第三十九話 悪霊
数千年前
「兄貴!みてみて、お父様の真似!」
「あっははは!似てる!」
………俺らは仲が良かった。
兄貴も、今と全く性格が違う。
なんで変わっちまったんだよ、兄貴…
そうだ、すべてあの日のせいだ…
冥界大戦…、…。
兄貴を冥界から突き放した、最悪な戦争…。
戦争が始まり、霊が皆絶望している中、兄貴は淡々とこう言った。
「人間になろう…。」
………聞き間違いじゃなかった。はっきりと言っていた。
「いや兄貴、それわかって言ってんのか?!死ぬってことだぜ…?」
「死にはしない。人間になるんだ。分からないのか?」
「おいおいおい、兄貴壊れちまったよ……やめろ、絶対やっちゃ駄目だぞ???」
兄貴がイカれた。まだ名もついていないというのに…。
「お母様、お父様、!兄貴が!」
「あの子……何やってるの、」
「あぁ…だめだ……失敗作だ…、…」
「あの子は神でも人間でも無いのよ…」
「………あいつは「無神無人」。そう名付ける。雷風の名は、弟であるお前に与える。」
「雷風…!俺が…!」
「あぁ。どんな手を使ってでも、無神無人を取り戻せ。必ずだ。」
「わかりました…!」
(その後)
………兄貴が………人間界に…?
なんで…?何をするために人間界に降りたんだ、?!
そもそもどうやって、悪霊にしか降りれないはず………
無神無人は、善良な霊である。
しかしそれは、人間に対してのみである。
無神無人は、家族を捨てて現世に降りた。
そして人間に、同胞である霊の「殺し方」を教えている。
霊からすると立派な悪霊である。
兄貴………なんてことを………
神は現世に降りることができない。
雷風の両親である風神雷神はもちろん神であるため、無神無人を連れ戻すことはできない。
であれば……、
「俺が…行くしかないのかよ…」
無神無人は、冥界最悪の悪霊である。
「霊」という種族を唯一裏切った霊。
霊と人間が唯一入り混じった存在。
生命はあるのか、血は流れているのか。
無神無人のすべては、人間側も霊側も謎に満ち溢れている。
霊が嫌いな霊。
霊の殺し方を教える霊。
悪霊。れっきとした悪霊。
(現在)
「、…なあ、兄貴」
「なんだ」
「俺は兄貴がいなきゃやっぱ駄目だ。」
「…そうか。」
「頼む、戻ってきてくれよ…」
「それは無理な願いだ。」
「そう言わずにさぁ…!!」
「帰ったところで誰も何も思わん。」
「兄貴………」
「お前も、ただ命令されてそれを言ってるだけだろう?」
「兄貴…!」
「私は人間だ。もう懲りろ。」
「兄貴ぃぃ!!!!!」
「うるさいわ!!!」
見てられない………あまりにも見てられなすぎる…、
「もういいや。兄貴、死ね。腹立った。」
「死なない。」
「「避雷針!!」」
すると、大量の針が上から降り注ぐ。
そして雷風の合図で
ドゴォォォォォォオオオオオォォン………
バカみたいにでかい爆発音が鳴った。
〜湯守座班〜
「なんだ…?!雷風の攻撃か…?」
湯守座先生が言う。
〜川原班〜
「うぇっっ、!?びっくりびっくり…あれ、もしかしてもう戦ってる???」
川原先生が言う。
ぐっ……、やばい、体がっ、…麻痺して………
「加蔵!完全治癒だ!!」
無神無人先生が叫ぶ
完全治癒、自分の霊媒力も治す技……これなら……
「「完全……、治癒っっ」…!!!」
………直った…!麻痺も消せる…!
「はぁ…?チートじゃん………」
「これが私の生徒の力だ。」
「まぁ兄貴には到底敵わんな、コイツラは!」
「お前にはわかるまい。」
「「誘嵐……!」」
天気が悪くなる………いや、雷風を中心に、竜巻のようなものができている…??
「兄貴は史上最悪の悪霊だ!!!お前は、人間界にいてはいけない!!!」
「現世に降りられておる時点でお前も悪霊だ。定義を勘違いするな。」
悪霊
他者を傷つける術を持つ霊。
良霊
他者を傷つける術がない霊。
能力を持っていれば、それは悪霊になる。
治癒能力が長年人間界に現れなかったのは、「治癒」そのものが他者を傷つける行為ではなかったゆえに、悪霊として換算されなかったためだ。人間に憑依することも、付着することも、魂に介入することもできない。しかし…。
加蔵の治癒は、「他者を傷つける」。
「加蔵、「暗」を解く。」
「はい!」
「雨、風、大、展開、「大嵐」!!」
「「血壊…!!」」
「「「混合霊媒術、「大血嵐」!!!」」」
かねてより加蔵と無神無人先生が訓練をしていた霊媒術、「混合霊媒術」。
この霊媒術は、相性の合う術同士でないとうまく発動しない。
血壊と大嵐の相性が良かったのだ。
霊力に血管を作り、それを破壊する血壊
霊力で巨大な嵐を作る大嵐
巨大な嵐が、血によって爆発しながら大回転する。
この技を発動するための合図が、「暗を解く」だった。
雷を纏う竜巻と、破裂しながら廻る竜巻…
2つの巨大な竜巻がぶつかり合う。
「兄貴ィィィィイイイイ!!!!!」
「雷風ゥゥゥゥウウウウ!!!!!」
悪霊同士の壮絶な戦い。
雷風に通る攻撃は、無神無人先生のもののみ。外にいる霊媒師たちは、何もできずただ呆然とその光景を見ている。
「「「ぬぉぉぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」
2人が同時に叫ぶ。
その叫び声は、京都全体を埋め尽くした。
兄弟喧嘩の幕は、いまだ上がりきっていない。




