表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひと夏の奇跡 ~武人埴輪の千五百年目の恋~  作者: おかゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/15

13

夏休みの終わり、八月最後の日の早朝。

埋蔵文化財センターのプレハブ事務所へ、一本の緊急連絡が入った。



『────見つかったそうです!!』



電話を受けた職員の叫び声に、事務所にいた全員が一斉に立ち上がった。



「本当か!?」


「どこでだ!?」


「月守古墳のすぐ裏手にある雑木林です! 散歩中の住民が発見したと警察から連絡が……!」



一瞬で怒涛のようなざわめきが広がっていく。

行方不明になっていた例の『武人埴輪』が、発見されたという報せだった。

幸いなことに目立った損傷もなく、ほぼ完全な状態のまま木陰に佇んでいたという。



誰が、どうやってあの重い埴輪を運び出したのか。

そしてなぜ、発掘場所である古墳の目と鼻の先へ戻したのか。



警察による捜査も行われたが、防犯カメラにも映像は残っておらず、結局その謎だけは最後まで明かされることはなかった。

世間でも大きなニュースとして取り上げられたが、事件は「何者かによる悪質な持ち去りと破棄」という形で、静かに幕を閉じた。



自室のテレビでそのニュースを見つめながら、凪は膝の上で静かに両手を重ね、そっと目を閉じた。



(……おかえり、朔)



胸の奥は、今も引きちぎられるように痛かった。

一人きりになった部屋は、あまりにも広くて、冷たい。



けれど──不思議と、ほんの少しだけ安心している自分もいた。

朔が千五百年もの間、たった一人で守り続けてきた大切な場所。

彼は……ちゃんと、自分の帰るべき場所へ帰れたのだと。




**




月守古墳は、深い静寂に包まれていた。

冴え冴えとした月明かりだけが、小高い墳丘を優しく、淡く照らし出している。



その冷たい土の奥深く──。

長い眠りにつく『墓の主』は、闇の中で静かに波動を揺らしていた。



ただひたすらに不器用で、真面目な武人。

自分が目を覚ますその時を信じ、ずっと待ち続けてくれた忠実なる守護者。



千五百年という途方もない年月。

ただの一度も役目を違えることなく、雨の日も風の日も、じっと自分を守り続けてくれた存在。

その無垢で一途な想いだけは、深淵なる眠りの中でもしっかりと届いていた。



(……私の願いは、ちゃんと届いたようだ)



静かな喜びが、長い眠りの底からゆっくりと広がる。



千五百年。

自分もまた、見守り続けることしかできなかった。



それでも、ただ一人。

名も知らぬ武人埴輪だけが、変わることなくこの場所を守り続けてくれた。



その忠義に報いたい。

その一心で遺した、最後の願い。



(……楽しかったかい?)



春の陽だまりのような、穏やかで温かな想いが静かに満ちていく。



川のせせらぎ。

海の青さ。

花火の夜空。

少女と笑い合った、ひと夏の日々。

そのすべての記憶が、主の魂にも静かに伝わっていた。



(お前は、十分に務めを果たしてくれた)


(……だが、本当にこのままで良いのかい?)


(お前は……この夏の中で、己の『願い』を見つけたのだろう?)



主の魂は、千五百年の記憶の底に残っていた最後の輝きを、慈しむようにそっと差し出した。



(私の願いが届くのなら……最後に、もう一度だけ。)



――今度は、お前自身の願いを叶えておいで。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