5月23日(月)放課後 1
5月23日 月曜日 放課後1
リレーの練習もこれで3回目だ。
ナギに、自分の噂がどれだけ広がっているかを実感させることになった。
ギャラリーの数が増えている。明らかにナギ目当ての野次馬達だった。
2年生とおぼしき子たちもあちこちに固まって見に来ていた。
新聞クラブの歩川さんの姿も見える。
手にはカメラを持っている。
皆一応気をつかって校庭の隅の桜の並木の辺りに固まってはいたが、どう考えても無視できない人数があつまっていた。
校庭が夕日の陰に入りすっと暗くなった。
練習開始の時間だ。
しかし、異様な雰囲気に、他のリレーの選手達は落ち着かない様子だ。
聞こえよがしに、やっかみとも嫌みともつかないようなことをいう。
「誰かさんのお陰で練習に集中できないよ」
「実力も無いくせにちやほやされちゃって。ちょっといい気になりすぎているんじゃない?」
ナギと他の選手達の間に流れる空気がいよいよ悪くなっている。
しかし、大柄のナギは普通に立っていても頭1つみんなから飛び出てしまう。
だからどこにも身を隠すことは出来ない。
「よし次! バトン練習はじめるぞ!!」
チョーカイの号令がかかり、大勢の視線が見守る中バトン練習が始まった。
第1走者、第2走者、そしてナギの番が迫ってきた。
ナギは昨日読んだ『イメージトレーニング理論と実践』を大急ぎで頭のなかに思い起こそうとしたが、焦っているせいか全く思い出せない。
そうしている間にも、前走の酒匂さんが第3コーナーを回った後、ラストスパートをかけて走ってくる。
緊張の中、ナギは、酒匂さんの歩幅を、ハイテンポなリズムを、スピードを、そして手に握った青いバトンを感じるように目を凝らす。
そして、酒匂さんがゾーンに入ると同時に、ナギも走り始める。
酒匂さんの走りを感じた通りに。1歩、2歩、3歩。
彼女の手の高さに合わせた右手をめいっぱい開く。
パシン!
バトンが手の中で鳴った、……と同時にナギは素早くバトンを持ち替えて握りしめ、酒匂さんのエネルギーを引き継いで猛スピードでダッシュする。
耳のそばで5月の風がごうごうと鳴る。
ナギの足はどんどん加速して、コーナーを曲がるとき、少し前にスタートした白組の選手を抜いてしまった。
一瞬、このままどこまでも走ってゆけるんじゃないかと思った瞬間、もう限界が来た。
(つづく)




