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リヴェイル  作者: Siki_2645
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第八話 ~ただの四人~

祭りの熱気は、日が傾いても衰えなかった。


通りには提灯が灯り始め、

夕暮れの空を柔らかな橙色が染めている。


リアは周囲を見回しながら歩いていた。


射的。


飴細工。


焼き菓子。


見たことのないものばかりだ。


隣ではサイラスが呆れたように笑う。


「そんなに珍しいか?」


「珍しいです」


即答だった。


「見たことはあるんだろ?」


「あります」


「じゃあ何が違うんだよ」


リアは少し考える。


それから。


「近いです」


ぽつりと答えた。


「近い?」


「皆、楽しそうです」


その言葉に。


サイラスは少しだけ目を丸くした。


リアは相変わらず無表情だ。


けれど。


ほんの少しだけ。


楽しそうに見えた。


「……そっか」


サイラスはそれ以上何も言わなかった。


しばらく歩いていると。


ふと。


リアの足が止まる。


「?」


サイラスが振り返った。


リアは一点を見つめている。


その視線の先には屋台。


色鮮やかな果実を使った飲み物が並んでいた。


そして看板には大きく。


『恋人限定!幸せのベリードリンク』


と書かれている。


「……」


「……」


嫌な予感がした。


「サイラス」


「なんだ」


「飲みたいです」


やっぱり。


サイラスは天を仰いだ。


「やめろ」


「なぜですか」


「看板読んだか?」


「読みました」


「何て書いてある」


「幸せのベリードリンク」


「その上」


「恋人限定」


「そう」


理解している。


理解しているのに。


なぜ欲しがる。


「限定品です」


「そこじゃねぇ」


即座に突っ込む。


リアは不思議そうな顔をした。


「人気商品なのでは?」


「たぶんそうだけど」


「なら飲みたいです」


「子供か」


真顔だった。


二人のやり取りを聞いていた屋台のおばちゃんが、

楽しそうに笑う。


「あらあら」


サイラスの背筋に嫌なものが走った。


「仲良しさんじゃないかい」


「違います」


「違うって」


見事に声が重なる。


だがおばちゃんは全く聞いていない。


「若いねぇ」


「話聞け」


「初々しいねぇ」


「だから違うんだって」


サイラスは頭を抱えた。


しかし。


リアはまだ看板を見ている。


「サイラス」


「なんだ」


「飲みたいです」


「まだ言うのか」


「限定らしいので」


「限定に弱すぎるだろお前」


するとリアは少し首を傾げた。


「恋人とは」


「ん?」


「その飲み物を一緒に飲む関係のことではないのですか」


沈黙。


サイラスは数秒固まった。


「誰に教わった」


「本です」


「どんな本だよ」


思わず額を押さえる。


絶対変な本だ。


間違いない。


そんな二人を見ていたおばちゃんは、

とうとう耐えきれなくなったらしい。


「はいはい!」


勝手にカップを二つ取り出す。


「サービス!」


「え?」


「お幸せに!」


「いや待っ――」


「あははは!」


周囲の客まで笑い始めた。


完全に逃げ場がない。


結局。


サイラスの手には二つのカップがあった。


「……なんでこうなる」


「ありがとうございます」


リアは素直だった。


「お前なぁ」


ため息を吐きながら、

片方を渡す。


リアは受け取ると、

一口飲んだ。


そして。


ほんの少しだけ目を見開く。


「美味しいです」


「そうか」


「はい」


それだけ。


それだけなのに。


なぜか少し嬉しそうだった。


サイラスは思わず笑う。


「祭り満喫してんな」


「そうでしょうか」


「してる」


断言した。


リアは少し考える。


それから。


夕暮れに染まる祭りの景色を見渡した。


「……そうかもしれません」


その声は。


いつもより少しだけ柔らかかった。


◇◇◇


祭りの賑わいから少し離れた道。


屋台で買った串焼きを食べながら、

二人はのんびり歩いていた。


「なあ」


ルカが口を開く。


「ん?」


「お前さ」


串を咥えたまま言う。


「祭り初めて?」


エドは少し驚いた。


「なんで?」


「リアほどじゃないけど」


ルカは前を向いたまま続ける。


「なんか慣れてない」


エドは思わず苦笑した。


「分かる?」


「分かる」


即答だった。


「まあ……初めてじゃないよ」


「ふーん」


「でも、ちゃんと参加したのは初めてかも」


ルカは少しだけ首を傾げる。


エドは夜空を見上げた。


「昔から忙しかったから」


「仕事?」


「そんな感じ」


嘘ではない。


勇者としての仕事。


討伐。


訓練。


遠征。


祭りの日ですら自由な時間は少なかった。


「だから」


エドは少し笑う。


「こういうの、ちょっと新鮮なんだ」


ルカは黙って聞いていた。


「意外だな」


「何が?」


「もっと遊んでんのかと思ってた」


「そんな風に見える?」


「見える」


ルカは頷く。


エドは吹き出した。


「残念でした」


「かわいそうに」


「そこまで?」


また少し笑いが起きる。


夜風が吹いた。


しばらく歩いてから。


ルカがぽつりと聞く。


