第五話 ~四人目~
「誰?」
ルカがリアを見ながら言った。
「リアです」
「ふーん」
興味があるのかないのか分からない返事だった。
その横でアルセリオが苦笑する。
「もう少しまともに自己紹介できないのか?」
「面倒」
「即答だな……」
その時だった。
「おーい!」
元気な声が飛んでくる。
振り返ると、赤髪の青年が大きく手を振りながらこちらへ走ってきた。
「ルカ、置いていかないでくれよ!」
「遅い」
「そっちが勝手に先行ったんだろ!」
青年は文句を言いながらルカの隣に並ぶ。
それからエドたちに気付いた。
「あれ?」
人懐っこい笑みを浮かべる。
「知り合い?」
「エド」
ルカが適当に答える。
「リア」
さらに適当だった。
「説明雑すぎない?」
赤髪の青年は呆れたように笑った。
そして胸に手を当てる。
「俺はサイラス。最近この村に引っ越してきた」
「エドモンドです」
「リアです」
「よろしく」
サイラスはにっと笑った。
「へぇ、ルカが友達連れてくるとか珍しいな」
「友達?」
ルカが眉をひそめる。
「違うのか?」
「知らん」
「えー、ひどいなあ」
アルセリオが吹き出した。
「お前ら本当にいとこなのか?」
「一応な」
「一応ってなんだよ」
「遠いんだよ、血が」
「適当すぎるだろ」
サイラスは肩を震わせて笑った。
◇◇◇
四人はそのまま村を歩くことになった。
サイラスがいるだけで妙に賑やかだ。
「リアってさ」
「何でしょう」
「敬語癖になってる?」
リアが固まった。
アルセリオも固まった。
一秒。
二秒。
「……そうでしょうか」
「なってるな」
「なってますね」
ルカとアルセリオが頷く。
「そうですか」
リアは真面目に考え込む。
サイラスは思わず笑った。
「別に悪いって意味じゃないぞ?」
「ですが村では浮きますね」
「そこまで真面目に考える話じゃねえよ!」
今度はサイラスが突っ込む番だった。
◇◇◇
広場に着くと、子供たちが走り回っていた。
木の棒を剣代わりにして遊んでいる。
リアはその様子をじっと見つめる。
「楽しそうですね」
ぽつりと漏れた言葉。
サイラスはその横顔を見た。
「混ざれば?」
「無理です」
即答だった。
「早いな」
「無理です」
「二回言った」
ルカが欠伸をする。
「じゃあサイラス行ってこい」
「俺?」
「暇だろ」
「ひどくね?」
しかし数分後。
サイラスは本当に子供たちに捕まっていた。
「サイラスー!」
「逃げるなー!」
「待て待て待て!」
完全に遊び相手にされている。
リアはその様子を見つめていた。
しばらくして。
子供たちに追い回されたサイラスが戻ってくる。
「……疲れた」
「弱いんですね」
「今失礼なこと言った?」
真顔だった。
アルセリオが吹き出す。
ルカも珍しく肩を揺らした。
サイラスは思わず頭を抱えた。
「リア、お前結構容赦ないな」
「そうでしょうか」
「そうだよ」
本人だけが気付いていなかった。
◇◇◇
夕方。
リアとサイラスが屋台を見ている間。
アルセリオとルカは少し離れた場所を歩いていた。
「賑やかな人だな」
アルセリオが言う。
「うるさい」
「否定しないんだな」
「事実だし」
ルカは肩を竦める。
しばらく沈黙が続いた。
村の人々の笑い声が聞こえる。
夕飯の匂いが漂う。
どこか穏やかな時間だった。
「ルカ」
「ん?」
「どうしてこの村にいるんだ?」
何気ない質問。
ルカは少しだけ空を見上げた。
赤く染まる空。
遠くの山。
煙突から昇る煙。
そして。
村の風景。
「……なんとなく」
「適当だな」
「居心地いいから」
アルセリオは少しだけ目を見開いた。
その答えは意外だった。
けれど。
「分かる気がする」
自然にそう答えていた。
ルカは一瞬だけ彼を見る。
そして小さく笑う。
「だろ」
◇◇◇
気付けば日が傾いていた。
帰ろうとした時。
遠くから声が飛んでくる。
「ルカー!」
「サイラスー!」
「エドー!」
村人たちが手を振っていた。
四人も振り返す。
すると。
パン屋のおばちゃんがリアを見つけた。
「リアちゃんもまた来な!」
リアは少しだけ目を見開く。
王女ではなく。
婚約者でもなく。
ただの一人の人間として呼ばれた。
ほんの少しだけ。
胸の奥が温かくなった。
「……はい」
自然と返事が出る。
村人たちは笑った。
サイラスも笑う。
アルセリオも笑う。
ルカは欠伸をしながら、
「またな」
とだけ言った。
夕暮れの風が吹く。
リヴェイルには今日も穏やかな時間が流れていた。




