第百三十八章 マリ、佳子の引越しをする
修が、「姉ちゃん、入院で体力も落ちていると思うので、退院後、引っ越しをするのは体力的にきつくないか?退院すれば、直ぐに母ちゃんの所へ行けるように、姉ちゃんが入院している間に、僕と博兄ちゃんとで、引っ越しをしておこうか?」と提案しました。
佳子は、「勝手に人の物を触らないでよ!」と弟でも男性には見せたくない物もあるわよ。鈍感なんだからと怒っていました。
修が、「僕は、姉ちゃんの事を色々と考えて提案しているのに、怒らなくても良いじゃないか。僕は姉ちゃんと、そのマンションに住んでいた事がある為に、何がどこにあるのかなど勝手は解っているから大丈夫だよ。安心して大船に乗ったつもりで、任せて!」と佳子が何故怒っているのか理解に苦しみました。
佳子は、「何が大船よ!大船は大船でも、船底に大きな穴が空いている、沈没寸前の大船の間違いじゃないの?私が言っているのはそういう事ではなくて、あなた達は鈍感なのだから!男性が女性の下着や生理用品等を、と言えば解るでしょう!」と二人とも鈍感なんだからと思っていました。
修は、「沈没寸前の大船はないだろう。僕は、姉ちゃんが少しでも楽になるようにしているのだから。だいたい姉弟で、男も女もないよ。そんなに嫌だったら、陽子に来て貰おうか?」と提案しました。
佳子は、「何で、やくざの幹部を連れて来るのよ。そんなにいうのだったら、私の部屋に来た事のある友達に頼むから、勝手な事をしないで!」と修を止めました。
博が、「姉ちゃん、動けないのにどうやって連絡するの?僕達は姉ちゃんの友達を知らないので連絡できないよ。陽子さんは主治医なので、病室に来る事もあるだろう。修の言うように、陽子さんに頼んだら?ここまで来て、そんな大怪我までして、まだ懲りないのか?いつ迄意地を張っているのだ?」と素直に陽子に頼むように説得しました。
佳子が、「先程も来ていましたよ。私の友達は、お父様がこの病院の脳外科に入院されているので、会社の帰りにいつも病院に見舞いに来ています。その帰りに寄ってくれます。私から話をしてみます。」と自分の事は自分でするから余計な事はしないように忠告しました。
博が、「そんなに毎日来ないのじゃないの?この病院は完全看護だし。」と確認しました。
佳子は、「脳外科と言ったでしょう。植物状態らしいのよ。医師から、毎日話掛けるように助言されているらしく、その日の出来事などをお父様にいつも報告しているらしいわよ。」と説明しました。
修と博は、「それじゃ僕達も挨拶しておきたいので、明日来るよ。その人はOLだったよね?だいたい病院に来る時間は解るので、その頃に来るよ。」と佳子の引っ越しの件を修達からも頼んでおこうとしました。
翌日、時間を見計らい修と博が佳子の見舞いに来ましたが、佳子の友達は帰ったあとでした。
佳子は、「平日は面会時間の関係上、少ししか時間が取れない為に今週の週末に一度お見舞いに来るらしいです。」と伝えました。
霧島外科医とマリは、佳子の入院が切っ掛けとなり、付き合い始めていました。霧島外科医は大日本医療大学医学部第二外科の助教授でしたので、マリが入院中の父を見舞ってから、外科病棟に来る口実に、親友の佳子を見舞い、喫茶店で話をしたり、食事をしたりという付合いをしていました。
週末、修は病院でマリに合い驚き、今迄の経緯を聞きました。
修は、「そうか、姉ちゃんがあの一件以来マリさんと親友として、付き合っていただなんて知らなかったよ。今日は銃を持っていないだろうね。」などと、最初に会った頃の話をしていました。
相談の上、引越しはマリの協力で行い、マンションの部屋を解約しました。引っ越しは、マリが佳子の荷物をまとめましたが、マリは、拳銃所持の件で佳子に逮捕されたので、それが上官の耳に入り大目玉を食らったと思いながらまとめたので、ぐちゃぐちゃになってしまいました。
引越し終了後マリは修に、「佳子から色々と聞いています。あなたも二人の間に入って大変ね。でもエスベック病患者を助けた世界一の名医がやくざの幹部だなんてとても信じられないわ。私も病院で話をした事がありますが、とてもやくざの幹部には見えなかったわよ。誰もそんな事は思わないでしょうから結婚しても問題ないわよ。先の事は誰にも解らないわよ。佳子みたいな事を言っていると何もできないわよ。何もせずに後悔するより、やるだけやれば、どんな結果でも諦めもつくわよ。陽子さんがやくざの組長になったり、怪物だったりしても、その時はその時よ。その時に考えれば良いと思うけれども、私がこんな事を言っただなんて佳子には黙っていてね。どうせ佳子の事だから、“その場限りの無責任な事を言うな!“とか”将来の事を真剣に考えろ!“とか言うに決まっているのだから。」と助言しました。
