親切心――自棄酒
「いやぁ。皆さんの活躍、本当に素晴らしいものでしたな! 皆さんは村の恩人です! ささ、遠慮なく食べて下さい! おーい! じゃんじゃん持って来い!」
用意してくれたお風呂で身体の汚れと疲れを落とし。村長の家、村の人々が集まり大宴会が始まった。
次々と運ばれて来る料理の数々。ここ最近パンと干し肉だけだったから、見てるだけで涎が垂れてくる。
「すごいご馳走ですね。久しぶりなんで胃が驚いてしまいそうですよ」
「またそんな可愛い事いって。アタシなんか胃が喜んじゃってるわよ」
ニーヤが次々と料理に手をつける。
その細い身体の何処にそんな入るのか不思議ほど、ニーヤはよく食べるんだよなぁ。
「ささ、ルカラ村特製のエールです。ぐっといって下さい」
村長に謎の液体を手渡された。これは間違いなくお酒だな。プクプクと泡が立ってる。これは炭酸か?
口に含むと、はじけるような炭酸が喉を刺激する。
苦味の中に、ほのかに感じる柑橘系の香り。心地いい爽快感が口の中いっぱいに広がった。
「これは美味しいですね」
「そうでしょうそうでしょう。わが村自慢の一品ですからね。料理の方も、全部村の新鮮な野菜を使っています。思う存分召し上がって下さい」
「じゃあ遠慮なくいただきます!」
テーブルに並べられた料理はどれも新鮮で美味しく、思わずエールが進む。
ニーヤの方を見ると、少し顔が赤くなっている。
テヘペロ亭で見たニーヤの酒癖の悪さを思い出し、嫌な予感がした。
美味しい料理とエールを存分に堪能し、少し火照った身体を冷やしに外に出る。
上を見上げると、光り輝く星空。ワーワルツは何処にいても星が綺麗に見えた。
「あの、先程はありがとうございました」
突然背後からかけられた声に振り向くと、一人の女性が立っていた。
さっき盗賊に捕まってた娘だ。
「気にしないで下さい。当たり前の事をしただけですよ」
さっきはちゃんと見なかったけど、中々可愛い子だな。素朴な村娘って感じ。
「剣士様は何処に向かって旅をしているんですか?」
剣士様? そうか、今は解除しているけど、鎧を着ていたから剣士に見えたのか。
何かむずがゆい。本物の剣士に怒られそうだ。
「僕はガジガラに向かっているんだ」
そう言うと、彼女はとても驚いた顔をする。
「ガジガラって、魔界の事ですよね? どうしてそんな危険な場所に?」
「ちょっと会いたい人が居てね」
「そうなんですか。その方はとっても素敵な女性なんでしょうね」
「え、僕女性って言ったっけ?」
「違うんですか? そんな危険な場所にわざわざ出向くのは、女性の為かなって思いまして」
これが女の感ってやつか? 恐ろしい、とんだメンタリストじゃないか。
「まぁ、そうなんだけどね。ただ僕はお礼が言いたいだけなんだ。今こうして僕がここに立ってるのも、彼女のお陰だからさ」
魔界に暮らす、名も知らぬ魔女。日々彼女に近づいている。
――この同じ星空を、彼女も見ているんだろうか。
「私も、剣士様にお礼をしたいです」
彼女はそう言うと、そっと僕の手を握った。
「お、お礼なんてそんな。村の皆には十分もてなしてもらったよ」
「そうですけど。私個人のお礼、受け取って欲しいんです」
少し赤らめた表情で、意味深な言葉を口にする。
「こっ、個人のお礼って……?」
「ここじゃ何ですから」
彼女は僕の手を引き、建物の影に入った。
人気の無い、誰の目にも付かない場所。この状況は何となく危険だ。
「こ、こんな所でなにするの?」
いや、何となく。何となく分かってはいるんだ。彼女の赤く染まった頬が暗に語っている。
「もう、分かってるじゃありませんか」
そう言うと、彼女が僕の身体を抱き寄せる。
「私が田舎者だからって、とぼけないで下さい」
耳元で囁く彼女の吐息が、僕の神経をくすぐる。
「と、とぼけてるわけじゃないけど。お、お礼にしてはちょっと大胆すぎるんじゃないかな」
「私は小さいに見た絵本に憧れていたんです。白馬に乗った王子様が、お姫様を助ける話。こんな田舎に王子様は来る訳ないと思っていましたが……」
……どこかで聞いた事のある話だ。世界は違えど、女子憧れのテンプレートなのか?
「代わりに、白銀の鎧を纏った剣士様が現れました。それで決めたんです。私の始めてはこの人に捧げようって」
初めて? 初めてって言った!?
「は、初めてなら尚更大切にしないといけないじゃないか。ぼ、僕は旅人だし。一生に一度の大切なものを貰うわけには……」
そうだ、雰囲気に流されるな。僕には責任をとる事が出来ない。
「それでもいいんです、一晩限りでも。この出会いは一生に一度――それなら私に思い出を下さい」
僕の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「それに、もう剣士様はこんなに立派な剣を抜いていらっしゃるじゃないですか」
その言葉は、僕の理性を吹き飛ばすには十分すぎる破壊力だった。
彼女の下腹部には、僕のセクシーソードがピッタリと押し付けられている。
身体は、とても正直だった。
彼女の手がゆっくりと、僕の腰を伝い、服を持ち上げ素肌に触れる。
少し隙間の開いたズボンの淵をなぞると、ピタリと手が止まった。
「あっ」
驚いたように彼女が声を上げた彼女を見ると、僕の後ろを見つめている。
彼女の視線の先を探すように振り返ると、そこにはペロ様が立っていた。
「ぺっ、ペロ様!?」
その驚きは、口から心臓が飛び出るかと思った程。何でこんな所にペロ様がいるんだ!?
「心配、見に来た」
心配? 僕の事を心配してくれたのか?
そうか、僕には洞窟に連れ去られた前例がある。何かあったんではないかと、心配して見に来てくれたんだ。
「ありがとう。大丈夫だよ、さぁ戻ろう」
ペロ様の頭を優しく撫でる。
「いつかきっと、君を大切にしてくれる王子様が現れるはずだよ」
彼女にそう言って、僕達は家に戻った。
邪魔されたのか助かったのか良く分からないけど、これで良かったんだろう。
「ありがとうペロ様。助かったよ」
僕の言葉に、ペロ様はコクンと頷く。
この後滅茶苦茶エールを飲んだ。




