オタクに優しいギャル
ヒロインをオタクに優しいギャルにしてと指示しました。
並行世界の話。
第一章 金髪の衝撃
朝の教室。カーテンの隙間から秋のやわらかな光が差し込み、ざわめく声と椅子の軋む音が混じり合っていた。
俺――佐波峻はいつものように机に突っ伏し、半分寝ながらホームルーム開始を待っていた。
「ふあぁ……眠い……」
欠伸をかみ殺し、机の上の教科書を適当にめくる。
斜め後ろの席は、皆川真。眼鏡が似合う少しおっとりした彼女――であり、俺の恋人。
昨日も図書室で一緒に帰ったときは、ページをめくる音より小さな声で本の感想を語ってくれて……そう、いつもの“真”だった。
だから、この瞬間まで俺は何の疑いも持っていなかった。
ガラッ!
教室のドアが勢いよく開いた。
一瞬で空気が張り詰める。声が止み、椅子を引く音すら消えた。
そこに立っていたのは――
「おっはよぉ~!」
光を反射して輝く、金色の髪。
ふわりと巻かれたカールが揺れ、耳元には小さなピアスがキラリ。
制服は大胆に着崩され、ネイルは派手なピンク。
……皆川真だった。
「…………は?」
頭が真っ白になり、俺は椅子から半分落ちかけた。
昨日まで眼鏡の似合う文学少女が――一夜にして、“金髪ギャル”に進化していたのだ。
「ま、まこちゃん!? な、なにその髪!!」
俺が声を裏返して叫ぶと、真は口角を上げて、悪戯っぽく舌をちょこんと出した。
「えへっ、どぉ? イメチェン! 超かわいくなったっしょ?」
その瞬間、教室中が爆発した。
「え、え、え!? 皆川!? 金髪!? ギャル!?」
「待てよ、誰だよあの美人……って皆川じゃねぇか!!」
「うそだろ、メガネ清楚キャラが……進化しすぎてる……!」
俺は慌てて立ち上がり、真の前に立ちはだかった。
「お、お前なぁ! なんで急に金髪なんかに……!」
「えー? 文化祭も近いし、ノリ大事っしょ? やっぱ盛り上げ役って必要じゃん?」
「いや限度があるだろ!? なんだよそのネイル、なんだよその厚底!」
「ちょ、やばくない? しゅー、嫉妬ぉ? かわいー」
にこりと笑って小首をかしげる仕草に、クラス中がどよめく。
「天使……いや女神か……!」
「俺たちの希望がそこに……!」
「オタクに優しいギャルって実在したんだ……!」
教室の隅に固まっていた陰キャ男子たちが、祈るように手を組む。
俺の背筋に嫌な汗が流れた。
――嫌な予感しかしない。
第二章 オタクに優しいギャル
昼休み。
教室の空気は、まだ朝の衝撃から立ち直れていなかった。
「なぁ……マジで皆川か? あの金髪の……」
「声も仕草も……でも笑った顔は確かに皆川……」
「ってか、可愛すぎんだろ……」
ざわざわとした視線を背中に感じつつ、俺は弁当を広げていた。
その向かいには――金髪に巻いた髪を指先でくるくる弄びながら、満面の笑みを浮かべる真。
「ねぇしゅー、そんな睨まないでよぉ。カワイイ彼女とランチできんだから、もっと喜んで?」
「お、お前なぁ……普通にしてりゃ可愛いんだから、そんなチャラい真似しなくても……」
「えー? でもさぁ、ほら、こういうのって新鮮でウケるんだよ?」
そう言いながら、真は唐突に立ち上がり、クラスの隅――窓際でひっそりと漫画を読んでいた男子の方へと歩いていった。
「ちょ、まこちゃん!?」
「ちょい待っててね、しゅー」
俺の制止も聞かずに、真はその男子の机に身を乗り出した。
金色の髪がさらりと揺れ、彼のページを覗き込む。
「ねぇねぇ、それってさぁ、『魔剣勇者ファンタズマ』の最新刊じゃん? やば、私も昨日読んだやつぅ!」
「えっ、あ、あの……!」
普段、誰にも声をかけられないであろう彼は、一瞬で顔を真っ赤にした。
手が震え、持っていた箸が落ちそうになる。
「てか、そのキャラめっちゃ推せるよね~。わかるわかる! あ、良かったらさ、今度一緒に語ろ? 私、推しトーク大好きなんだ」
「お、オレで、いいんですか……!?」
「いいに決まってんじゃん。オタクくん、カワイイんだし!」
――どよめき。
教室全体が、爆発音が鳴ったかのように揺れた。
「オ、オタクに優しいギャル……!」
「こんなの都市伝説だと思ってたのに……実在したんだ……!」
「まさか皆川が……皆川が俺らの味方に……!」
ざわざわと立ち上がり始める陰キャ男子たち。
彼らの目には、既に畏怖と憧れが混じった光が宿っていた。
俺は慌てて立ち上がる。
「ちょ、待て待て待て! お前ら勝手に盛り上がるな! まこちゃんは俺の彼女だからな!」
だが、その声は彼らの熱狂にかき消された。
「同志よ、聞こえるか! 我らは今、女神に祝福された!」
「皆川真を公式ヒロインとして讃える同盟を結成するのだ!」
「文化祭までに“姫プロジェクト”を立ち上げろ!」
黒板には、誰かがチョークで大書きしていた。
『公式ヒロイン 皆川真』
「…………マジかよ」
俺は頭を抱えた。
当の本人は、そんな大騒ぎをよそに、ケラケラ笑いながら手を振っている。
「やばっ、みんなテンション高すぎ。でも、悪くないかもねぇ、こーゆーの!」
その笑顔を見て、俺の胃は限界まで縮み上がった。
第三章 文化祭準備、暴走開始