「じゃあ何のために頑張ってんの?」


エドは足を止めかけた。


「え?」


「忙しかったんだろ」


ルカは何気ない調子で言う。


「そこまでして叶えたいもんがあるんじゃねえの」


エドは少し黙る。


祭りの灯りが揺れている。


遠くで笑い声が聞こえる。


そして。


「……いるんだ」


小さく呟いた。


「倒さなきゃならない相手が」


ルカの表情は変わらない。


「へえ」


「それが俺の目標であり夢でもある」


エドは静かに言う。


「だから頑張ってる」


俺は勇者だから。


魔王を倒すために。


その言葉は飲み込んだ。


ルカはしばらく黙っていた。


祭りの灯りが揺れる。


遠くから笑い声が聞こえてくる。


そして。


「お前」


ルカが焼き鳥をかじりながら言った。


「そいつ倒したら何すんの」


エドは一瞬固まった。


「……え?」


「だから」


ルカは前を向いたまま続ける。


「目標なんだろ」


「うん」


「じゃあ終わった後」


夜風が吹く。


「何するんだ?」


エドは答えられなかった。


考えたこともなかった。


倒す。


勝つ。


終わらせる。


そこまでは考えていた。


けれど。


その先は。


何も。


「……」


ルカはそんなエドを見て小さく肩を竦める。


「別にいいけどさ」


そして。


何でもないことのように笑った。


「倒した後の方が長いだろ」


その言葉が。


妙に胸に残った。


◇◇◇


リアとサイラスが広場へ戻った頃には、

空はすっかり夜の色に染まっていた。


提灯の明かりが通りを照らし、

祭りは昼とは違う賑わいを見せている。


「いた」


先に見つけたのはリアだった。


広場の端。


ベンチの近くで、

エドとルカが何やら話している。


「おー」


ルカが気付いて軽く手を上げた。


「見つかったか」


「はい」


リアは頷く。


その隣でサイラスが深いため息を吐いた。


「見つかったじゃなくて、迷子だったんだよ」


「そうとも言います」


「そうとしか言わねぇよ」


エドが小さく笑った。


「無事でよかった」


「ご迷惑をおかけしました」


「いや、怪我がなくてよかったよ」


そんな会話をしながら合流する。


すると。


ルカの視線がふと止まった。


「それ何?」


サイラスの手にある二つのカップ。


赤紫色の飲み物。


「あー……」


嫌な予感しかしない。


リアは素直に答えた。


「幸せのベリードリンクです」


「あっ」


ルカが何かを察した顔をした。


「恋人限定のやつじゃん」


サイラスが頭を抱えた。


「知ってんのかよ」


「有名だぞ」


ルカはにやりと笑う。


その顔を見た瞬間、

サイラスはさらに嫌な予感がした。


「で?」


「何がで?」


「へぇ」


「だから何だよ」


「別に」


全然別にじゃない顔だった。


隣ではエドがきょとんとしている。


「恋人限定?」


リアは首を傾げた。


「そうらしいです」


「そうらしいって……」


エドが苦笑する。


サイラスはすぐに説明した。


「違うからな」


「何がですか」


「その反応やめろ」


リアは本気で分かっていなかった。


ルカはついに吹き出した。


「ははっ」


「笑うな」


「無理だろ」


「お前後で覚えてろ」


「こわ」


全く怖がっていない。


エドも堪えきれずに笑い始めた。


その様子を見て、

サイラスは心底面倒そうな顔をした。


「何なんだよお前ら」


「仲良しだなと思って」


エドの一言に。


サイラスが固まる。


リアは少し考えた。


そして。


「確かに仲は良い方だと思います」


追撃だった。


「お前まで何言ってんの!?」


今度はルカが腹を抱えて笑い始める。


広場の喧騒に混じって、

四人の笑い声が響いた。


その時。


遠くで鐘が鳴る。


ゴーン――


ゴーン――


村人たちが一斉に空を見上げた。


「あ」


エドが呟く。


「始まるみたいだ」


「始まる?」


リアが聞く。


村人たちは次々と広場の中央へ集まっていく。


子供たちも。


大人たちも。


皆どこか楽しそうだった。


ルカが空を見上げる。


「花火」


「花火……」


リアはその言葉を繰り返した。


本では読んだことがある。


けれど。


実際に見るのは初めてだ。


四人は人の流れに合わせて広場の端へ移動する。


少し高くなった丘のような場所。


村全体が見渡せた。


夜風が吹く。


提灯の光が揺れる。


誰も喋らない。


ただ空を見上げる。


そして。


――ドォォォォン!!


轟音。


次の瞬間。


夜空に大輪の花が咲いた。


赤。


青。


金。


無数の光が広がる。


リアは思わず目を見開く。


「……綺麗」


ぽつりと漏れた声。


その横で。


エドが静かに笑った。


「うん」


ルカも空を見上げる。


サイラスも。


誰も余計なことは言わない。


ただ。


同じ夜空を見ていた。


次々と打ち上がる花火が、

四人の横顔を照らしていく。


祭りの夜。


笑い声。


灯り。


温かな時間。


今だけは。


勇者でも。


魔王でも。


王女でも。


魔王軍幹部でもない。


ただの四人だった。


夜空に咲いた最後の花火が、

静かに消えていく。


その光景を。


四人はしばらく見つめ続けていた。

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