第六話 ~収穫祭の準備~
リヴェイル村に来てから数日。
広場はいつもより騒がしかった。
「あー、今年もこの季節かぁ」
「飾り足りるかねぇ」
「足りなきゃ作ればいいだろ!」
村人たちが忙しなく動き回っている。
荷車には色とりどりの布。
子供たちは花を集めて走り回り、
大人たちは広場の飾り付けを始めていた。
そんな様子を見ながら。
リアは小さく首を傾げる。
「何かあるのですか?」
近くにいたおばちゃんが笑った。
「何かって、収穫祭だよ!」
「収穫祭……」
その言葉に、
リアは少しだけ目を瞬く。
祭り。
もちろん知らないわけではない。
本でも読んだし、
遠くから眺めたこともある。
けれど。
「参加したことはありません」
ぽつりと言うと。
近くにいたサイラスが盛大に吹き出した。
「マジで?」
「何がおかしいのですか」
「いや、祭りに参加したことない奴初めて見た」
「見たことはあります」
「参加は?」
「ありません」
「それは見ただけだろ」
リアは納得いかない顔をする。
「祭りとは見るものではないのですか?」
「参加するもんだろ」
即答だった。
すると後ろから声が飛ぶ。
「リアちゃん!」
振り向けば村長だった。
「今年は参加していけ!」
「え」
「エドもサイラスもルカも手伝うんだ!」
「勝手に決めるな」
広場の隅で寝転がっていたルカが言う。
「お前はまず働け」
「働いてる」
「寝てるだろうが」
村長のげんこつが飛んだ。
ゴッ。
「痛ぇ」
「当然だ」
村人たちが笑う。
リアはその光景を見て、
少しだけ不思議そうな顔をした。
勇者も王女もいない。
ただの村人たちだった。
◇◇◇
その日の午後。
四人は広場の飾り付けを任されていた。
「それをそっち」
「はい」
エドが脚立を支え、
リアが花飾りを取り付ける。
その下では。
「サイラスー!」
「遊ぼうぜー!」
「お前ら今準備中だろ!?」
子供たちに捕まったサイラスが引きずられていた。
「助けろ!」
「頑張れー」
ルカがやる気なく手を振る。
「薄情!」
「人聞き悪いな」
全然助ける気がない。
そんなやり取りに、
エドは思わず笑ってしまった。
その時。
ぐらり。
「あ」
脚立が揺れる。
リアの体が傾いた。
「危ない!」
エドが咄嗟に手を伸ばす。
だが。
その前に。
下からサイラスが支えていた。
「っと」
リアは目を瞬く。
「ありがとうございます」
「気をつけろよ」
「はい」
サイラスは少し笑った。
「意外と危なっかしいな」
「貴方にだけは言われたくありません」
「ひでぇ」
即答だった。
ルカが吹き出す。
「正論」
「お前も同類だからな?」
「巻き込むな」
四人の間に笑い声が広がった。
◇◇◇
夕方。
準備はようやく一段落した。
広場には色とりどりの飾りが並び、
祭りらしい雰囲気が出来上がりつつある。
「綺麗ですね」
リアが呟く。
村長は満足そうに頷いた。
「だろう?」
「この祭りは長いんですか?」
「んー、ずっと昔からだな」
村長は顎を撫でる。
「詳しいことは知らんが、何百年も前から続いてるらしい」
「そんなに?」
エドが驚く。
「昔は人間も魔族も関係なく祝ってた祭りだったとか何とか」
「へぇ」
サイラスが適当に相槌を打つ。
ルカも特に反応しない。
村長も昔話程度の感覚なのだろう。
「まあ本当かどうかは知らん!」
豪快に笑った。
「適当ですね」
「昔話なんてそんなもんだ!」
広場に笑い声が響く。
その頃には、
空は夕焼け色に染まり始めていた。
祭りは明日。
村人たちはどこか浮き足立った様子で、
それぞれの家へ帰っていく。
リアは飾られた広場を見つめた。
初めて参加する祭り。
少しだけ。
本当に少しだけ。
楽しみだと思った。
その感情に気づいて、
自分でも少し驚いていた。
そしてその隣では。
エドもまた、
祭りの準備が進む広場を静かに見つめていた。
明日は祭り。
勇者でもなく。
王女でもなく。
魔王でもなく。
ただの村人として過ごせる一日が、
もうすぐ始まろうとしていた。




