青年の過ちと贖罪
――ルカラ村――
森を抜けると、建物が密集した集落に出た。
小さな農村、と言った感じだろうか。所々に大きな畑があり、色とりどりの野菜が実っている。
「何かしけた村ね。宿なんてありそうもないけど」
「そんな事言っては失礼ですよ。とりあえず行ってみましょう」
村に入り、近くで畑仕事をしている中年の男性を見かけた。
第一村人発見。気分はそんな感じ。
「あれ、こんな村に人が来るのは珍しいねぇ。旅の人かい?」
「ええ、ウイリアに行く途中なんですけど、地図を見たらこの村がありましたので。お宿でもあればと思いましてね」
「見ての通り、小さな村だからねぇ。旅人をもてなすような場所は無いんだよ。村長さんの家なら泊めて貰えるかもしれん。あの一番大きな家だから、行ってみるとよかよ」
男性が指差す先に、一際大きな建物が見える。僕達はそこに向かった。
「旅の方ですか。わざわざこんな場所まで良くおいでなすった。何もありませんが、家で良ければ休んでいって下さい」
家を訪ねると、出て来たのは初老の男性。村の村長さんらしい。
事情を話すと、案外すんなりと泊めて貰える事となった。
ワーワルツの人の優しさには度々驚かされる。僕の世界じゃ考えられない事だから。
「それにしても、今日は珍しい人ばかり来ますな」
家の中に上がり、お茶を頂いていると村長さんが言った。
「私達の他にも誰かいらっしゃったんですか?」
「ええ。私の恥ずかしい馬鹿息子なんですが、どっかに行ったきり半年も姿を見せないと思ったら、今朝突然帰って来たんですよ」
「まぁ、それは良かったですね。ご心配だったでしょうに」
「出来の悪いせがれでも、やはり一人息子ですからね。そうだ、ご紹介しましょう。おーい、クレド。客人に挨拶せんか」
村長さんが呼びかけると、部屋の扉が開いて男が出てきた。
その顔を見て、僕達は驚いた。
「アンタ! 昨日の盗賊ね!」
ニーヤが短剣を構える。目の前に現れた男は、昨日逃がした盗賊の一人だった。
「ひぃ!? すいません! すいません!」
男は僕達の姿を見て、床に頭をこすり付ける。
「ど、どういう事ですか!? 旅の方!?」
状況が飲み込めない様子の村長さんに、昨日の話を説明した。
話を聞いた村長さんの、怒りの右ストレートが炸裂――その鉄拳は息子を軽々と吹き飛ばす。
ワーワルツの人は年配の人でも結構良い身体をしている。
農作業とかで自然と筋肉がつくんだろう。見てるだけで、かなり痛そうだ。
「この馬鹿もん! お前は何て事をしたんだ! 盗賊なんぞ、人間の腐った事しおって!」
村長さんは息子を怒鳴りつけると、僕達に向かって深く頭を下げた。
「旅の方。せがれの不始末はお詫びのしようもありません。どうかこの馬鹿者を煮るなり焼くなり、お好きなようになさって下さい」
「そ、そんな。頭を上げてくださいよ村長さん、僕達が被害にあったわけでもないですし。それに、何か理由があったんじゃないかと思うんですよね」
「理由、ですか?」
そう思うには訳があった。五人の内、彼は一人だけ僕達に敵意を向けていなかった。
剣を握り締めてはいたものの、どこか怯えている様な感じ。
彼の目で分かったんだ。虐げられし者共通の、挙動不審な目をしてたから。
「ええ。だから話を聞いてあげましょう」
その場を一旦落ち着かせると、涙ながらに彼が口を開いた。
「最初は優しい人だったんです――」
彼の話を要約するとこうだ。
都会に憧れた男が、村を出て上京。そこで出会った親切な男に色々してもらう。
断り切れない程の恩を着せられて、気がついたら無理矢理盗賊に。
逃げたりしたら、お前の村を襲うぞ、と。
なんとまぁ。世界は違えど、悪人の手口は変わらないって事か。
「か~っ。何と情けない。頭が痛くなるようだ」
話を聞いた村長さんが頭を抱える。
「まぁ、そういう事ならしょうがないんじゃないかな……?」
「仕方ないじゃすまないんですよ旅の方。どんな理由があろうと、人様の物を盗む輩はこの村にはいません。いくらせがれでも、これを許すわけにはいきません」
他人の家の事情に口を挟むのは良くない。
それは分かっているけど、彼の気持ちも分からなくはなかった。
部屋の中に重い空気が流れた頃。外が何やら騒がしくなった。
「ん。どうしたんだ? ちょっとすいませんね」
村長さんが様子を見に行くと、血相を変えて戻ってきた。
「盗賊達だ! 村を襲いに来おった!」
「何だって!?」
彼が逃げた事への仕返しのつもりか。どこまでも腐った奴らだ。
「こうなったら金を渡して帰ってもらうしかない。旅の方、どうか裏へお逃げ下され」
「お、俺が行く!」
振り返ると、そこには剣を握り締めた息子の姿。
「馬鹿者! お前が行ってどうにもなるか!」
「元はと言えば俺のせいだ! 俺が馬鹿な事したから、村が襲われたんだ! 村は俺が守る!」
そう言うと、息子は外に飛び出していった。
「あの馬鹿者。どこまで馬鹿なんじゃ」
村長さんが頭を抱える。
「心がけだけは立派じゃない。ちょっと見学に行こうか」
「そうですね」
そう言って三人が立ち上がった。
見学、と言っているが、ニーヤの両手に握られた短剣は殺る気マンマンだ。
「あ、危ないですぞ! 相手は盗賊、無茶をなされては……」
「僕達じゃなく、盗賊達を心配した方がいいかもしれませんね」
呆気にとられる村長さんを残し、僕達は外に飛び出した。




