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ワーワルツの信仰

 気がつくと布団の中。鳥のさえずりが朝を告げていた。

 目の前にある二つのふくらみ。ああ、またモミさんと一緒に寝たのか。

 彼女の胸に顔を埋め、大きく息を吸い込む。幸せだ。最高の朝だ。

 でも、今日は少し違う香り。いつもの甘ったるさとはまた違う、爽やかな甘さだ。

 どことなく胸も小さい様な気がする。

 あれ、僕のあげたネックレスがない。外したのかな。何でもいいや、もう少しこのまま――。


「ほらニーヤ、そろそろ起きて下さい」

 僕の背後からモミさんの声がした。

 え? 何で後ろから声がするの? サラウンドシステム搭載してるの?

 嫌な予感。眠気が一気に吹き飛んだ。


 まさか、嘘だと言ってくれ。頼む。

 そう祈りながら、ゆっくり顔を上げる。赤く染まった毛先が目に入った頃、僕は死を覚悟した。

「おはよう。早く起きるわよ」

 目が合うと、彼女はそう言った。

「あ、うん。おはよう……」

 布団から出ると、ニーヤは何事も無かったかの様に支度を始める。

 鉄拳の一つや二つは覚悟していた僕にとって、それは余りにも意外な態度だった。



「それでは皆さんお気をつけて。もしまた近くに来たら是非寄って下さい」

 村長さんと村の皆に見送られ、僕達はルカラ村を後にする。

「剣士様!」

 町を出る時、昨日の彼女に呼び止められる。

「これ、皆さんで召し上がってください」

「ありがとう。遠慮なくいただくよ」

 包みを受け取った瞬間、口唇に感じる柔らかい感触。

「……思い出、ありがとうございました」

 そう言って、彼女は村の中に戻って行った。

「あらあら。ケンセイさんは女性にモテモテですね」

 口に残る感触と、彼女の後姿を眺めながら、少しだけ僕は固まっていた。


――ウイリア街道――


 シキラバの森を抜け、広い街道を歩く。

 たまに荷馬車とすれ違うくらいで、モンスターの姿は見えなかった。

「ここら辺は魔物が少ないんですか?」

「どうなんでしょうか、私達もここまでは来た事ありませんから。荷馬車も良く通りますし、比較的安全な道なんでしょうね」

 モミさん達もここからは未知の場所って事か。

 旅を始めてからどれ位経ったんだっけ。時計やカレンダーが無いと、全然感覚が分からないな。

 次はどんな町に着くんだろう。後どれ位で彼女に会えるんだろう。

 期待に胸を膨らませ、足を前に出す。

 一歩一歩、彼女に近づいている事を確かめるように。



「さぁ、少し休憩しましょうか」

 小川のほとりに、僕達は腰を下ろす。

 まだ太陽の位置で時間を測ることは出来ないけど、やっぱり腹時計は正確だ。

 村で貰った包みを開けると、新鮮な野菜をふんだんに使ったサンドイッチが入っていた。

「まぁ、美味しそう。ケンセイさんの為に一生懸命作ったんでしょうね」

「そ、そんな事ないと思いますよ」

 サンドイッチを一口かじると、昨夜の事を少し思い出した。


 それにしても、やっぱり今日のニーヤはいつもと違う。村を出てから一言も喋っていない。

「何?」

 ニーヤが僕の視線に気付いた。

「い、いや。別に何でもないけど」

 機嫌が悪そう。やっぱり怒ってるんだろうか。そりゃああんな事したら怒るよな。


「ところで、今日は何処に向かうんです?」

「ちょっと待って下さい。今日はここ、ウイリアです。まぁ夕方には着くでしょう」

 モミさんが示した場所。そこには、大きな教会の様な建物が描かれている。

「この町は大きそうですね、これは教会ですか?」

「ウイリアは王国で『ストラーダ教』発祥の地。ウイリア大聖堂がある大きな城下町です」

「お城もあるんですか。ストラーダ教って宗教みたいなものですか?」

「そうですよ。大陸には大きく分けて二種類の宗教がありましてね。一つがここ、ウイリアを拠点とするストラーダ教。もう一つはここ、パトワを拠点とする『ラストラ教』があるんです」

 

「へぇ、やっぱりどの世界でも宗教ってあるんですね」

「私達にはあまり関係の無い話ですけどね。私達はペロディア様を信仰していますから、別の神様の事は特に気にしません」

 僕は宗教なんて全く関係ないからな。今まで気にした事もなかったし。


「ケンセイさんはどんな神様を信仰しているんですか?」

「僕の世界にも宗教は沢山あるけど、僕の周りは基本的に無宗教だからなぁ。全然知らない神様の誕生日を祝ったりもするし。自由な感じだよ、悪く言えば適当って事だけど」

「それは楽しそうですね。信仰はそもそも人を支えるものですから、信仰が人を縛るような事があってはいけないのです。自由な世界、素晴らしいと思いますよ」

 そう言ってモミさんが見せた、少し寂しげな顔の理由わけを、僕はこの先知る事になる。


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