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本当の仲間

 目覚めると知らない天井――って当たり前か、初めて来た宿屋だし。

 何で寝てるんだっけ。確か鎧を解除して――。

 じんわりと感じる、股間の優しい温かさに視線を落とす。

「にっ、ニーヤ!?」

 そこには僕の股間に手をかざす、ニーヤの姿があった。

 視界に僕のセクシーソードをおさめないように、首を真横に九十度曲げた彼女の手は、黄色いオーラに包まれている。


「見てないから」

 そっぽを向いたまま、ニーヤが呟いた

 治癒……してくれているのか? ニーヤが?

 その光景に驚き、少しだけ嬉しくなった、が。

 そもそも治癒が必要な程、僕の股間は損傷していたのか?

 失神するくらいだから相当な力で蹴り上げただろ。

 そう考えると少し恐ろしくなった。


「他の二人は?」

 部屋を見渡すと、モミさんとペロ様の姿は見えない。

「お風呂に行ったわ」

「そっか。っていうか、ニーヤも魔法が使えたんだね」

「モミほどじゃないけどね。時間はかかるけど、少しくらいなら出来るわ」

「そっか、ありがとう」

「別にお礼を言われる筋合いはないわよ、元々アタシが悪いんだし。それよりどうなの。治ってるの? 見てないから分からないのよ」


 股間に手を伸ばす。痛みは無い。ちゃんと二個ある。変色も変形もしてない。少しホッとする。

「多分……大丈夫だと思う」

「そう」

 彼女は立ち上がると、背中越しに言った。

「アタシ達もお風呂に行こっか」

「あ、うん」

 行こう、と言った彼女に少し驚く。

 ベッドから起きてローブを羽織ると、彼女の後を追った。



「あら、もう大丈夫ですか?」

 宿の廊下、向こうから歩いてきたのは湯上りのモミさんとペロ様。 

 僕は一体どれだけ気を失っていたんだ。

「ええ、多分大丈夫だと思います」

「そうですか、それなら良いんですけど……」

 チラリと僕の股間に目を落とす。

 隣ではペロ様が両手でソフトボール大の円を作っている。


 何それ!? そんななってたって暗に示しているのか!?

 確かにソフトなボールではあるが、生憎それほど立派な玉ではない。

 想像しただけで下腹部に痛みが走る。

 今後は常時ファウルカップ装備の方がいいのかもしれない。


 

 雪のちらつく露天風呂は風情が漂っていた。

 宿の主人の言ってた通り、他には誰もおらず、先に来ていたニーヤだけ。 

 掛け湯をして温泉に浸かると、全身の疲れがお湯に溶け出していく様な気がした。

 

「気持ちいいね」

 ニーヤが何か呟いたが、離れているせいかあまり良く聞こえなかった。

「え? 何か言った?」

「気持ちいいねって言ったのよ。聞こえないならもっとこっち来ればいいじゃない」

 ニーヤの言葉に少し距離を縮める。

 前も一緒に入った事はあるが、広い露天風呂で近づくと何となく恥ずかしい。


「だ、だけどペロ様が鎧の事知ってたとは思わなかったなー」

 気まずい沈黙に耐えられず口を開く。

「ペロは昔からそう言うの分かるんだ。嘘には人一倍敏感だしね」

「言われてみればそんな気がするな。勘が鋭いのかと思ってたけど」

「良く分かんないけど、神様の力なのかな。嘘も見破るし、絶対に嘘は言わない。小さい頃はその力が鬱陶しい時もあったんだ。誰にだって、言いたくない事や言えない事もあるでしょ?」

 ニーヤの言っている事はもっともだ。

 自分だけの秘密だったり、誰かと共有する秘密だったり。

 それを守る為に嘘を付いたりする事も。

 大なり小なり、誰にだって隠しておきたい秘密はある。


「そんなのが全部分かっちゃうんだから、それで喧嘩したりもしたわ。今となってはいい思い出だけどね。隠し事をしないで、嘘を付かないでやって来たからこそ、今のアタシ達があるんだから」

 少しだけ嬉しそうにニーヤが言った。

 何もかも包み隠さず、お互いに全てをさらけ出した彼女達三人の絆は、血の繋がった家族よりも強い。

 そんな絆を、僕は壊そうとした。


「……本当にゴメン、僕の所為で、皆に悲しい思いさせて」

「別に良いよ。隠してたのはアレだけど、別に嘘付いてた訳じゃないし。アンタも約束は守ってくれてたみたいだしね。それに――良かったと思ってる。分かってすっきりしたし、アンタとも、本当の仲間に慣れた気がする」


――本当の仲間。

 ニーヤが笑顔で言ったその一言に、僕はとても嬉しくなる。

 今まで一緒に旅をして来たけど、未だに同伴者の気持ちでいた。

 三人と一人。心のどこかではそう思っていたから。

 今、改めて僕の存在を許された様な――そんな気持ちで胸が熱くなった。


「どうして泣いてるのよ」

「いや、嬉しいなって思って。僕の事仲間だって言ってくれたからさ」

「大げさね。泣きながら笑って馬鹿みたい。本当に泣き虫なんだから」

「前の世界に居た時はこんな事なかったんだけどな」

「ふふっ、どうだか。そんな顔で言っても真実味ないわよ」


 ワーワルツに来てから、僕はよく泣いた。

 泣いただけじゃない、笑って、怒って、悲しんで。

 感情を押し殺す事も無く、自由に。

 ありのままの自分をさらけ出している。

 自然体で生きるのがこんなに楽しい事だとは、前は夢にも思わなかった。


 

 温泉を出た僕達は、皆で遅めの夕食をとった。

 長い間パンと干し肉しか食べていなかった僕達は、まるで餓えた狼の様に、久しぶりの温かい料理に貪りついた。その量は、宿屋の主人が驚く程。

 部屋に戻ると、誰からともなくベッドに潜り込む。

 息苦しい程の満足感と、ふかふかの布団。

 僕達は死んだように眠った。


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