 毛皮のローブを身にまとい、僕達は町を後にした。


――シェフターニャ氷穴――


 町から少し歩くと、大きな洞窟が現れた。

「何これ。こんなの初めて見たわ」

 周囲をびっしりと埋め尽くす、キラキラと輝く氷の塊は、まるで水晶の様だった。

「綺麗ですね、宝石みたいです」

 この世の物とは思えない美しさに、全員が見蕩れる。

 ランプに明かりを灯し、薄暗い洞窟の中に足を踏み入れた。



 風が吹かない分、洞窟の方が外よりはましだ。

 特にこれと言った苦労もないまま、黙々と奥に進む。

「ここを抜けて、ガジガラまで後どのくらいあるんですか?」

「そうですね。ガジガラまでは一週間もあれば、と思っていますけど。正確には分かりませんね」

 一週間か、それじゃあ相当な近道になったんだろうな。

 この世界には車も、飛行機も電車もない。

 こんな大きな山を避けて進んでたら、何倍もの時間がかかっていただろう。

 あの雪道を進んだ苦労は十分にあるってもんだ。


「何かあっと言う間な気もするわね。テヘペロを出たのがついこの前の様な気がするわ」

「そうですね。ケンセイさんも、そろそろ愛しの魔女さんに会えますね」

「そ、そんなんじゃないよ。僕はお礼を言いたいだけですよ」

「でも、わざわざ世界の端っこから訪ねて来るって素敵じゃないですか。ロマンチックで」

 そうかな。彼女も喜んでくれるだろうか。

 僕が訪ねたら、彼女はどんな顔をするんだろう。


「もしかしたら覚えてなかったりしてね。『誰でしたっけ?』何て言われたりして」

 少し悪意を含んだ笑みを浮かべたニーヤの言葉にドキリとする。

 そうだ。ニーヤが言ったパターンの事を全然想像していなかった。

 ありえない話じゃない。僕の事を覚えてない事だって考えられるじゃないか。


「ニーヤったら意地悪言って。そんな事あるわけないじゃないですか」

「どうかしらね。案外そういうものだったりするのよ」

 ニーヤの言葉に、少し不安になった。

 僕が生きている最大の理由。

 もう一度頑張ろうと決めた決意。

 その全ては、魔女へと繋がっているんだから。




「ここは広いし、お昼にしましょうか」

 横穴の様な場所で、僕達は昼食をとる。

 宿屋で作ってもらったサンドイッチを頬張りながらも、頭はさっきの事でいっぱいだった。


 ニーヤ達と一緒に森に行って、魔女がもし居なかったら。

 居たとしても、僕の事を覚えていなかったら。

 その前に、森がニーヤ達の行き先と反対方向だったら。

 その時僕はどうすればいいんだろう。

 異国のワーワルツ。魔界でたった一人。

……死亡フラグ?

  

「ここすごいわね。下がつるつるよ」

 ニーヤが奥の地面を触って言った。

 天井から滴った水が地面に氷が張り、天然のスケートリンクの様になっている。

 スケート、か。子供の頃に少しだけやったっけ。


「へぇ、これはすごい。おー、滑る滑る」

 僅かな不安を払拭する様に、氷の上でおどけてみせる。

「ったく。子供じゃないんだから、転んで頭打っても知らないわよ」

「大丈夫だ――うわっ!?」

 言われたそばから、思いっきり後ろに転んだ。

 背中に背負っていた荷物のお陰で、頭は打たなかったけど。


「だから言ったじゃない。あれ? アンタ何処いくのよ」

「え?」

 ゆっくりゆっくり、ニーヤ達と距離が離れていく。

 あれ、僕滑ってないか?


「ちょ、ちょっと。何ふざけてんのよ」

「ふざけてない! 滑ってるんだ!」

 必死に手で止めようとするが、つるつる滑る。

 斜めになってるのか、どんどんと後ろに流されて。

 気がつくと地面がなくなっていた。


「うわあああああああああああああ!」

 完全に落ちてる! 絶対死んだ!

 身体に感じる衝撃、ビーンボールの様に所々にぶつかりながら、そのまま地面に落ちた。

「いたたた……。でもそんな高くなかったな――」

 そう思ったのも一瞬だった。

 

