# 第二話 ## 「七十二歳の落第生」
# 第二話
## 「七十二歳の落第生」
春の風が吹く朝。
無限成長学園の校門前には、今日もたくさんの人が集まっていた。
十代の学生。
会社員。
主婦。
定年退職した老人。
年齢も職業も関係ない。
ここは「成長したい人」のための学校だからだ。
そんな中。
修司は校門の近くで、一人の老人を見つけた。
白髪。
少し曲がった背中。
手には何枚もの試験結果通知。
そして――。
泣いていた。
「……また駄目だったか」
老人は震える声で呟いた。
修司は近づく。
「大丈夫ですか?」
老人は慌てて涙を拭いた。
「見苦しいところを見せてしまったな」
「何かあったんですか?」
老人は苦笑する。
「わしは佐伯源三。七十二歳じゃ」
「七十二歳……」
「この学校の資格試験を受け続けておる」
源三は手元の紙を見せた。
そこには大きく書かれていた。
不合格。
不合格。
不合格。
不合格。
そしてまた不合格。
修司は思わず息を呑んだ。
「こんなに……」
「二十八回じゃ」
「え?」
「二十八回落ちた」
源三は笑った。
だがその笑顔は寂しかった。
「若い頃から教師になりたかったんじゃ」
修司は黙って聞く。
「だが家が貧しくてな」
「……」
「夢を諦めて働いた」
源三は空を見る。
「気づけば七十二歳」
「それで今さら夢を?」
「最後に一度だけ挑戦したくなった」
だが。
結果は二十八回連続不合格。
源三は小さく呟いた。
「もう終わりかもしれんな」
その言葉を聞いた瞬間。
修司は首を振った。
「終わってません」
「え?」
「全然終わってません」
源三は驚く。
修司は真っ直ぐ言った。
「二十八回失敗したんですよね?」
「そうじゃ」
「じゃあ二十八回挑戦したってことです」
源三は言葉を失う。
修司は続けた。
「僕は失敗って大事だと思うんです」
「……」
「失敗した人しか学べないことがあります」
「……」
「挑戦しなかった人は、失敗すらできない」
源三の目が揺れた。
修司は笑う。
「だから僕は尊敬します」
「え?」
「七十二歳で夢を追い続ける人を」
源三は震えた。
「尊敬……?」
「はい」
修司は力強く言う。
「失敗してもいい」
「……」
「挑戦をやめなければな」
春風が吹いた。
源三の頬を涙が伝う。
「馬鹿な若者じゃな……」
そう言いながら。
老人は笑っていた。
何年ぶりか分からないほど。
心から。
笑っていた。
その日の放課後。
源三は再び図書室へ向かった。
参考書を開く。
ノートを書く。
問題を解く。
誰よりも真剣に。
誰よりも楽しそうに。
修司は遠くから見守る。
すると学園長が現れた。
「修司くん」
「学園長」
「君はまた一人救ったね」
修司は首を振った。
「違います」
「ん?」
「源三さんが自分で立ち上がったんです」
学園長は微笑む。
「そのきっかけを作ったのは君だよ」
夕日が校舎を赤く染める。
その時だった。
源三のノートが淡く光る。
修司は驚いた。
「今のは?」
学園長が静かに言う。
「成長の証だ」
「成長の?」
「この学園では、本気で前へ進んだ者にだけ現れる」
修司は目を見開いた。
すると。
源三の頭上に不思議な文字が浮かぶ。
【挑戦者ランク:E → D】
「ランクアップ……?」
学園長は頷く。
「面白くなってきたね」
修司は思わず笑った。
無限成長学園。
そこは夢の再挑戦が許される場所。
そして――。
まだ誰も知らない。
この老人が学園史上最大の奇跡を起こすことを。
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### 次回
# 第三話
## 「夢を忘れた少女」
「将来の夢?」
少女はそう聞かれて答えた。
「ありません」
夢を持てなくなった中学生。
失敗が怖い少女。
そして修司が見つけた彼女の本当の願いとは――。
「夢は最初から大きくなくていい」
無限成長学園、第三話!




