仁義と恋のはざま
任侠物で主人公とヒロインをラブラブさせてと無茶振りな指示しました。
並行世界の話。
夜の街は、雨で滲んでいた。
赤いネオンが舗道に映り、溜まった雨水が光を揺らす。
「……峻。ほんとに行くの?」
皆川真は、傘を差しながら小さく問いかけた。
その声は震えていた。けれど、止めたいとは言えないのだろう。
「行くさ」
峻はスーツの襟を正し、拳を握った。
「この筋を通さなきゃ、男が立たねぇ」
「筋、筋って……あんた、私の唇奪ったときも“筋だから”って言ってたよね」
「そりゃそうだ。惚れた女を守るってのは、極道にとっちゃ義務みてぇなもんだ」
そう言って峻は、煙草をくわえた。
だが真がその煙草を取り上げる。
「ダメ。肺が悪くなる」
「……姐さん、そりゃ拷問だぜ」
「じゃあ、代わりにこれ」
彼女は軽く背伸びして、唇を触れ合わせた。
ほんの一瞬の口づけ。
だが峻の瞳の奥が、凶器みたいに熱を宿す。
「……あぶねぇな、姐さん。そんなことされたら、抗争どころじゃなくなる」
「じゃあ行かないで」
「そうもいかねぇ。だが――」
峻は拳を下ろし、真の頬に手を添えた。
雨音の中で、二人の間に静寂が生まれる。
「帰ってきたら、もう一度しよう。今度は“筋”抜きでな」
「……バカ。そういうとこ、好き」
真が笑う。
その笑みは、どんな抗争よりも峻の心臓を貫いた。
そして峻は背を向ける。
黒い背広の背中に、任侠の覚悟と恋の未練が滲んでいた。
「行ってこい、私のバカな男」
「おう。お前のために、生きて戻る」
――ドスよりも重い約束が、その夜の雨に刻まれた。
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(少し後)
「……で、峻、どうなったの?」
「まぁ、敵の若頭がコーヒーこぼして仲直りってオチだ」
「は?」
「お互い“熱っつ!”って叫んでるうちにケンカする気失せた」
「……真面目に生きて、ほんと」
「真面目だぜ。お前にチュッとされるためにな」
そう言って、今度は真の方が顔を真っ赤にした。
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『第二幕 龍と花の抗争』
夜の倉庫街は、静まり返っていた。
雨上がりの湿気が重く、油の匂いが鼻を突く。
峻は、拳を握ったまま歩を進める。
黒いコートの下、腰のドスが月明かりを受けて鈍く光った。
――皆川真が攫われた。
敵対組織〈白龍会〉の仕業だ。
理由は単純、峻が“筋を通した結果、彼らのシノギを潰した”から。
彼女を巻き込みたくはなかった。
けれど、あいつらに狙われるほどに――
真が俺の「弱点」になっていた。
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「よぉ、佐波の兄さん。おたくの“姐さん”なら、うちが預かってるぜ」
倉庫の奥、白龍会の若頭・鬼塚が椅子にふんぞり返っていた。
その横に――真が、縄で縛られて座っている。
「やめなさい! 峻を巻き込まないで!」
「おっと、お嬢ちゃん。動くと怪我するぜ?」
峻の目が、静かに光を失った。
その無言が、誰よりも危険だと、鬼塚はすぐに悟った。
「……離せ」
「は? お前が土下座でもすりゃ考えてや――」
次の瞬間、鬼塚の部下が吹っ飛んだ。
峻の拳が、風を裂いていた。
「てめぇら、仁義の意味わかってねぇな……!」
「な、なにぃっ!?」
峻はゆっくり歩み寄る。
真が震える声で叫ぶ。
「峻っ! ダメ! 人を殺したら――!」
「殺さねぇよ」
彼は微笑んだ。
その笑みは、冷たくて優しい。
「俺が守りてぇのは、あんたの笑顔だ。血で汚す気はねぇ」
そう言って、峻は拳を構えた。
鬼塚がナイフを抜くが、峻の動きはそれより早い。
一発。
二発。
三発目で、鬼塚は崩れ落ちた。
倉庫に残ったのは、峻の荒い息と、真のすすり泣く声だけ。
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「バカ……!」
縄を解かれた真が、峻の胸を拳で叩いた。
「どうして、いつもそうやって無茶するの!?」
