5月12日(木)昼休み3
5月12日木曜日 昼休み3
しかし、ナギの内心の叫びとは裏腹に、ナギの頭越しにアミと矢沢さんの間で勝手に話が進んでゆく。
ナギはどうにかして話に加わろう、もとい、これ以上自分を取り引きの「ネタ」にされるのを阻止しようと隙きをうかがってみた。
しかし全く2人のやり取り間に割り込めない。
実は、ナギは、学校に入って2年目になるのだが、実際に目の前で「取り引き」をしている所を見るのは初めてだった。
だから、アミと矢沢さんの手慣れた様子を見てただただ驚くしかなかったのだ。
そして何も出来ないうちにどんどん話は進み、取り引きは成立してしまった。
結局、矢沢さんの差し出してきたメモ帳に自分の生年月日を書き込まざるを得なくなってしまった。
矢沢さんのいう「アレ」とは、マリジョ特有の「伝統」であり暗黙のルールのことだ。
なにか頼みことをするときは、必ずそれに見合った「報酬」を支払うこと。
この場合の報酬は必ず「物々交換」とし、お金の授受はしないこと。これがマリジョにおける「経済」なのだ。
取り引きに使える物は、例えばこんな感じだ。
……例えばストラップとか、プレミアムグッズや雑誌の付録、アイドルのポスターとか、あこがれの先輩にまつわる情報……
相手にとって「価値」があれば、文字通りなんでも、交換の対象となる。
そして、取り引きが成立する条件はただ1つ、あらかじめ双方が「合意」をしている事。
もちろん学校へは基本的に私物の持ち込みは禁止であり、おおっぴらにするようなヘマは誰もしない。
しかし先生側も心得たもので、マリジョの「悪しき」伝統として半ば黙認している様子だ。
「生徒が金銭がらみの問題を起こすよりもまだまし」と考えているのかも知れない。
矢沢さんが要求した「報酬」がナギの「生年月日」つまり「情報」なのは、そういう訳だったのだ。
……と、昼休み終了の予鈴がせわしなく鳴り響く。
「じゃ、明日の放課後にね!」
「……ア、アミ、待って。」
ナギは言いたい事を何もいえないまま、教室に戻るアミの後を追うようにしてパソコンルームを後にした。
(つづく)




