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夏休みの終わり、八月最後の日の早朝。
埋蔵文化財センターのプレハブ事務所へ、一本の緊急連絡が入った。
『────見つかったそうです!!』
電話を受けた職員の叫び声に、事務所にいた全員が一斉に立ち上がった。
「本当か!?」
「どこでだ!?」
「月守古墳のすぐ裏手にある雑木林です! 散歩中の住民が発見したと警察から連絡が……!」
一瞬で怒涛のようなざわめきが広がっていく。
行方不明になっていた例の『武人埴輪』が、発見されたという報せだった。
幸いなことに目立った損傷もなく、ほぼ完全な状態のまま木陰に佇んでいたという。
誰が、どうやってあの重い埴輪を運び出したのか。
そしてなぜ、発掘場所である古墳の目と鼻の先へ戻したのか。
警察による捜査も行われたが、防犯カメラにも映像は残っておらず、結局その謎だけは最後まで明かされることはなかった。
世間でも大きなニュースとして取り上げられたが、事件は「何者かによる悪質な持ち去りと破棄」という形で、静かに幕を閉じた。
自室のテレビでそのニュースを見つめながら、凪は膝の上で静かに両手を重ね、そっと目を閉じた。
(……おかえり、朔)
胸の奥は、今も引きちぎられるように痛かった。
一人きりになった部屋は、あまりにも広くて、冷たい。
けれど──不思議と、ほんの少しだけ安心している自分もいた。
朔が千五百年もの間、たった一人で守り続けてきた大切な場所。
彼は……ちゃんと、自分の帰るべき場所へ帰れたのだと。
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月守古墳は、深い静寂に包まれていた。
冴え冴えとした月明かりだけが、小高い墳丘を優しく、淡く照らし出している。
その冷たい土の奥深く──。
長い眠りにつく『墓の主』は、闇の中で静かに波動を揺らしていた。
ただひたすらに不器用で、真面目な武人。
自分が目を覚ますその時を信じ、ずっと待ち続けてくれた忠実なる守護者。
千五百年という途方もない年月。
ただの一度も役目を違えることなく、雨の日も風の日も、じっと自分を守り続けてくれた存在。
その無垢で一途な想いだけは、深淵なる眠りの中でもしっかりと届いていた。
(……私の願いは、ちゃんと届いたようだ)
静かな喜びが、長い眠りの底からゆっくりと広がる。
千五百年。
自分もまた、見守り続けることしかできなかった。
それでも、ただ一人。
名も知らぬ武人埴輪だけが、変わることなくこの場所を守り続けてくれた。
その忠義に報いたい。
その一心で遺した、最後の願い。
(……楽しかったかい?)
春の陽だまりのような、穏やかで温かな想いが静かに満ちていく。
川のせせらぎ。
海の青さ。
花火の夜空。
少女と笑い合った、ひと夏の日々。
そのすべての記憶が、主の魂にも静かに伝わっていた。
(お前は、十分に務めを果たしてくれた)
(……だが、本当にこのままで良いのかい?)
(お前は……この夏の中で、己の『願い』を見つけたのだろう?)
主の魂は、千五百年の記憶の底に残っていた最後の輝きを、慈しむようにそっと差し出した。
(私の願いが届くのなら……最後に、もう一度だけ。)
――今度は、お前自身の願いを叶えておいで。