「しょうがねぇだろ。惚れた女に手ぇ出されたら、誰だってキレる」
「でも――」
「泣くなよ、姐さん」
峻はその涙を親指で拭い、軽く唇を重ねた。
「こんなとこでチュウしてんじゃねぇ!」
倒れた鬼塚の部下が叫ぶ。
峻が振り向き、ドスを抜いた瞬間――
真が前に出た。
「峻、やめなさい! チュウ一回で怒るなんて子供みたい!」
「……チュウ一回じゃ足りねぇから怒ってんだよ」
「え?」
真が顔を赤くする。
「帰ったら続きな」
その瞬間、鬼塚の部下が一斉に戦意喪失した。
「恋愛バカが一番怖ぇ」と後に語られる夜であった。
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帰り道。
峻は傷だらけの手で真の頭を撫でながら、笑う。
「筋も仁義も大事だが……」
「……恋も、大事?」
「それが一番、俺の“極道”らしい生き方かもな」
真がくすっと笑った。
街灯の下、二人の影が重なり、ゆっくりと溶けていく。
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『最終幕 極道引退、恋愛始末書』
朝の光が、灰色の街を優しく照らしていた。
佐波峻は、黒いスーツを脱ぎ、机の上に丁寧に畳んで置いた。
「これで終いだな」
その声には、もう“兄貴分”の響きはなかった。
ただ一人の男としての静かな決意があった。
「……本当に、いいの?」
真が問いかける。
「組、抜けたら、あんた――」
「いいんだ。もう“筋”よりも守りてぇもんができた」
峻は笑って、真の手を握る。
「“仁義”は人のためにあるもんだ。
俺にとっちゃ、もうお前がそれなんだよ」
真の目に涙が浮かぶ。
「……そんなの、ずるい言い方」
「惚れたもん勝ちだ」
峻がにやりと笑った。
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だがそのとき、玄関のドアが乱暴に叩かれた。
「佐波ぃぃぃ!!」
聞き覚えのある声――白龍会の残党だ。
「……めんどくせぇな」
「行っちゃダメ!」
「行かねぇ。だが――」
峻はそっと真の手を離し、スマホを取り出す。
そして警察に通報した。
「えっ!? 峻、警察に!?」
「もう“極道”じゃねぇんだ。
正義は自分の手で握るより、法に預けるもんだろ」
真が目を丸くする。
「……成長したね」
「おう。惚れた女に“おかえり”って言ってもらうためだ」
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数分後、パトカーのサイレンが響き渡る。
残党たちは慌てて逃げ出した。
峻は玄関の外で深く息をつき、
もう一度家の中に戻る。
「終わったよ」
「……ねぇ、峻」
「ん?」
「“極道引退”って書類出すんでしょ? なら、“恋愛始末書”も書いて」
「なんだそれ」
「“二度と危ないことしません。代わりに、毎日キスします”って」
「……そりゃ罰が甘ぇな」
「じゃあ、“朝昼晩三回ずつ”」
「姐さん、鬼だな」
二人は見つめ合い、同時に笑った。
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(エピローグ)
季節が巡り、桜が咲く。
峻は喫茶店で、真と並んで座っていた。
カウンター越しにマスターが尋ねる。
「兄ちゃん、最近は静かだな」
「おう。もう喧嘩はコーヒーで済ませてる」
「コーヒーで?」
「熱すぎて舌やけどして、和解すんだよ」
真が横で吹き出す。
「……バカ。ほんとに変わったね」
「惚れた女のおかげだ」
その言葉に、真は少し照れながら――
そっと、彼の肩にもたれた。
「ねぇ峻」
「ん?」
「“筋”って、恋にも通じるんだね」
「そりゃあ、“裏切らねぇ”って意味じゃ一緒だ」
二人の笑顔が、春風に溶けていく。
仁義と恋――そのはざまで、二人はようやく人として生き始めた。
完。
甘いのにドスが効いてる、
命懸けの恋なのにちょっとバカっぽくて笑える――
そんな任侠ラブコメにしてみました。
とAIが解説してます。
意外と面白かった。




