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異世界対策室 ~異世界ゲートが開いたので、まず法律を作ります~  作者: 大崎 忍


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第9話 村の外

 それから数日、ニルと主にコミュニケーションをとって単語を拾う日々が続いた。変化といえば羊飼いの他に牛飼いとも顔見知りになったことくらいだった。


 事態が動いたのは4日目だった。一部の畑で麦刈が終わったのだ。渡辺たちは、村のまわりをちょろちょろしている他所者がいると話題になっていたのだろう、手が空いた中年の女たちに囲まれた。


 滝口はこれ幸いとニルから聞き出した単語を改めてチェックし、パントマイムの要領で動きの単語も調査した。


 「語順は基本的に主語、動詞、目的語みたいですね。それから、目的語らしい語に同じ語尾が付いてます」


 と滝口は言った。女たちのおかげで「少年が水を飲む」「私が牛を触る」といった簡単な文章を作れるようになった。


 さらに滝口は紙に書かれたイラストを見せて、指差しではわからない名詞や動作、あるいは「それはなに?」といった疑問系の文章を明らかにして行った。


 そのうち、女たちは村の中を案内してくれるようになった。村では脱穀作業が始まっており、一部は広場にある倉庫に運び込まれているようだった。


 調査が進むのと並行して拠点の住環境も改善されて行った。3日目に冷蔵庫が届き、久しぶりに渡辺は生鮮野菜を口にした。野菜炒めのピーマンが信じられないくらい美味く感じられた。


 さらに、1日中集落にいるには絶対に必要だと主張した結果、集落の近隣に仮設トイレが設置されることになった。これでかなり調査が楽になった。トイレや食事のたびにいちいち拠点に戻らなくてすむようになったからだ。


 1週間後には、水質・微生物調査の結果を受け、浄化装置を通すことを条件に、水も現地調達に切り替わった。


 加えて光ファイバーが白金と拠点の間に敷設された。その光ファイバーは集落のすぐ近くまで延伸され、渡辺たちは集落にいながら日本とオンラインで会話ができるようになった。


「牛なうです」


 と渡辺が大沼に牛の尻の写真を送ると


「暇か」


と言われた。


 そのころには語彙もかなり増え、接触班は簡単な会話ならできるようになっていた。だいぶ村人とも打ち解けてきて、ニル以外の子供が寄ってきたり、暇そうな高齢者が何か話しかけたりしてきた。渡辺も調査した文章はすべて暗記していたので、挨拶を交わしたり、ボールを投げて遊んだりするようになった。


 斎藤はボールを取り出した渡辺の行動を黙認していた。斎藤自身も子供と高齢者にとても好かれた。世話を焼きたがる高齢の女がなにかと話しかけて来て、そのたび滝口が意味を確認していた。


 ある日、ニルが渡辺にパンとチーズをくれた。ありがとう、という単語はわかっていたのでお礼を言うが、食べられないのでそっと隠して、試料として日本に送った。それ以外にも、日本側からの試料の要求は多岐に渡り、渡辺は家畜の糞や毛、落穂まで拾って帰るようになった。


 試料やゴミは、専用のテントに保管しているといつの間にかなくなって、日本から送られてきた食料や新品の試料ケースが並んでいる。当然補給班が回収しているのだが、まるで妖精さんのようだった。


◇


 滞在して10日目、街道から2人の男が馬に乗ってやってきた。2人とも村人よりも身なりの良い服装をしていた。村長(仮)が2人を迎え、そのまま一緒に広場の倉庫へ入っていった。そこで何やら会話をしながら帳面に記入して去って行った。この世界で文字を書いている人間を見たのは初めてだった。


 「あれは誰か?」


と滝口が村長(仮)に尋ねた。村長(仮)は何か答えた。これまでに聞いたことのない単語だった。


「収穫量を確認しているように見えました。行政機構でしょうか?」


 斎藤は言った。


「可能性はあります」


「それであれば、外交関係を結べる相手に繋がれるかもしれません。次に来たときにアプローチできるように準備しましょう」


 集落の上位に何らかの権限を有する組織が存在する可能性が高いことは、日本側にも報告された。日本からは


「当該人物の所属及び権限を確認し、可能であれば上位の権限者との接触経路を確保すること。また、物品交換に対する意向を確認すること」


という指示が来た。要するに「偉い人を探して交易できるか聞いてこい」ということだった。


「官邸が早く交易をしろ、資源はないのかとうるさい」


 大沼が渡辺に対し、非公式にチャットで伝えて来た。


「いま観察してる範囲だと羊毛、チーズ、麦くらいしか交易品なさそうですけどね」


「こっちも担当者レベルはそんなもんだと思ってるよ。ただ将来的には交易品が広がる可能性もある」


 馬に乗った2人組が次に来たのは4日後のことだった。今度は荷馬車も一緒だった。この頃には村長(仮)は集落の代表者だということが確信できるようになっていて、接触組の中では彼を村長と呼ぶようになっていた。


 村長は、2人を迎えると村人を使って麦袋を荷馬車に積み込んだ。2人組のうちの1人は、皮表紙の帳面に何かを書いていた。


「麦を回収している。租税または小作料の徴収の可能性が高いと思う」


 と斎藤は接触班に言った。


 2人組と村長が話しているところに割って入るように斎藤が話しかけた。


「私たち、ものを交換したい。あなたの偉い人、会いたい」


 斎藤は話しかけつつ、日本から送られてきた商品の一部を見せた。相変わらずの木綿の布、包丁、ガラスのコップ、陶器の皿ーー。あのコップと皿、無印良品じゃないか? と渡辺は思った。


 2人組は顔を見合わせて、村長に


「こいつらは何だ?」


と尋ねた。


「最近この集落に来ているよそものです。何者かは私も知らない」


 といった趣旨のことを村長は言った。


「私たち、あなたたちと仲良くしたい。ものを交換したい」


 と斎藤は繰り返し言った。


「どこから来た?」


 2人組のうち年長の方が訊いた。


「あっち」


 斎藤は、拠点の方を指した。これに対して何か返答されたが、何を言っているのかはよくわからなかった。

 

「何人いる?」


「6」


「何が欲しい?」


「何がある?見たい。これ、交換できるもの」


 斎藤はもう一度商品を見せた。2人組のうち年長の方は少し考えたのち結論を出した。


「いいだろう、ついて来い」


 と言った、と接触班は理解した。


「待って、お願い」

 

 斎藤はそう言うと、日本側に連絡を入れた。


「集落の上位組織の一員と思われる2人組と再度接触。交易を申し出た結果、付いて来るようにと言われたので、集落を出て彼らの本拠地に向かう。同行の許可を求めたい」


 10分ほどして、同行の許可が下りた。


 渡辺たちはとうとう、初めの村から旅立つことになった。


読んでいただき、ありがとうございます!

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