数日後。
文化祭の準備期間が始まると同時に、俺の地獄も幕を開けた。
本来、俺たちのクラスの出し物は「演劇」だった。
シンプルなラブストーリーをやろう――って、話し合いで決まっていたはずなのに。
「諸君! 脚本を改訂する!」
「主演はもちろん、公式ヒロイン・皆川真だ!」
黒板の前に立ったのは、オタク軍団のリーダー格・斎藤。メガネにバンダナ、Tシャツはアニメ柄。
彼はチョークを握りしめ、黒板いっぱいに「異世界」「姫」「ギャル」といった単語を書き殴っていた。
「で、でもさ、これって最初の話と違くない?」
「いや、むしろ進化だ! 皆川姫を中心にした“ギャル×異世界ファンタジー舞台”なら絶対にウケる!」
「そ、そうかなぁ……」
と戸惑う真をよそに、クラスの女子たちもざわめき始める。
「まぁ、真ちゃん可愛いしね」
「舞台で派手なのやるの、アリかも?」
「ってかギャル姫役とか、絶対映えるじゃん!」
そして――さらに事態をややこしくする存在が参戦した。
金髪のギャル仲間たちだ。
「ちょっとぉ~! マジ楽しそうじゃん、それ!」
「皆川もギャルデビューしたし、うちらも協力するっしょ!」
「てかさぁ、演出とかメイクとか、全部ギャルが仕切った方が絶対盛れるって☆」
オタク軍団とギャル軍団――普段なら水と油みたいな集団が、ここにきてまさかのタッグを組んだ。
「……嘘だろ」
俺は呟くしかなかった。
黒板には、次々と新しい案が書き込まれていく。
「姫役=皆川真」
「王子役=投票で決定」
「ラスボス=ギャル連合」
舞台セットのデザイン画まで描かれ始め、机の上にはアニメの資料やコスメが散乱する。
「ねぇしゅー、見て見て!」
真が小走りで俺の方へ駆けてきて、台本らしき紙を見せてくる。
「『金髪姫、異世界で大暴れ!』だって! 超ウケるくない?」
「ウケるかバカァ! なんでそんなサブタイトルなんだよ!」
「でもなんか……ちょっと楽しそうなんだよねぇ。あたし、姫役だって!」
「姫役!? え、王子は!? 俺だろ!? 普通!」
俺の叫びに、斎藤がメガネを光らせて答えた。
「残念だが、王子役はクラス投票で決めることになった!」
「はぁ!? そんなのズルいだろ!」
「民意に従え! 民意に!」
クラス全員の視線が集まる。
女子たちも男子たちも、なんかノリノリだ。
俺は机に突っ伏した。
「……俺の胃が死ぬ……」
その隣で、真は台本を読みながら笑っていた。
「てかしゅーが王子役じゃなくても、いーじゃん。しゅーは“リアルで”あたしの王子だし?」
「…………っ!」
顔が一気に熱くなる。
――だが、それを聞いたオタク軍団から悲鳴が上がった。
「な、なんだと……!?」
「公式ヒロインの恋人が……本当に存在するだと……!?」
「くそっ、リア充めぇぇぇ!」
俺は頭を抱えた。
……文化祭、本当にどうなるんだこれ。
第四章 文化祭当日、大混乱
文化祭当日の朝。
俺は控室で頭を抱えていた。
「……なんで俺がラスボス役なんだよ……」
そう、投票の結果。
皆川真は「姫役」に圧倒的多数で選ばれ。
「王子役」は、爽やかスポーツマンの吉岡に決まった。
そして俺、佐波峻は――なぜか「ラスボス・暗黒魔王」役。
「ふざけんなよ……」
黒マントに角付きカチューシャ、目元には謎の黒シャドウ。
ギャル軍団のメイクによって、俺は完全に“ネタキャラ”へと仕立て上げられていた。
「ねぇしゅー、似合ってんじゃん!」
舞台衣装に着替えた真が、ひらひらドレス姿で笑う。
金髪にカールをかけ、ティアラまで乗せられたその姿は……正直、めちゃくちゃ似合ってた。
「……っ」
思わず目を逸らす。
けど、当の本人は「かわい~」とふざけた調子だ。
「似合ってる……けどさ。王子役、吉岡だろ?」
「うん! でも安心しなよ、しゅー。あたしのリアル王子は、あんただけだし」
「……それ舞台中で言えよ。爆発するぞ」
「マジ? 爆発オチ狙う? ウケる!」
……お前、ギャル化してからノリがおかしいんだよ。
そして舞台本番。
客席は超満員。教師や父兄まで押しかけて、異様な熱気に包まれていた。
幕が上がると、姫役の真が登場する。
「キャハッ! 異世界に転生してきた金髪姫の登場だし~!」
……脚本どうなってんだコレ。
客席がドッと笑いに包まれる。
続いて王子役の吉岡が登場。
「姫! 俺が君を守る!」
真の手を取って見つめ合う。
会場から「きゃー!」という黄色い歓声。
「ちょ、ちょっと……!」
舞台袖からその様子を見ていた俺は、謎の嫉妬で胃がひっくり返りそうになった。
だが、クライマックスはここからだった。
魔王役の俺が登場し、王子と対峙するシーン。
「はーっはっは! 姫は我がものだ!」
……と台本通りに言った瞬間。
真がくるりと俺の方を向き、マイクを通して叫んだ。
「バッカじゃない!? 姫はあたしが選んだ王子としか結婚しないんだし~!」
会場「おぉ~~!!」
「な、なにぃ!?」
と俺はアドリブで応じる。
「では、その王子とは誰だ!?」
真はドレスの裾を翻し、ステージ中央で指を差した。
「もちろん……あたしの王子は、しゅーだけっしょ?」
……
……
……は!?
