第7話 出発
渡辺が出発する前日、大手紙が以下のように報じた。
「東京都港区の地下で確認された異常空間について、政府関係者への取材で、地球上とは異なる環境につながっている可能性が高いことが分かった」
報道を受けて、官房長官は会見で異常空間の存在とこれまでの調査内容を正式に公表した。
「東京都内で確認されております異常空間について、政府としてこれまで各種の調査を実施してまいりました。その結果、接続先には広大な草原等の自然環境が広がっており、現在、その詳細について調査を進めております。
また、調査の過程で、人間と極めて類似した外見を有する住民が生活する集落についても確認をしております。
現時点までの調査において、これらの住民から我が国に対する敵対的な行動は確認されておりません。
政府としては、接続先の状況をさらに詳細に把握する必要があると考えておりまして、今後、政府職員及び外部の専門家等からなる調査班を派遣し、現地住民との接触を含めた調査を実施する予定であります。
なお、接続部の詳細な位置、施設の内部構造、警備態勢などにつきましては、安全確保上の観点から、公表は差し控えさせていただきます」
◇
「これお前が行くやつじゃね?」
渡辺の住む官舎で、TVから繰り返し流れる官房長官の会見を見ながら、同居人が言った。
「ああ、うん。それそれ」
渡辺は鞄に服を詰めながら言った。
「着替えとかどうすんの? 30日も行くんだろ?」
「補給班が回収して洗ってくれるらしい」
「3食・家事代行付きか。楽しそうな出張だな」
同居人はテレビに目を戻した。
「これのせいで隣の部署の人、検疫のルール作りとかで死にそうな顔してたぞ」
そこにもう1人の同居人が割って入った。
「渡辺、レアアースか石油ないか探してきてよ」
「うわ、総理と同じこと言うやついた。今回は、ひとまず言葉が通じるようになるところまで」
「つまんないの」
「虫除けとか買った方がよくないか? 草原なんだし」
「確かに。あと日焼け止めか」
「帽子は?」
「入れとく」
「お菓子とか?」
「お菓子までは支給されないか。あ、ボールとかあったら現地の子供と遊べるかな」
「勝手に物渡していいの?」
「ダメな可能性が高い。一応持ってくだけ持ってくか」
「林間学校に行く小学生みたいになってきたな」
◇
渡辺は翌朝7時半に白金高輪駅に降り立った。
官房長官の会見をうけて注目度が上がったらしいことが肌で感じられた。頭上をヘリコプターが複数飛んでおり、建設現場の入り口は幾重にも報道陣が取り囲んでいた。
渡辺は四方から向けられるカメラを避けるようにして、建設現場に入った。ゲートの周囲は大型の仮設テントと防炎シートで覆われ、上空から内部を撮影できないようになっていた。
接触班と警護班で簡単なブリーフィングを済ませると、渡辺は高機動車に乗せられた。
高機動車がゆっくりと動き出した。
渡辺は窓から後ろを振り返った。白金高輪駅前のビルが目に入った。
車体がゲートをくぐった。
読んでいただき、ありがとうございます!
評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!




