↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/144

青年の過ちと贖罪

――ルカラ村――


 森を抜けると、建物が密集した集落に出た。

 小さな農村、と言った感じだろうか。所々に大きな畑があり、色とりどりの野菜が実っている。

「何かしけた村ね。宿なんてありそうもないけど」

「そんな事言っては失礼ですよ。とりあえず行ってみましょう」

 村に入り、近くで畑仕事をしている中年の男性を見かけた。

 第一村人発見。気分はそんな感じ。


「あれ、こんな村に人が来るのは珍しいねぇ。旅の人かい?」

「ええ、ウイリアに行く途中なんですけど、地図を見たらこの村がありましたので。お宿でもあればと思いましてね」

「見ての通り、小さな村だからねぇ。旅人をもてなすような場所は無いんだよ。村長さんの家なら泊めて貰えるかもしれん。あの一番大きな家だから、行ってみるとよかよ」

 男性が指差す先に、一際大きな建物が見える。僕達はそこに向かった。


「旅の方ですか。わざわざこんな場所まで良くおいでなすった。何もありませんが、家で良ければ休んでいって下さい」

 家を訪ねると、出て来たのは初老の男性。村の村長さんらしい。

 事情を話すと、案外すんなりと泊めて貰える事となった。

 ワーワルツの人の優しさには度々驚かされる。僕の世界じゃ考えられない事だから。


「それにしても、今日は珍しい人ばかり来ますな」

 家の中に上がり、お茶を頂いていると村長さんが言った。

「私達の他にも誰かいらっしゃったんですか?」

「ええ。私の恥ずかしい馬鹿息子なんですが、どっかに行ったきり半年も姿を見せないと思ったら、今朝突然帰って来たんですよ」

「まぁ、それは良かったですね。ご心配だったでしょうに」

「出来の悪いせがれでも、やはり一人息子ですからね。そうだ、ご紹介しましょう。おーい、クレド。客人に挨拶せんか」

 村長さんが呼びかけると、部屋の扉が開いて男が出てきた。

 その顔を見て、僕達は驚いた。


「アンタ! 昨日の盗賊ね!」

 ニーヤが短剣を構える。目の前に現れた男は、昨日逃がした盗賊の一人だった。

「ひぃ!? すいません! すいません!」

 男は僕達の姿を見て、床に頭をこすり付ける。

「ど、どういう事ですか!? 旅の方!?」

 状況が飲み込めない様子の村長さんに、昨日の話を説明した。


 話を聞いた村長さんの、怒りの右ストレートが炸裂――その鉄拳は息子を軽々と吹き飛ばす。

 ワーワルツの人は年配の人でも結構良い身体をしている。

 農作業とかで自然と筋肉がつくんだろう。見てるだけで、かなり痛そうだ。


「この馬鹿もん! お前は何て事をしたんだ! 盗賊なんぞ、人間の腐った事しおって!」

 村長さんは息子を怒鳴りつけると、僕達に向かって深く頭を下げた。

「旅の方。せがれの不始末はお詫びのしようもありません。どうかこの馬鹿者を煮るなり焼くなり、お好きなようになさって下さい」

「そ、そんな。頭を上げてくださいよ村長さん、僕達が被害にあったわけでもないですし。それに、何か理由があったんじゃないかと思うんですよね」

「理由、ですか?」


 そう思うには訳があった。五人の内、彼は一人だけ僕達に敵意を向けていなかった。

 剣を握り締めてはいたものの、どこか怯えている様な感じ。

 彼の目で分かったんだ。虐げられし者共通の、挙動不審な目をしてたから。  

「ええ。だから話を聞いてあげましょう」

 その場を一旦落ち着かせると、涙ながらに彼が口を開いた。

「最初は優しい人だったんです――」



 彼の話を要約するとこうだ。

 都会に憧れた男が、村を出て上京。そこで出会った親切な男に色々してもらう。

 断り切れない程の恩を着せられて、気がついたら無理矢理盗賊に。

 逃げたりしたら、お前の村を襲うぞ、と。

 なんとまぁ。世界は違えど、悪人の手口は変わらないって事か。


「か~っ。何と情けない。頭が痛くなるようだ」

 話を聞いた村長さんが頭を抱える。

「まぁ、そういう事ならしょうがないんじゃないかな……?」

「仕方ないじゃすまないんですよ旅の方。どんな理由があろうと、人様の物を盗む輩はこの村にはいません。いくらせがれでも、これを許すわけにはいきません」

 他人の家の事情に口を挟むのは良くない。

 それは分かっているけど、彼の気持ちも分からなくはなかった。


 部屋の中に重い空気が流れた頃。外が何やら騒がしくなった。

「ん。どうしたんだ? ちょっとすいませんね」

 村長さんが様子を見に行くと、血相を変えて戻ってきた。

「盗賊達だ! 村を襲いに来おった!」

「何だって!?」

 彼が逃げた事への仕返しのつもりか。どこまでも腐った奴らだ。


「こうなったら金を渡して帰ってもらうしかない。旅の方、どうか裏へお逃げ下され」

「お、俺が行く!」

 振り返ると、そこには剣を握り締めた息子の姿。

「馬鹿者! お前が行ってどうにもなるか!」

「元はと言えば俺のせいだ! 俺が馬鹿な事したから、村が襲われたんだ! 村は俺が守る!」

 そう言うと、息子は外に飛び出していった。

「あの馬鹿者。どこまで馬鹿なんじゃ」

 村長さんが頭を抱える。


「心がけだけは立派じゃない。ちょっと見学に行こうか」

「そうですね」

 そう言って三人が立ち上がった。

 見学、と言っているが、ニーヤの両手に握られた短剣は殺る気マンマンだ。

「あ、危ないですぞ! 相手は盗賊、無茶をなされては……」

「僕達じゃなく、盗賊達を心配した方がいいかもしれませんね」

 呆気にとられる村長さんを残し、僕達は外に飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。