5月19日(木)放課後6
5月19日(木)放課後6
ナギは演劇クラブの部員達のいうなりに仁王立ちになり、独り合点していると、アミがいった。
「やっぱりこのくらい身長が必要だよね〜。なにしろおっさんのお化けだもんね!」
「え……?」
アミはナギを無邪気に見上げる。
「演劇クラブね、秋の文化祭で『ハムレット』を上演するんだって。
ハムレットって『亡霊』の役があるじゃない。」
「あ、脚本は変えて、台詞のない役にしたから!
衣装を着て舞台の上で立っているだけでいいの。
ね、新開さん、出てくれるんだよね?」
大きな声で勢い良く話しかけてくる。
「……えっ、ちょっと待って! 『おっさん』だなんて!
あのハムレットの殺されたお父さんって王様でしょう? なんてことをいうの!
……いや、んなことより、王様の亡霊役なんて、急にそんなことをいわれても!
……ううん、そんなことよりも、もっと大切なこと、忘れてた!
あの、私、人を探しているのよ。
3年生の、名前は『三瓶さん』っていうの。」
「ええっ、人探し? 何のこと?
新開さんは『ハムレット』の助っ人になってくれるんでしょ?
ねぇ、和戸さん?」
「私の方こそ訳が分からないわ。私が舞台に立つ?
……アミこれは一体どういうこと?」
双方から責められて、アミは慌てた顔で両手をワイパーのようにぶんぶん振った。
「まあまあ、2人とも、ちょっと落ち着いて!
2人の言い分ももっとも至極!
この件については改めて話し合おうよ……ね!
そしてアミは、睨みつけているナギに背を向けると栗田さんの前に手を差し出した。
さっき文芸クラブでしたのと同じように、親指と人差し指をこすり合わせる。
「……それよりも栗田さん、約束のあれは?
本人に意思はともあれ、ナギ……新開さんを連れてきたんだから。
ほら、例のアレ……報酬。」
「あ、そうだった! ちょっと待って!」
栗田さんは体育館の隅まで走ってゆく。
戻ってきた時には、大きな紙袋を抱えていた。
「はい。約束の品でござい〜!
プレミアがついていて、手に入れるの大変だったんだからね。
ありがたく受け取るように!」
紙袋から出てきたのは、巨大なぬいぐるみ。
片手で抱えきれないくらいの大きさだ。
そしてまたしてもパンダ。
しかもなぜかウエディングドレスを着ている。
「ははぁ、ありがたき幸せ……。うわぁ、かわいい〜!」
大げさな仕草でアミに渡すとアミも調子に乗って答える。
「アミ、なにその……ぬいぐるみ?」
ナギは思わず疑問を口にする。しかしアミは全く意に介さず栗田さんに向かって、
「じゃあ、取引は成立したし、今回はとりあえずの顔合わせってことで……。
続きの話はまた今度! 栗田さん、またねっ!」
てきぱきとした仕草でぬいぐるみを袋をしまい、小脇に抱える。
そして、またしても強引にナギの手をつかんで、半ば引きずるように体育館を後にしたのだった。
(つづく)