観客席が爆発したように沸き立つ。
「リアル告白きたーー!」
「マジで付き合ってんの!?」
「うおおおお!」
舞台は完全に大混乱。
王子役の吉岡がポカンと口を開け、オタク軍団は涙を流し、ギャル軍団は「超アガる~~!」と叫んでいた。
俺は真に手を引かれ、そのまま客席に向かって一礼させられた。
「はい、これで舞台もハッピーエンドだし!」
幕が下りる。
歓声と拍手の嵐。
俺の頭は真っ白だった。
「……おまっ……なんで最後に爆弾落とすんだよ!」
舞台袖で俺が叫ぶと、真はケラケラ笑いながらピースした。
「えへっ! 文化祭は盛り上がってナンボっしょ?」
俺は膝から崩れ落ちた。
……胃が、もう限界だ。
エピローグ その後の日常
文化祭が終わって数日後。
俺は放課後の教室で、机に突っ伏していた。
「……俺の胃は、もう文化祭で寿命縮んだ……」
クラスメイトたちはまだ舞台の話題で盛り上がっている。
「皆川姫、マジで似合ってたよな!」
「てかリアル告白は反則だろ!」
「峻、羨ましすぎ!」
そのたびに俺に飛んでくる視線。
… …もう勘弁してくれ。
そんな俺の背中を、後ろから「ぽん」と叩く手があった。
「おつかれ~、しゅー」
振り向くと、そこには制服姿の真。
金髪ウィッグは外しているが、メイクは薄めに残っていて、まだギャルっぽさが漂っていた。
「……お前なぁ、舞台で何ぶっちゃけてんだよ」
「ん? あたしの本心言っただけだし」
「……平然と……」
俺が赤面しながら呟くと、真はにやっと笑って机に腰かけた。
「でも、しゅーも悪い顔してたよ? “魔王役”めっちゃハマってたって、みんな言ってたし!」
「いや、あれはメイクとギャル軍団の悪ノリのせいだから!」
「ふふっ……でも、かっこよかったよ」
その一言に、不意を突かれたように息が止まる。
真は少しだけ頬を赤らめ、視線を逸らした。
「……ありがとな」
俺も照れ隠しに、窓の外を見た。
夕焼けが差し込む教室。
静かな時間が流れる。
真がぽつりと呟く。
「ねぇ、あたしさ……ギャルってのも案外アリかなって思った」
「は? お前が?」
「うん。みんなと騒いだり、ノリでやってみたり。なんか新しい自分って感じで、ちょっと楽しかったし」
そう言って笑う彼女は、もう“真面目な優等生”だけじゃなかった。
オタクに優しい金髪ギャル――そんな一面も、確かに彼女の中に根付いている。
「……でもさ」
真は椅子から降り、俺の前に立つ。
「しゅーの前では、普通の“真”でいたいんだよね」
そう言って、そっと俺の手を握った。
彼女の瞳は、ギャルっぽい軽さの奥にある“本音”を映していた。
「……バカ」
俺は苦笑しながら、その手を握り返す。
「お前はどんな真でも俺の彼女だよ」
「えへへ……」
真は嬉しそうに微笑み、窓から差し込む夕日に照らされて――その笑顔は、何より眩しかった。
こうして、俺たちの日常はまた騒がしく続いていく。
ギャルでも優等生でも、オタクに優しくても。
俺にとって皆川真は――ただ一人の、大切なヒロインなのだから。
今回は意外と描写が多くて案外面白かったですね。
もう少し何故ギャルになったのかを深掘りしたらもっと面白くなりそうです。
AIくんやるな。




