第七話 ~収穫祭~
朝からリヴェイル村は賑やかだった。
広場には色とりどりの布が飾られ、
屋台からは香ばしい匂いが漂っている。
子供たちは走り回り、
楽団の演奏が響き、
村全体が笑い声に包まれていた。
「……すごい」
リアは思わず足を止めた。
祭りを知らないわけではない。
本で読んだこともある。
遠くから見たこともある。
けれど。
こんなに近くで。
こんなに大勢の人が楽しそうにしている場所にいるのは初めてだった。
「だろ?」
隣でサイラスが笑う。
「どうだ?本物の祭りってのを見て見た感想は」
「想像より騒がしいです」
「それは褒めてんのか?」
「事実です」
真顔だった。
「ははっ」
サイラスが吹き出す。
すると後ろからエドが声をかけた。
「今日は何から回る?」
「全部です」
即答。
全員が黙った。
「全部?」
ルカが聞く。
「全部です」
「ずいぶんと欲張りだな」
「初めてなので」
「まあ、そうだけど……」
エドが苦笑する。
ルカは肩を竦めた。
「一日じゃ無理だろ」
「では可能な限り」
「妙なところで真面目だな」
そんなやり取りをしながら、
四人は祭りの中へ足を踏み入れた。
◇◇◇
焼き菓子の屋台。
花飾りの店。
大道芸。
演奏。
どこを見ても人で溢れている。
リアは視線を忙しなく動かしていた。
「あれは何ですか」
「あれは飴」
「ではあちらは」
「射的」
「なるほど」
「いちいち反応が新鮮だな」
サイラスが笑う。
その時。
広場の向こうから大きな歓声が上がった。
「おおおおっ!」
「始まったぞ!」
人の波が一斉に動く。
リアはそちらを見る。
少しだけ。
本当に少しだけ気になった。
「……」
じっ。
「気になるのか?」
「少し」
「行ってみる?」
「はい」
そう答えた瞬間。
また別の場所から音楽が聞こえた。
さらに反対側では屋台の呼び込み。
祭りはどこも賑やかだ。
リアは視線を動かす。
そして――
気づけば。
人混みに流されていた。
◇◇◇
数分後。
「……あれ?」
エドが辺りを見回した。
「リアは?」
沈黙。
三人が辺りを見る。
いない。
「……いないな」
ルカが言った。
「いませんね」
サイラスも言う。
「いやいやいや!」
エドだけが慌てた。
「さっきまでいたぞ!?」
「いた」
「いたな」
「落ち着いてる場合!?」
近くにいたおばちゃんが笑う。
「あらあら、迷子かい」
「笑い事じゃないですよ!」
「大丈夫だ。この村だし」
「そういう問題じゃ――」
エドが言いかける。
だがルカが欠伸をしながら口を開いた。
「じゃあお前が探すのか?」
「え?」
「お前、人混み慣れてないだろ」
エドは言葉に詰まる。
確かに。
祭りなんてほとんど経験がない。
するとルカはサイラスを指差した。
「こういうのはこいつの方が向いてる」
「まあ、それはそうっすね」
サイラスも頷く。
「村中顔見知りだし」
「じゃあ頼む」
「え、決定?」
「「適任」」
ルカとエドが同時に言った。
「お前らなぁ……」
サイラスはため息を吐く。
だが。
「ま、迷子放置も寝覚め悪いしな」
肩を竦める。
「行ってくる」
そう言って人混みの中へ消えていった。
◇◇◇
残された二人。
「……」
「……」
微妙な沈黙。
先に口を開いたのはルカだった。
「腹減った」
「それしか言わないの?」
「祭りだぞ」
「そうだけど」
「飯食うだろ」
「まあそうだけど」
「よし」
勝手に屋台へ向かう。
エドは思わずため息を吐いた。
けれど。
少しだけ笑ってしまう。
「待てって」
そう言いながら後を追った。
◇◇◇
一方その頃。
リアは。
「……」
完全に迷っていた。
どこを見ても人。
人。
人。
「これは……」
予想外です。
無表情のまま立ち尽くす。
すると。
「やっぱり迷子じゃねえか」
聞いたことのある声がした。
振り向く。
そこには。
呆れたように笑うサイラスが立っていた。
「見つけた」
リアは少しだけ目を瞬く。
「……サイラス」
「探したぞ」
「申し訳ありません」
「いや、予想通りだから」
「予想していたのですか」
「してた」
即答だった。
リアは少しだけ不服そうな顔をする。
その反応を見て。
サイラスは思わず笑った。
「とりあえず」
そう言って手を差し出す。
「今度ははぐれんなよ」
祭りの喧騒の中。
リアはその手を見つめた。
そして。
少しだけ迷ってから。
静かにその手を取った。