 着地した先の地面も――凍っていた。

 水は下に流れるもの。当然と言えば当然かもしれない。

 そしてまた、ゆっくりゆっくりと動き出す。

 まるで何かのアトラクション――そんな悠長な事を考えてる場合ではなく。

「助けてええええええええええええ!」

 自然の絶叫系スライダーの始まりだった。


「あっ?」

 恐怖は一瞬で終わり、絶望に変わる。

 途切れた氷のレールは、僕の身体を宙に投げ出した。

 今度こそ……死ぬんだろうか。

「ぐはっ!」

 あっと言う間に地面に叩きつけられる。

 全身に感じる鈍痛。鎧を着てなかったら大怪我だ。


「痛たた……」

 痛みを感じる腰を抑えつつ立ち上がる。

 ただっ広い空間は、洞窟の中なのに明るい。

 上を見ると天井は無く、遥か上に空が見えた。

 しかし参ったな。どうすればいいんだろう。

「おーい! おーーーい!」

 とりあえず叫んでみたけど、誰からも返事はなかった。


「うるさいな」

 突然聞こえた背後からの声に、振り向くと同時に剣を抜く。

 ワーワルツで過ごした歳月は、自然と身を守る術を身に付けていた。

 しかし、そんなモノが役に立たないと感じたのはこれが初めて。


 僕の身長より大きい顔は鱗に覆われ。

 爬虫類の様な目、大きな口から覗く鋭い牙。

 よくよく見ると、後ろには顔より何倍も大きい身体。

 あれ、これは多分どこかで見たことあるそ。

 良く出てくるよね、ゲームとかでさ。

 確か、火を噴いたりするっけ。

 結構強いイメージがあるな。

 最後のボスだったりもするよね。

「……ドラゴン?」


 目が合った。相手は何も言わない。

 こういう時はそうだ。死んだフリだ。

――パタリ。

 死んでやり過ごす。

 どうこうしようだなんて無理だ。スケールが違いすぎる。

 

 もういいかな?

 まだかな?

 ちょっとだけ見てみよう。

――チラリ。

 まだいた。まだ早かった。

 もう少し倒れとこう。


「何をやっているんだ」

「し、死んだフリ……」

「生きてるじゃないか」

 ドラゴンにつっこまれた!?

「別に食ったりはしないさ」

 目をつぶり、めんどくさそうにドラゴンが言った。


 死んだフリを解除して起き上がる。改めて見るとすごい威圧感だ。

「何でこんなとこにいるんですか?」

「何でだと? 我の家だからに決まってるだろ」

 この山はドラゴンの住処なのか。

 すごいな。ゲームみたいだ。

 それにしてもカッコイイなー。テンション上がる。


「何だお前、我が怖くないのか?」

「最初はビックリしたけど、いや、本当にドラゴンって居るんだなって。カッコイイですね、空とか飛んだりするんですか?」

「カッコイイか、おかしな人間だな」

 僕の質問には答えず、黙って目を閉じた。

 機嫌が悪いのかな。そうだ、こういう時は――。


「何のつもりだ?」

 目の前に差し出した干し肉に反応した。

「いや、お腹空いてないかなって思いまして」

 魔物のエサ、とは違うけど。

「別に空いとらん。空いてたとしてもそんなちっぽけな肉が食えるか」

 そうか、確かにこれじゃ小さすぎるな。

 他に何かあったっけかな。


「それは何だ?」

「お酒ですよ。飲みますか?」

 身体を暖める為にと買ってあったお酒。

 余りの強さに一口飲んで皆やめたんだ。

「ふむ。いただくとするか」

 そう言うと、ドラゴンは大きく口を開けた。


 上下に並んだ鋭い牙。食われたら一たまりもないな。

 蓋を開け、全てドラゴンの口の中に流し込んだ。

「うむ。これはなかなか旨い酒だ」

「気に入ってもらえて良かったです」

「肉をくれ」

 結局食うのかよ。


「ずっとここに居るんですか?」

「そうだ」

「出かけたりしないんですか?」

「前はしてたな」

「今はしないんですか?」

「怪我をして飛べないのだよ」

 ドラゴンの背中を良く見ると、翼の根元に大きな傷があった。

 何かに引き千切られた様な傷跡は、見ているだけで痛々しい。


「痛そうですね。大丈夫ですか?」

「じっとしてればそのうち治る」

 そりゃあ傷はそのうち治るけど。

 こんなとこに黙って居て、退屈じゃないのかな。

 モミさんの魔法で治せるんだろうか。


「ところでお前は何でここに居るんだ」

「仲間と一緒だったんですけど、何か穴に落っこちたみたいで。どうすれば戻れますかね?」

 周囲には無数の横穴があるが、うかつに入ったらどうなるものか分からない。

「分からんな。我はこの場所しか知らん」


 確かに、考えてみればそうか。

 この身体であの小さな穴を通れるはずもないしな。

 だったら このドラゴンは一体どうやって来たんだ?

 そんな事を思いながらも、沸いて出た好奇心を抑えきれずにいた。


「……ちょっと触ってもいいですか?」

「好きにしろ」

 お許しが出た。こんなチャンスはめったにない。

 刺激しないように、そっとドラゴンの身体に手を伸ばす。

 

 なんだこれ! めっちゃ固い! 

 竜の鱗! 龍の鱗っ!

 テンションはますます急上昇。

 遠慮しながらも、ドラゴンの身体を触りまくった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。