4月20日(金)朝(回想1)
4月20日 金曜日 朝(回想1)
『……そして、そのイメージは出来る限り具体的に、実際に目で見てみるように思い描いてみるのが良いでしょう。』
……昨晩、ナギは晩ご飯の後、自分の部屋で机に向かっていた。
手元には、先日図書館で借りた『イメージトレーニング理論と実践』。
しかし実際には本をぼんやりと眺めるだけで、心は何時しかあちらこちらをさまよっていた。
頭の中に小さな破片が散らばり、まとまりのないままぐるぐると渦巻いている。
ナギは深いため息をつくと立ち上ると、そのままふらりとベッドに倒れ込み、天井を見た。
正確には、両手を天井に向けてしげしげと眺めていた。
(やっぱり大きさが変わっている……ような気がする。)
しかしそれはまた、いつも見慣れた自分の手だった。
3時間ほど前、5月の夕暮れの光の中でアミの大演説を聞きながら、ナギは不思議な感覚を味わっていた。
今まで、大柄で不細工で役立たずなのに、場所ばかり取っていると思っていた自分。
それが、どんどん縮んでゆく感覚。
縮んで縮んで、ナギは自分本来の大きさに収まったような気がしたのだ。
人と比べて大柄な自分ではない、あるがままの大きさの自分に。
ナギは目を閉じて自分の手を感じてみた。この手は大きくも小さくもない。
そしてその手は他ならぬ自分の体や心ともつながっている。
(私、確かに何も見えていない。
というよりも、そもそも見ていなかったんだ。)
アミのことも、ぶっ飛んだ推理ばかりに気を取られて、肝心な彼女の心の内が見えていなかった。
ナギははっとした。だから、バトンも落ちたのだ。
(そういえば、私がバトンを渡す相手の山本さんは3年生。
この運動会が、引退試合ってことになるのかぁ。
酒匂さんは彼女のこと、『陸上部のエース』っていっていたっけ……。)
そしてたぶん、「三瓶さん」のことも同じなのだろう。
アミに手伝ってもらっていろいろ調べ回って、深まるのは謎ばかり。
それはつまるところ、相手のことを一生懸命目をこらして見ているつもりでいて、その実、まったくピントが合っていなかったのと同じこと。
だから、全てのことはちょっと見方を変えれば全然違う風に見えてくるはず。
ナギはベッドから起き上がって、勉強机の上に置いてある本を取り出した。
(つづく)