修は、「了解しました。鬼教官殿。指示に従います。」と敬礼しました。
マリは、「ちょっと辞めてよ。」と恥ずかしそうでした。
修は、「兵士は、戦場で判断を誤ると、自分の命だけではなく、相棒の命も危険に晒す命懸けの仕事だと思います。その兵士の教官の助言は心強いです。敬礼したのは、そういう気持ちだという表現で、決してふざけていません。」と返答しました。
マリは、「有難う。でも陽子さんが組長になったり、怪物だったりした時には、判断を誤らないでね。」と忠告しました。
修は、「その時は、どのように判断すれば良いのでしょうか?鬼教官殿。」と聞きました。
マリは、「その鬼教官は止めてよ。その時は、周りがどのような状況になっているのか解らない為に、今は返答できませんが、一つの事だけに拘らず、視野を広くして周りを良く見て、総合的に判断するのよ。それでも判断に苦しめば、こうすればどうなるだろうかと頭の中でシュミレーションしてみれば良いのよ。アインシュタイン博士の思考実験のようにね。」と助言しました。
修は、「アインシュタイン博士の思考実験とは何ですか?」と聞きました。
マリは、「アインシュタイン博士は、光が重力で曲がる事など色んな事を発見していますが、その当時、そんな実験室はないでしょう?頭の中に実験室を作り、実験して、光が曲がる事を発見したのよ。修さんも、色々と実験してみればどうですか?例えば、結婚して新婚生活を送っている自分達の事を考える事は誰でもすると思いますが、周りの人はそれをどう受け止めるのか。その結果、周りの人はどうのように動くのか。などをね。修さんが陽子さんと結婚すればどうなるのか頭の中で実験してみればどうですか?ここで大切な事は、自分達だけでは生きていけないという事です。周りの人の行動が大事ですよ。」と助言しました。
修は、「解りました。貴重な助言有難う御座いました。今後何かあれば相談してもよろしいでしょうか?」と陽子との結婚に反対している佳子よりマリを頼りにしていました。
マリは、「私で、お役に立てるのでしたら、いつでも良いわよ。」と返答して帰って行きました。
その後、修と博は母から、「この住宅街には、古宅内科医が住んでいて、その女房が、この住宅街の自治会をまとめているので、挨拶しておいた方が良い。」と助言され、早速母と挨拶に行きました。
古宅夫人は、「あなたも、もう年なので、娘さんが同居してくれて良かったですね。」と安心していました。
佳子の母は、「いえいえ、反対ですよ。仕事やプライベートで色々とあり、悩んでいて、怪我をした日もぼんやりしていて重症です。医師の説明では、病院に行くのがあと一時間遅かったら助からなかったかもしれないそうです。キャリアウーマンで結婚もしてないので、一人にしておくのは心配で私が娘の面倒を見る事になりました。」と説明しました。
古宅夫人は、「それは大変ですね。しかし私からすれは、理由はどうあれ、その年で、実の娘と同居できるのは、羨ましいですね。キャリアウーマンで結婚もしていないのは少し心配ですけれども、その年で娘の心配ができるというのは幸せですね。」と雑談していました。
佳子の母は、「佳子は、昔から気が強く、お転婆で心配ばかりさせられましたが、まさかこの年になっても、まだ娘の心配をさせられるとは思いませんでした。確か、古宅さんは、元看護師でしたね?退院後リハビリの事など、何かあれば相談に乗って下さいね。また佳子が退院して、この住宅へ越して来た時には、手土産の一つも持たせて、挨拶に来させますので宜しくお願いします。これ詰まらない物ですが、自治会の時にでも皆さんでどうぞ。」とお菓子を渡して、帰って来ました。
帰り道、修は不思議そうに、「手土産は、姉ちゃんが越して来た時に持って行くのですよね。何故今日も渡すのですか?」と不思議そうでした。
母は、「あの人は何かと五月蝿い人ですので。」と返答しました。
それを聞いた博は、「要するに、がめついだけだね。」と笑っていました。
母は、「あの人に聞こえたら五月蝿いので、滅多な事は言わないでよ。」と忠告しました。
博は、派遣会社に事情を説明して退職し、母の会社の正社員になりました。派遣会社からは、「何故、博を指名したのか、高額チャージなのか、理解できました。しかし博、玉の輿じゃなかった、逆玉だな。大富豪の御曹司とは、羨ましいな。今後、うちの社員の派遣も色々と頼むよ。お前とは長い付き合いになりそうだな。しかし送別会は私達に払わせてくれよ。その後は、大富豪におごって貰いたいな。」と言われました。
次回投稿予定日は、10月24日です。




