5月16日(月)放課後3
5月16日月曜日 放課後3
するとチョーカイはナギと山本さん、そして酒匂さんを呼び出し、他の生徒には休憩をいい渡した。
3人で並んでチョーカイの前に立つ。大柄なナギがダントツで背が高い。
つまりナギは、実力や心の中の緊張とは裏腹に常に2人を見下ろすような格好になってしまった。
毎度のことながら長身のナギにとっては実に落ち着かない気持ちにさせられてしまう。
しかしチョーカイはそんなことなど全く意に介さず、青いバトンを手に取った。
そして、唐突にバトンパスのレクチャーを始めた。
「リレーでバトンを受け渡しをする方法は、大きく分けて2種類ある。
オーバーハンドパスとアンダーハンドパスだ。最近のトレンドは何といってもオーバーハンドパスだ。
大半の選手達もこの方法でバトンパスをしている。
たしかにバトンの長さの分だけ距離が稼ぐことができる。
ただ、この方法は難易度が高く、双方の歩幅や呼吸、何よりも息が合っていないとバトンを落とすリスクが発生する。」
こんな初歩的なレクチャー、酒匂さんも山本さんはとうに知っているはずだ。
これは間違いなくナギへのレクチャーだ。
つきあわされている山本さんたちの心中を思うと、ナギはますます縮こまるような思いだった。
「見たところ、新開はどうもバトンパスが苦手なようだ。
山本、酒匂。新開とのパスは『アンダーハンド』でするように。」
チョーカイの発言を受けて山本さんが声を上げた。
「先生、私は反対です。それじゃ他の組に勝てません。
この……2年生がヘタなのがいけないのに…なんで私まで!」
「バトンを落とすよりはマシだろう。
まず、酒匂と新開! 『ゾーン』に並べ。実際にやってみろ。」
先生は2人をバトンゾーンに立たせ、青いバトンをまず酒匂さんに握らせた。
そして前に立つナギには半身を後ろに向けながら右手を大きく開くように指示。
チョーカイはナギの手を取って実際にアンダーハンドパスを繰り返し練習させた。
しかもパスをする時の腕の伸ばし方や角度にいたるまで何度も調整する。
これはナギと酒匂さんに身長差があるために通常の角度ではバトンがかしいだ感じになってしまうためだった。
つづいて山本さんとナギとでバトンパスの練習に入った。
今度はナギが渡す側、山本さんは受け取る側だ。
山本さんは終始不服そうだったが、チョーカイは他ならぬ陸上クラブ顧問ということもあり、渋々とだが指示に従っていた。
チョーカイの長い指導を受けながら、ナギは思わずうつむく。
何もかも放り出して逃げたかった。
しかし、うつむいた視線の先には、やっぱり蝶結びで両足をきゅっと締め付けるぴかぴかの靴があった。
最後にチョーカイはいった。
「あと、ゾーン内でバトンパスを終えること。
テイクオーバーは失格になるから気をつけろ。
新開はどうもパスの直前に躊躇してしまうところがあるようだな。
バトンパスは思い切りも大事だ。イメージトレーニングが効くぞ。」
「イメージトレーニングって何ですか? わたし分かりません。……し、素人だし。」
さぞかし反抗的に聞こえているだろう。
でもかまうものか。
しかし、ナギの稚い反抗心は先生の断定的な一言であっさりとはねつけられてしまった。
「それ位自分で調べろ。新開は図書委員だろう。
以前牛尾先生にイメージトレーニングの本をリクエストしたことがあるから、図書館にあるはずだ。」
(つづく)




