5月20日(金)放課後1
5月20日金曜日 放課後1
放課後、クラスには生徒があふれかえっていた。
まず応援団員の阿部さんと三津谷さんがナギのところにやってきた。
あっという間にナギを中心にした人だかりができる。今度はクラスのほとんど全員が集まっていた。
応援団を引き受けるかどうかの返事を引っ張ってしまったことや、新聞クラブの壁新聞、バトンパス練習のギャラリーのことが、全てを穏便に済ませたいナギの気持ちとは間逆の事態を引き起こしていた。
噂が噂を呼んで、クラスのほとんど全員の注目の的となってしまったらしい。
人垣の中には、普段は「体育祭なんて…」と距離を置いている文化系クラブの顔ぶれさえ見受けられた。
(結局、断れないのは変わらないのよね。)
ナギは1週間前の気持ちで小さくため息をつく。
たったの1週間で世界が決定的に変わってしまうことなんてそうそう無いのだ。
しかし、この7日間に起きた出来事は、ナギの気持ちの方を決定的に変えてしまっていた。
先週の金曜日と違い、今のナギにとってしなければならないことがある。
そしてそれを達成するにはこの道、つまり応援団長を引き受けることは、避けて通ることが出来ないのだ。
しかしもう腹は決まっていた。「恥ずかしい」という感情は、大事の前の小事、とりあえず脇にのけてゆこう。
ナギは心の中で大きくうなずいた。
「私、応援団、引き受けるよ。」
ナギは誰にうながされたわけでもなく、静かに話し始めた。
ナギの言葉に「わっ!」「やった!」と盛り上がりかけたみんなを制して、話を続ける。
「やると決めたから出来る限りのことはするよ。もちろん本気で。
……でもね、1つ条件、というか、みんなに頼みたいことがあるの。」
ナギはちらりとアミをみる。アミは茶目っ気たっぷりのウインクで返す。
ナギはこわばった顔で、ゆっくりと右手を顔の前に持ってきて親指と人差し指をこすり合わせる仕草をする。
入学してからこの仕草をするのは初めてのことなのでどうしてもぎこちなくなってしまう。
震える右手を左手で支えるようにして、ナギは静かにいった。
「応援団を引き受けることと引き換えに、−−それに見合った『報酬』を私も要求するわ。」
(つづく)




